第23話 俺は合法的な名目のもとに社員たちの生き血をすする
奪還計画のための莫大な裏金を作る。
その決意を固めた翌日、俺は創業時からの右腕である専務の山崎を執務室に呼び出した。
「山崎。来期に向けた経営の合理化案だ。目を通せ」
俺が机に滑らせた分厚い書類を見て、山崎の顔色がサッと変わった。
「社長……これは。第三営業所の統廃合に、全社員を対象とした早期退職の募集……それに、創業から付き合いのある下請け業者の契約打ち切りまで。いくらなんでも急すぎます。今のうちの業績なら、ここまで極端な人員整理をする必要は……」
「業績が良い今だからこそ、無駄な贅肉を削ぎ落とすんだ」
俺は感情を一切交えず、淡々と冷酷な言葉を紡いだ。
「時代は変わった。昔からの付き合いだというだけで、高い単価で発注し続ける義理はない。早期退職についても、割増の退職金はきっちり払う。去る者には手厚く、残る者には厳しく。それがこれからの生き残り策だ」
表向きは「経営の合理化」という完璧な大義名分。
だが、裏に隠された真の目的は、会社の資産を現金化し、巧妙に俺個人の裏口座へと横流しすることだ。
一等地の営業所を売り払い、人件費を削り、下請けを泣かせて浮いた利益を、ダミー会社を経由して吸い上げる。
法律の網の目をすり抜ける狡猾な手口で、俺は静かに、だが確実に会社の血肉を啜り始めたのだ。
「……社長。あなたは最近、どこかおかしい。まるで、何かに急き立てられているように見えます」
山崎が絞り出すような声で俺を睨みつけた。
その目には、長年仕えてきた主への深い失望と疑念が渦巻いていた。
俺の胸の奥で一瞬だけ罪悪感が疼いたが、すぐに冷たい泥のような感情でそれを塗り潰した。
「無用な詮索はするな。お前はただ、俺の指示通りに動けばいい」
冷たく言い放つと、山崎は深く頭を下げ、重い足取りで部屋を出て行った。
その日から、社内には重苦しい空気が立ち込めた。
長年会社に尽くしてきたベテラン社員たちが肩を落として去り、下請けの社長たちが青ざめた顔で頭を下げる姿を、俺はブラインド越しに冷ややかに見下ろしていた。
会社は俺の命を繋ぐための、ただの餌場だ。
俺が安らかに死ぬ権利を取り戻すためなら、何十人の人生が狂おうと知ったことではない。
「素晴らしい手腕ですね、社長。無駄のない、完璧な経営です」
背後から聞こえた須藤の嘲笑うような声に、俺は振り返ることなく、引きつる頬を必死に抑え込んだ。
(見ていろ須藤。この血塗られた金で、お前の息の根を止めてやる。)
俺は己の魂を悪魔に売り渡し、誰にも気づかれぬまま、底なしの孤独な戦いへと足を踏み入れていた。
続く




