49 前魔人王の日記
忙しくて全然更新できませんでした。
大変申し訳ございません。
「こ、これは・・・」
その後に綴るはずだった言葉がなかなか出てこなかった。
それもそうだろう、この日記に記されている一ページ目の内容があまりにも衝撃的過ぎたのだから。
--これって・・・本当なのか・・・?
そこに書かれていた内容を端的に言うとーーーーなんと俺に実の姉が存在していたということだった。
正直な話、この日記に書かれた内容が本当かどうか疑わしくなってきていた。
だってそうだろう?
俺と同じ血を持つ魔族がこの魔界に存在しているのだといきなり突きつけられたのだ。
こんな飛び抜けた話を鵜呑みにできるほど、十歳児である俺だってそこまで馬鹿じゃない。
でも、一ページ目には前魔人王と母さんの間で生まれた姉の話が余白を残すことなくびっしりと書かれていた。
ーー前魔人王の脳内で作り上げられた妄想世界なのか?
この日記の、しかも一ページだけではあまりにも情報が少なすぎる。
どうやら先を読み進めて行く必要がありそうだ。
「魔人王様・・・? いかがなされましたか・・・?」
「いや、何でもない」
「顔色が優れていないので心配しました・・・日記の中には何が書かれていたのでしょうか・・・?」
「いや、俺にもよくわからなくてな。前魔人王の妄想を綴った日記なのか、それともそうじゃないのか」
「妄想を綴った日記・・・ですか。それはそれでかなり気になりますね」
まあ、魔族を恐怖の化身として統率していた前魔人王の妄想日記となれば誰だって見たくなるものだ。
だから俺はサリカたちに読み進めた日記の一ページ目を伝えることにした。
「なんか俺に実の姉がいたっぽいんだよな」
「実の姉って、ルシフェオス様のお母様と前魔人王様の子ってことですか?」
「まあ、実の姉だから・・・そうだな」
「ルシフェオス様、お姉さんがいたんですか?」
「それはこっちが聞きたいところなんだが、どうやらサリカも知らないようだな」
この場にいる兄姉の中で最年長のサリカがそう言うんだ、ただの虚像でしかないのだろう。
そして、再び日記の二ページ目へと視線を移したその時、視界の片隅で不穏なオーラを漂わせながら険しい表情を浮かべている彼の姿が目に入った。
「ゼレード、どうかしたか?」
「あ、え、い、いや、何でも・・・」
「いやいや、何でもないようには見えないんだが」
隣にいるノンが物珍しそうに目を丸くしながら首を傾げてゼレードのことを見ているのだから、嫌でも彼が何かを隠しているようにしか見えなかった。
「ゼレード・・・魔人王様の御前で黙秘はあってはならないことだ・・・何かあるなら素直に話せ・・・」
「あ、いや、その・・・」
ゼレードの態度から何となく予想は付いてしまうが、ここは率直に尋ねた方が彼も返答しやすいだろう。
俺は事の真実を知るべく、身も蓋もなく彼に尋ねた。
「ゼレード、正直に答えろ。俺には姉がいるのか?」
「・・・・・・」
数分にも渡る長い沈黙が『魔人王の玉座』に流れる。
今までの体感で言えば数分なんてあっという間だったのに、数分という単位を待つのがこんなにも長く感じたのは生まれて初めてだった。
そしてその長い沈黙に終止符を打つように、彼は黙ってコクリと頷く。
これでようやくこの日記の真偽がはっきりした。
どうやらこの日記は前魔人王の妄想記ではなく、本当に遭ったことが綴られた日記だったようだ。
「そうか、俺に姉がいたのは本当だったのか」
「はい、真実でございます・・・」
「でも、お前は俺が聞かなければずっと黙っているつもりだったよな? それとその曇った表情と何か関係あるのか?」
「それは・・・その・・・」
「俺が自ら聞かずとも、次に何を聞きたいか分かるよな? もし、また黙り通すつもりがあるのならやめた方が良いぞ。「嘘壊」で強制的に喋らせることも可能だからな」
