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奇聞集  作者: keikato
79/79

79 見える人

 この話は私の古くから知人である八坂神社の神主さんが、前回の『死期を告げる』に続いて、自分が聞き知った不思議な話をメールで送ってくれたものである。

 今回もそのメールに沿って話を進めていく。


 今回のメールの内容。

 この話は、私よりひとつ年下の和子さんという人から聞いたことです。

 彼女はかれこれ九年間、朝の新聞配達を続けています。

 雨の日も雪の日も、大風の日も、早朝一時半に起きてウオーミングアップの後、三時半頃に販売店に行って新聞を配ってまわります。

 配達する地域はずいぶん田舎で、家が一軒一軒離れているし、山奥にも配達先があるし、まだ暗い中を車で走るのはとても勇気がいるそうです。

 そんな彼女はとても霊感が強い人で、新聞を配る間に、普通の人には見えないものを見てしまうのだそうです。

 例えばです。

 ついこの前は、亡くなったばかりの顔見知りのおじさんが暗い中を普通に歩いていたので、彼女が「おはようございます」と声をかけると、ふつうに挨拶を返してくれたそうです。

 またお盆のときには、若くして亡くなったある家の長男さんが、じっと玄関先に立っていました。そして一番身震いしたのは、その長男さんは足から上がなく、足だけが歩いていたときだったそうです。

 幽霊を見たことで自分に何か悪いことが起きるわけでもなく、ただ見えてしまうのだと、彼女は淡々と話していましたが……。

 その和子さんに昨日もお会いしました。

 霊感は小さい頃はまったくなくて、新聞配達を始めてから感じるようになったそうです。

 幽霊を見ても、「おはようございます」と声をかけることはできるそうですが、前述のおじさんのように返事をしてくれることもあれば、黙ったままスウーと消えてしまうこともあるそうです。

「怖くないの?」

 私がたずねると、「やはりなれかも……」と言っていました。


 ここからは私の推測ですが、霊にも声をかけることができる彼女は、きっと霊感がとても強い人なのだと思います。

 そして彼女には、この世から離れられない霊の迷いも未練もはね返せる力があるのでしょう。そうでなければ、やはり霊に引きずられてしまうでしょう。

 霊に引きずられるというのは最悪の場合、命を落とすことになりかねません。また病気になる、事故に遭う、家の中がごたつくなどの霊障が出る場合もあります。

 それで私は彼女に、常に粗塩を持っていて、自分を祓ったほうがいいよとアドバイスしました。

 ただ彼女はお祓いには意欲的で、自分の家にも盛り塩をしているそうです。やはり少し気にはしてるようですね。もちろん彼女は八坂神社の氏子さんです。

 また彼女の実家は、村でただ一軒の酒屋兼食料品店で、彼女も日中はそこで配達をしたり店番をしたりして働いており、村の人のことならほとんど見知っています。だから霊も、和子ちゃんならと安心して現れるのかもしれません。


 世のなか、霊が見える人見えない人、怖い人怖くない人、いろいろいるんですね。

 彼女からこの話を聞いたとき、私はビビリのヘタレですから、たとえ神主であっても怖くて無理だと思いました。

 相手が神様のお姿ならまだしも、幽霊だけは絶対いやです。それがたとえ身内であってもです。


 余談です。

 和子さんの実家は酒屋兼食料品店ですが、彼女は近くに嫁いでおり、そこを経営している姉夫婦を毎日手伝っています。

 そんなある日、もうどうしようもなく胸がバクバクしたことがあるそうです。

 それは、とある地区でのこと。

 そこはけっこう鬱蒼とした森に囲まれた所なんですが、あるとき白い着物に髪をざんばらにしたおばあさんが飛び出してきて、両手でおいでおいでをされたそうです。

 このときばかりはさすがの彼女も、悲鳴をあげて車で逃げたといいます。

 しばらくして戻ってくると、そこには何と警察の人がいて、その件は近所に住む認知症のおばあさんの徘徊だったとかで……。

 和子さんいはく。

 どの幽霊より一番怖かったそうです。


 最後は何とも皮肉な話である。

 幽霊より生きている人間の方が怖いとは……。

 霊が見える人は霊が見えることになれ、霊と共存しているような状態なのであろうか。

 作者はこの神主さんに負けず劣らずビビリのヘタレなので、自分が見えない人であることを嬉しく思う次第である。

 幽霊が見える。

 何とも恐ろしく、そして何とも不思議である。


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