プロローグ
公式主題歌 ➡ https://youtu.be/R1m5Y_FCjAc
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東京、恵比寿。
看板もない、会員しか入れないその店で、一番安いステーキでも5万円はする。
氷室 剛、65歳。独身
俺は今、その肉の脂をゆっくりとかみしめている。
口のなかに広がる、とろけるような肉のうまみ。
最高級の赤ワインをひとくち飲んで、俺はスマホの画面をタップした。
「今月の売り上げが目標にいってないな。お前、明日から会社にこなくていいぞ」
たった数回のタップで、使えない社員をクビにした。
ため息をつく暇もない。無能なやつらに払う給料ほど、無駄なものはないからな。
石川県の能登で、冷たい雨にうたれながら、泥水をすすっていたあの頃……。
あそこから這い上がってきた俺は、今や王様だ。
すべてをお金で支配できる。
だけど……。
少し硬い肉のスジをかんだとき、奥歯にツキッといやな痛みが走った。
「……チッ。この身体も、そろそろガタがきているな」
どんなにお金をかせいでも、「老い」だけはどうにもならない。
最近は、ベッドで女を抱くのも面倒くさくなってきた。
夜も、昔みたいにぐっすり眠れない日々が続いている。
俺の完璧な人生に、こんな不具合は許されない。
新しい「身体」がいる。
効率よく仕事ができて、老いる事のない、最強のパーツが。
だが、この時の俺は、まだ知らなかった。
たった1億円の「安物」を選んでしまったせいで、この大好きなステーキの味が、二度としなくなるなんて事を。
そして、「死ぬ事」すら許されない、永遠に眠れない地獄が始まる事を。