信頼してくれている従者に乱暴な真似は極力控えたいのだが、こうでもしないと今の彼が簡単に口を開くとは思えなかった。
下唇を噛みしめながらも己との葛藤を繰り広げている彼を見ていると、とても心が締め付けられるような気持ちになる。
答えは明白、彼の表情と態度が全てを物語っているのだから。
歯切れが悪いと言うことは、善の存在か悪の存在かのどちらかと言えば当然後者だ。
彼は恐らく、俺の姉の存在を思い出したくもないのだろう。
だが、彼は己の中に支配し続ける恐怖に覚えながらも力強く噛み締めていた下唇をゆっくりと解いていく。
「わ、分かりました・・・出来る限り全てをお話しします・・・」
そして彼の口から飛び出した衝撃の事実にこの場にいる皆が言葉を失った。
「実はルシフェオス様のお姉様、べディーネ様は第一王子であったガイオスが生まれる前に前魔人王の手によって封印されました・・・」
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『魔人王の玉座』には数分以上もの長い沈黙の時間が流れ続けていた。
まあそうなってしまっても仕方がないだろう、実の姉が実の父親に封印されたとゼレードは公言したのだから。
でも、なぜ実の娘を封印する馬鹿な真似を前魔人王はしてしまったのか。
それとゼレードが恐怖する理由と何かしらの関係があるのか?
しかし、この日記には姉を封印する理由なんてどこにも書いていなかった。
時間を経過させていくように日記を一ページ、一ページと順にめくっていく。
それでもなお、そのような情報は一切記載されておらず、気持ち悪いほど娘を想っていることしか書かれていない。
一ページ目の文面から最後に至るまで、娘を大切にする前魔人王の姿が目に浮かんでくるのに、なぜ娘を封印するという真似をしてしまったのか。
日記の内容と起こしてしまった現実には明らかな矛盾が生じていた。
「日記の内容とゼレードの発言に明らかな矛盾があるんだが、それはどう説明するんだ?」
「そう、ですね・・・とりあえず、私が当時十五歳だった時の話をしましょう」
「・・・ちょっと待て、今何て言った?」
聞き間違えじゃなかろうか?
こいつは今、自分が十五歳だった時の話をすると言ったのか?
あまりにも自然に話すものだからついサラッと流すところだった。
そして、どうやら俺以外の兄姉たちもつっこまずにはいられなかったようだ。
「ゼレード・・・お前は確か今年で・・・」
「はい、私は今年で三十五になります」
「ちょっと待って、ってことはルシフェオス様のお姉さんっていくつなの?」
「私の一つ上で、今年で三十六だった気がします」
「いや、お姉さんどころか普通におばさんじゃん!」
カレアマキナの失礼極まりない発言を機に、『魔人王の玉座』が一気にざわつき始める。
まあ、二十歳をも超える年の差に驚きを隠せないのは無理もない話だろう。
俺が十歳で姉が三十六歳、普通ではあり得ない年の差姉弟だ。
それなのにどうして、どうしてゼレードの表情から驚きの感情が飛び出してこないのだろうか。
二十近い年の差姉弟はそこまで珍しくないとでもいうのか。
しかし、サリカたち兄姉やノンの顔色を窺えば滅多に起こり得ない珍事なのは確かだ。
「まさか、ガイオスよりも年上の姉兄がいたとは未だ信じられない・・・」
「だが、日記の中身が真実だとゼレードはこの場で公言した・・・信じる他ないだろう・・・」
「でも、今まで小耳に挟むことがなかったのはどうしてでしょうか? やっぱり封印された理由と何か関係があるのですか?」
サイスノールカの疑問も御尤もだ。
封印されたとなれば何かしでかした奴に違いない。
