46 解剖
この話は中学校で理科を教えているAさんの学生時代の体験談である。
時期としては平成二十年頃のことになる。
Aさんの大学の構内には、解剖実習の専用プレハブ小屋があった。
解剖に使う小屋だけに構内の片隅にあり、その周囲は木々の緑で囲まれていたそうである。
不思議なことを体験したのは、Aさんが友人と二人で小屋の中にいたときのことだった。
その日。
二人はそこで魚の解剖をしていた。
そんなとき。
ドン、ドン!
小屋の壁が強く叩かれた音がする。
訪問者かと思い戸を開けてみたが、そこには誰もいなかった。
戸を叩く音が大きかったので、二人は気になって小屋のまわりを一周してみたが、やはりだれの姿もなかったそうだ。
不思議なことが起きたのはこの直後。
それは小屋に入ろうとしたときで、Aさんの横を何かがすり抜けたように感じた。
そのとき。
そばにいた友人も同じことを感じたのか、二人はおもわず顔を見合わせたという。
「それからもっと奇妙なことがあって。テーブルに置いてあった解剖中の魚が消えていたんです」
小屋の中に置いてあったほかの魚も消えていたのだという。
あの時の感覚。
魚が消えたという事実。
何かがいたのだろうと考えるしかないのだが、そのものの姿は見ていない。
Aさんが当時を振り返る。
「それまで構内で猫なんか一度も見たことはないんです。ですから犬や猫じゃなかったと思います。あのときのこと、今になって考えても不思議でたまらないんです」
たしかに犬や猫などの小動物なら、壁を強くは叩かないだろうし、叩けないであろう。
が、何かがいたことはたしかである。
不思議なことがあるものだ。




