44 オルゴール
この話は、私が最近になって知り合った、Tさんという三十歳ぐらいの男性が小学三年生のときに体験した怖い思いである。
Tさんは昭和六十年生まれというので、それを体験したのは平成五年前後のことであろう。
その日の夜。
両親が不在で、彼は弟と二人で留守番をしていた。
そして十時頃のこと。
寝ようと布団に入ったとき、壊れたオルゴールがいきなり鳴り始めたのだそうだ。
「以前はゼンマイを巻くと一分ぐらい鳴ってたんですが、針が折れてからは音が出なくなって」
人形がついているようなものなら、オルゴールに何かいわくがあるかもと聞いてみた。
「どんなオルゴールだったの?」
「母が結婚したときに持参したもので、よく見る箱形のものでした」
「いつもどこに?」
「寝る部屋の飾り棚です。その部屋で家族そろって寝てたんですけど、そんなことは初めてだったんで、それはもうびっくりして」
「じゃあ、弟さんも聞いたの?」
「聞いたのはボクだけです。そのとき弟は、先に布団に入って眠っていましたので」
音楽がずっと流れ続け、ゼンマイの切れる一分どころか、いつまでたっても鳴りやまない。
――おかしい、そんなはずはない。
子供心に怖くてしかたなかった。
オルゴールを見にいくこともできず、そのまま布団の中にもぐりこんでいたという。
「で、ずっと鳴っていたの?」
「気がついたのは朝で、そのときはもう音はしていませんでした」
いつかしら眠ってしまったのだそうだ。
子供の頃の夢だったのかもしれない。
「夢だったんでは?」
私があらためて確認するに、
「ぜったい夢じゃありません。あのときのこと、はっきり覚えていますので」
彼はきっぱりと否定した。
「それで、お母さんはなんて?」
「あれは壊れているんだから、ぜったい鳴るはずがないって笑われました。今思い出しても、鳴った原因がわからないんです」
話す間、彼はしきりに首をかしげていた。




