第98話 挟もう
さて、何を作ろうか。目の前にあるいくつかの缶詰めを見つめながら日野は悩んでいた。
何かあるものでご飯を作ると言ったまではよかったが、そんなことをした経験は無い。今まで、弁当を買うかどこかで外食をするかの二択という人生を送ってきたのだ。
自分の中に空前の料理ブームが三ヶ月ほど訪れた時に、唯一作ることができるようになった肉じゃが、カレー、シチュー。しかし、それらを作るだけの材料は今ここに無い。
「でも一応、野菜とハムはある」
ふむ、と顎に手を当てて考え込む。すると、パンがまだ残っていることに気が付いてハッと顔を上げた。
「挟もう」
素晴らしいアイデアだと言うように袖をまくると、手を洗ってサンドイッチを作り始める。そんな姿を、心配そうに見守られていることに、日野は気付いていなかった。
「日野さん、不器用そうですけど大丈夫でしょうか」
お腹が空いたと言ってみたは良いが、後ろ姿からもぎこちなさが伝わってきて心配になる。
「大丈夫だよ、ショウちゃんいつもおにぎり作ってくれるし」
「おにぎりはアルでも作れるでしょう」
そう言いながら、ネズミが小さな両手で丸いおにぎりを作っている姿を頭に浮かべた。
「あ、前にジャガイモとかを煮たやつも作ってくれたよ。あれは美味しかった」
その時の味でも思い出したのか、そう言ってニコニコと笑うハルは、まだアイザックの手を握っている。
フッと小さく息を吐いて、アイザックは上体を起こした。繋いでいた小さな手を離すと、柔らかい頬を両手で掴む。
「大丈夫、私は死んだりしませんから。それとも、私がそんなに弱い男だと思いましたか?」
ハルが驚き目を見開いていると、頬を掴んでいた手が離れ、頭をポンポンと撫でられた。
「ううん。でもザック先生……」
大きな手の温もりを感じながら、ふと見上げたアイザックの笑顔と、亡くなった父の顔が重なる。
髪の色も、目の色も、何もかも違う。しかし悪戯っ子のように笑うその表情がどこか似ていて、思わずハルは口角を上げた。
「どうしました?」
「なんでもな〜い! グレンが帰って来たらボク達はルビーちゃん達を探しに行くんだから、それまでに治ってね」
「さすがにそれは……私も一応普通の人間ですから」
体は傷だらけ、動けば当然痛い。普通の人間である以上、日野や刻のようにはいかない。だが、まだ生きている。
命があるだけで、幸せなのだ。
たわいない会話で笑いながら、束の間の休息を楽しむ。時間が過ぎるのが、とても早く感じた。
しばらくすると、日野が出来上がった料理を運んできた。何とか形になっている不揃いなサンドイッチ。やり遂げたと言わんばかりに少し満足気な顔をしている日野が可愛らしく見える。
気付けば、こんなにも沢山の表情を見せるようになった。気にしていなければ分からないくらい微かな変化ではあるが、それでも少しずつ変わってきていた。
「どうでしょうか?」
近くのテーブルに置かれたそれを食べ始めると、日野が顔色を伺っている。
「ショウちゃんのサンドイッチ美味しい〜」
「美味しいです。ありがとうございます」
「挟んだだけですからね、自信あります」
二人の感想に、日野はキラキラと目を輝かせる。
少しは役に立てただろうか。いつも、守られてばかり。みんなの優しさに助けられている。サンドイッチには、ありがとうをたくさん込めた。帰ってきたら、グレンにも食べてもらおう。
ローズマリーさんと、ルビーちゃんも今頃お腹を空かせているだろうか……。
行方の分からない二人の顔が頭に浮かぶ。楽しかったお祭りがこんな風になってしまうなんて。窓の外を見ると、まだ辺りは暗いまま。シトシトと降り続く雨が窓ガラスに当たり、流れ落ちていく。
今はグレンの帰りを待つしかない。落ち着かない気持ちを抑えながら、日野はモグモグとサンドイッチを頬張る二人に紅茶をいれた。
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