そうならないためにも、他の王子王女に言い聞かせるのが普通の成り行きと言えるだろう。
なのに、小耳にすら入らなかったのにはそれ相応の理由があるはずだ。
王子王女の疑問を代弁した彼女に応えるべく、ゼレードは重たそうな口を開いたり、閉じたりと幾度となく繰り返しながらもゆっくりと言葉にした。
「こ、小耳に挟まなかったのは、単純に封印された理由を口外することを禁じられていて、次第に彼女のことを口にする者がいなくなったからかと」
「それじゃあ、サイスノールカの質問に答えたうちに入らないな」
「ですね、そんな弱い理由付けじゃ私たちは納得できませんよ。私たちが知りたいのはその封印された理由と今まで耳にしてこなかったことの関係性ですから」
「確かにお前の言う通り、姉であるべディーネの話を持ち出すことを禁じられていたのかもしれない。だがな、それじゃあ封印された理由と知らなかった事実が明らかに矛盾してんだよ。この日記にしたってそうさ、べディーネが何をしでかしたか知らんが封印された理由と前魔人王の気持ちが食い違ってんだ」
「そ、それは・・・」
「あ、あの・・・! 私からもお願いします・・・!」
俺とゼレードの会話に割って入ってきたのは、この場にいる誰よりも気を遣ってしまうノンだった。
「ノンさん・・・?」
「わ、私も、そのべディーネ様のことを知らなかったので・・・その、なんで封印されてしまったのか聞いてみたいと思ったのですが、ダメでしょうか・・・?」
そして、ノンは緊張を瞳に宿しながらもゼレードに思いを綴る。
「この日記が魔人王様に渡されたってことは、サリカ様たちが治せる可能性をべディーネ様が持ってるってことですよね・・・? だったら迷う理由なんてどこにもないじゃないですか・・・」
「彼女の話をするなら一向に構いませんよ? ですが、封印された理由だけは死んでも口には出せません」
「ノンさんにここまで言わせるなんて、ゼレードさんって情けないおっさんだったんですね。正直幻滅しました」
「わ、私はまだ三十五歳です! それに私はルールに沿ってるだけであって・・・」
「ゼレードって実は馬鹿だったんですね、もっと頭の良い方かと思っていました」
「サリカ様、私は別に馬鹿じゃなくって堅実にルールを守っているだけであって・・・」
「だから馬鹿だと言ってるんですよ」
ゼレードの言葉を遮るように馬鹿だと断言するサリカ。
それに便乗するようにセモンが言葉を重ねる。
「ルール、ルールとお前は言っているが・・・それはいつのルールの話をしてるんだ?」
「そ、それはセモン様たちの前魔人王様との約束で・・・!」
「今の魔人王はルシフェオス様だ・・・前魔人王との約束など、死したその瞬間に全てが無効になったはずだ・・・それでも納得いかないのなら、ゲガルドに聞いてみるんだな・・・」
「聞いてみるって一体何を・・・?」
俺はあの場にいなかったゼレードが知らないのも当然だ。
あの日、前魔人王が残した〝遺言書〟の内容をーーーー
「前魔人王が〝遺言書〟を残してこの魔界から去ったんだ。『魔人族を統べる全ての権利を俺に託す』ってな」
「そんなことが・・・」
「俺が魔人王になった今、そんな約束などこの魔界には存在しない。それにゼレード、べディーネを知っている奴はこの場にはお前しかいない。お前はサリカたちを救えるかもしれない唯一の存在ってことを自覚しないといけない」
「わ、私がセモン様たちを・・・」
「そうだ、だからもうこれ以上の言葉はいらないよな?」
ゼレードは一度深呼吸すると、意を決したように口を開いた。
「分かりました、全てをお話します」
そして、姉であるべディーネが封印された理由がついに明かされる。
次回の書き方は、ゼレードが十五の時だった頃を書くので一人称から三人称視点で書く予定でいます。




