序章-prologue-
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序章-prologue-
‐人間が神のしくじりにすぎないのか、神が人間のしくじりにすぎないのか―
‐ Friedrich Wilhelm Nietzsche 「Morgenröte」より‐
一条の光も射さぬ昏い空間にけたたましい金属音が響き渡ると、ああこれは夢なのだ、とふと「俺」は気付いた。どういうわけかはわからないが、暗闇の中にあって響く音への既視感があった。音は段々と大きくなり、夢の中で姿が見えない「俺」の耳を劈かんばかりであった。何も視えない漆黒の帳に眼を凝らすと、一人の異形の者と、四人の人影とが激しい戦いを繰り広げている姿が浮かび上がってきた。
「滅せよᛞ ᛁ ᚾ ᚷ ᛁ ᚱ!!!人の世は人に依ってのみ治められるべきだと何故理解らん!!!」
煌びやかな冠を揺らし、髭をたくわえた大柄の男性が剣を振るいながら叫んだ。人のようにも見えるが、その剣から繰り出された恒星の如き光の圧力が、彼が人智を越えた存在、即ち神であることを示していた。
「おおぉぉマルドゥク!!!何故理解らん!!この世の支配者足るは人ではなく神であることを!!!」
異形の者が叫び、掌らしきものを前方に掲げ闇を放つ。放たれた闇は永遠に蓄積された怨みを晴らすかのように目前の光を飲み込もうと巨大化し、光と闇とが激しくぶつかり合った。
マルドゥクと呼ばれた男性神の周囲には更に三つの人影が見える。彼らは各々が、マルドゥクが放った光の衝撃波をより強大な物とすべく、自身の力を奮っていた。中性的な少年の姿をした者、艶やかで気品のある美しい女性の姿をした者、静謐な佇まいの青年の姿をした者。彼らもまた、光を放つ男性神や闇を放つ異形神と同様、人智を越えた存在であることに違いなかった。
「聞けᛞ ᛁ ᚾ ᚷ ᛁ ᚱ!!!神々の時代は終わったのだ!ここで我らのどちらかが勝ち、各々の望む世界を創り上げたとしても!そのどちらもが人間からしてみれば神に創られた箱庭に過ぎないのだ!なればこそ神々は人の手により打ち倒されなければならない!人は神を殺さなければならない!だが貴様の望む世界は、その機会を、その芽を、その産声さえもっ!一切無き隷属の世界!それだけは為してはならんのだ ᛞ ᛁ ᚾ ᚷ ᛁ ᚱ!!!」
マルドゥクと呼ばれた男性神はそう叫ぶと剣に更なる力を込めた。それに呼応するかのごとく、三人の神々も力を振り絞り、彼の放った光はより力強さを増して異形の神が放った闇を掻き消そうとする。
「マルドゥク!!ならば神とはなんだ!絶大なる霊力を持ち、悠久の時を流離い、深遠たる知識を持ちながら!ただ矮小なる人の子に滅ぼされるのを待つのみなのか!!!応えよマルドゥク!!!」
圧され始める異形の神の、それは哀願にも似た叫びだった。
「神の力を奮わば世界が歪む!知を示せば世界が歪む!姿を晒せば世界が歪むのだ ᛞ ᛁ ᚾ ᚷ ᛁ ᚱ!!!神はただ在るだけで善い!!」
「懦夫なり太陽の獅子よ!人が人によって世を治めようとも、いずれ必ず世界は歪む!神の支配による静寂の世界!それが世の在るべき姿なのだ!!!」
「愚神が!人の手による歪みは歪みではないのだ ᛞ ᛁ ᚾ ᚷ ᛁ ᚱ!!!初めは親であり、次は杖であり、終わりは光となる、それが神だ!!!これからの人の世なのだ!!」
異形の神が放った光は掻き消され、彼の身体の一部が光に触れると、立ちどころにその部分は消滅してしまった。もはや彼にこの光を支えるだけの力は残されていなかった。彼の敗北は決定的だったが、しかし再び異形の神は叫んだ。
「ヌグゥゥゥゥゥハハハハ…!我は…予言しよう……!!いずれ我の遺志を継ぐ者が………人の世から生まれ出ずることを…!!グググ……グハハハハハハハ!!!」
異形の神の姿は、世界を呪う呪詛と共に虚空の闇に消えた。




