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モラトリアムカラオケ 0

「もう、そんなに泣かないでよ」


 待合室に、甘いアイドルの声がぽつりと置かれる。耳が蕩けそうなほどに甘い声だけど、その程度で乙女の涙は止められない。

 負けてしまった。これよりないほどすっきりと。気持ちいいくらいに純粋な実力で。いっそ晴れ晴れしいくらいの惨敗――いや、快敗だけど、それでも悔しいものは悔しい。堪えようとしても、目頭の熱は抑えられない。

 まさか予選で負けるなんて思っていなかった。というか、デスゲームに予選があるとも思っていなかった。足元の小石に躓いた感覚である。いや、足元の小石なんて表現すると対戦相手に失礼か。


 彼女を。

 予選の対戦相手として選ばれた少女を見る。きっとこうして言葉を交わすのも最後になるだろうと心のどこかで思いながら。

 年下の女の子だった。侮ったつもりはなかったけど、自分より若い子に負かされるのは、やっぱり辛い。辛いし、悔しい。けど、頑張れよと思う。私を負かしたのだから、きっとこの後の本戦も勝ち上がって、素敵なVTuberとしてデビューしてくれと思う。まさかこの私が、そんなスポ根少年みたいな思考をすることになるなんて。

 笑えてしまうほど晴れがましくって、涙が出るほど、やっぱり悔しい。


「ねえ、うちなちゃん。私、これからも頑張るから。きっとうちなちゃんの期待に応える。だから泣かないで」


 洟を啜って、涙を堪える。


 勝っても負けても、最後は握手で終わることに決めていた。だから、私は手を差し出した。彼女は少し訝しがったあと、意図を察して私の手を握り返してくれた。心の温かい人は手が冷たいという俗説があるけれど、そんなの嘘だと確信できるくらい、彼女の手は温かかった。


 あーあ。

 結局、なれなかったな、VTuber。好きだったのに。憧れだったのに。なれなかったな。


 ……残念だな。

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