宝箱探しゲーム 4
「まずは自己紹介をしましょう」
口火を切ったのは、黒髪をストレートに腰辺りまで伸ばした少女だった。
彼女もまた、高校生くらいの容貌をしていた。波打つような襟と、柔らかそうな素材のブラウスを着ている。スカートは膝下で、銀のネックレスが首元で光る。身長は私を除くとこの中で一番小さいが、どことなく雰囲気のある少女だ。
彼女は薄い胸に手を当てて、全員を順繰りに見ながら言った。
「わたくしはうづき流流です。ひらがなの『うづき』に、流れるを二個書いて『るる』。よろしくお願いいたします」
わたくし……わたくしときたか。
イメージとしてはお嬢様くらいしか使わない一人称だが、わざわざ突っ込んだりはしまい。デビュー前からキャラクターを作っているところは、むしろ見習わなければならないポイントですらある。
うづきちゃんが自己紹介を終えたタイミングで『チーム・ゾディアック』も動きを見せた。
眼鏡をかけた女性を先頭に、ラウンジから退出していく。早速宝箱を探し始めるのか、場所を改めて自己紹介をするのか――どちらを選択したのかは知り得ないが、彼女たちは振り向くことはなかった。
敵となってしまった彼女たちの背中を見送る。
味方になる未来もあったのだろうか、なんて木偶な考えを脳漿に浮かべた。まったく無駄な思考だ。味方にはなれなかった、それだけの話。敵になってしまった以上、倒すしかない。そうでなければ、恋詩ちゃんを負かしたことに対する一貫性が取れない。
……ああ、なるほど。
彼女たちが振り向くことなくラウンジを後にした理由がふとわかった。
私たちの自己紹介を聞きたくなかったのだ。敵もまた、同じ夢を追いかける人間だと知りたくなかった。後顧の憂いなく、蹴落とすために。
「自己紹介を続けましょう」
うづきちゃんが言った。
「大回転式で行きましょうか。自己紹介をした人が、次に自己紹介をする人を指名するルールで。じゃあ、次、あなた」
うづきちゃんが指定したのは金髪の女子高生だった。
近くで顔を見ると、なかなかに可愛らしい。改造した制服にルーズソックス、赤いアイシャドウを使ったメイクはイマドキの女子高生そのもの。私も二年前までは女子高生だったはずなのに、私と彼女の間には雲泥の差が歴然と横臥していた。
女子高生は溌溂と手を挙げる。
「はーい。星海那由多でっす。よろしくお願いしまーす」
ノリが軽い。
軽いというか、チャラい。
そしてそれ以前に、声がかわいい。猛烈にかわいい。純然たるアニメ声だ。
私がこのオーディションの審査員だったら、もうその声を聞いただけで合格にしてあげたくなるような、声そのものの質を問うなら、恋詩ちゃんを凌ぐかもしれないと思わされるほどの声だった。
「じゃあ次、妊婦さんで」
星海ちゃんが指定したのは、淡雪さんだった。
彼女は少し戸惑ったようにしたあと、躊躇いがちに口を開く。
「淡雪朋絵です。たぶん、この中だと最年長かな? 頼りのない最年長だけど、よろしくお願いします」
オーソドックスな自己紹介をした淡雪さんは、私に視線を向ける。
大回転。
私にパス、という意味だろう。
「桧山うちなです」
名前だけ言った。
名前を言えただけ、自分を褒めてあげたいくらいだった。
あまり衆目を集めても追い詰められるだけなので、私は早々に次を指名する。
「えっと……じゃあ、次、お願いします」
私が視線を向けたのは、ロッキンな少女だった。
アシンメトリーな髪形に紫色のメッシュを入れている。バンドTシャツに黒のパーカー、ジーンズというシンプルな恰好ながら、モデル並みに長い脚のせいか、非常に耳目を集める容姿をしている。右耳にだけ着けた金色のカフスも、彼女のアンダーグラウンドな存在感に輝いていた。
切れ長の目はどことなく妖艶で、視線を交わすだけで甘く痺れてしまう。
「ウチは荊木アザミ。ま、よろしく」
そのハスキーな声からは、サバサバとした印象を受ける。
あまり人好きのしそうな感じはしないが、私はかなり好印象だった。本当は、こういうタイプの女性になりたいのだと思う。
オドオドとしているのではなく、サバサバとしたい。
そんなことを考えながら、最後の一人に視線を向けた。
消去法で彼女がカレン・ユースティティアだということはわかっている。
名前の印象とは違った見た目だが、美少女であることは間違いなかった。丸い瞳、小さな鼻、形の好い唇。泣き黒子が印象的な、整った容貌。
ウェーブのかかった茶色い髪を後ろで一本に纏めて、きっちりメイクを施したその風貌は星海ちゃんと同じくイマドキを感じる。レースのあしらわれたTシャツは襟が大きく開いていて、胸元が見えそうでこっちがハラハラした。
「ん、あ、わたしの番ですか?」
と、彼女は惚けたように自分を指さす。
どことなく芝居がかったわざとらしい仕草だが、邪気は感じない。むしろ、くしゃっと崩した相好からは愛嬌すら感じる。
「いやー、まさかオオトリを任されるなんて。やだな皆さん、わたしを緊張させるのがお上手なんですから。わたしを緊張させても、なにも出てきませんよ。なにも出てこないし、なにもできません。わたしにできることと言ったら、口から鳩を出すことくらいです――カレンです。カレン・ユースティティア。あ、ちなみに、ユースティティアというのは正義という意味のラテン語です。正義の味方を志すわたしにこれよりピッタリな名前はないと自負してます。自分に負けるようなわたしではありませんが」
非常に、そして異常に長い自己紹介だった。
空気と状況を解して、ひと言で締めてほしかったところではあるけど、まあ、お陰で彼女のキャラクター性を掴めたのでよしとしよう。関わってはいけないタイプの子だということがよくわかった。
口から鳩を出せる女とは仲良くなるな、とは死んだおばあちゃんの遺言である。
これにはうづきちゃんも辟易だったようだが、彼女はすぐにリーダーシップを取り戻して柏手を打った。その破裂音に、弛み始めていた空気が入れ替わる。
「それじゃあ、まずは全員で館の中を詳しく調べましょうか。そう簡単に見つかるとも思えないけど、宝探しの鉄板はやっぱりブルートフォースですから。わたくしはこのラウンジを探索します。星海さんは食堂を、荊木さんは遊戯室を、桧山さんはキッチンとバーカウンターを、カレンさんは大浴場を捜索してください。それから、淡雪さんは……」
「お気遣いありがとう。でも、大丈夫よ。あたしは二階を捜索するわ。妊婦の適度な運動は、むしろ推奨されているから」
「そうですか。では、各自一時間を目安に探索しましょう。宝箱の形状が明言されていない以上、極端に小さかったりそうとは見えない形をしている可能性があります。皆さん、見落としには充分に気を付けてください」




