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第3話:鑑定不能と、ギルドの戦慄


 アルスとリリスが辺境の街『リーフ村』に到着したのは、太陽が真上に差し掛かる頃だった。

 辺境とはいえ、街道の要所にあるこの村は活気に満ちている。石造りの素朴な家々が並び、広場では行商人が声を張り上げていた。


「なあ、アルス。本当にここでお前の薬を売るのか?」


 リリスが、大きなマントで黒い翼を隠しながら、不安げに小声で聞いてきた。魔王軍の幹部として恐れられてきた彼女も、今は正体を隠すただの美少女だ。


「うん。旅の資金も必要だし、僕の【調合】で作ったポーションがどれくらいで売れるか、確かめておきたくて。王都ではいつもレオンたちに渡していたから、実は市場価値を知らないんだよね」


 二人は村の中心にある冒険者ギルドの門をくぐった。

 建物の中は木材の温かみが感じられ、酒場からは昼間からエールを楽しむ冒険者たちの笑い声が聞こえてくる。


 アルスは受付のカウンターへと向かった。

 そこにいたのは、丸眼鏡をかけた知的な雰囲気の女性受付嬢だった。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか? 依頼の受注ですか? それとも、素材の買い取りでしょうか」

「あ、素材というか……自作のポーションを鑑定して、買い取ってもらいたいんです」


 アルスが腰のポーチから一本の小瓶を取り出すと、受付嬢の表情が少しだけ曇った。


「ポーション、ですか……。お客様、大変失礼ながら、現在は魔法使い様がその場でマナを注いで作る『魔法薬』が主流でして。アルケミストの方による手作りの品は、どうしても効果にムラがあるとされていて、二束三文にしかならないことが多いのですが、よろしいでしょうか?」


 受付嬢の言葉は、王都で言われたものと全く同じだった。

 魔法こそが至高で、地味な【調合】スキルは時代遅れの代用品。


 この世界を支配する「魔法>スキル」という常識が、ここ辺境でも根強いことを物語っている。


「はい、構いません。とりあえず、鑑定だけでもお願いします」

「かしこまりました。では、こちらの鑑定水晶にポーションをかざしますね」


 受付嬢が、慣れた手つきでアルスのポーションを青白い水晶の上に乗せた。

 通常なら、ここに『初級・回復薬』といった文字が浮かび上がり、それに応じたランクが判定される。


 しかし――


 水晶に液体が近づいた瞬間、まばゆいばかりの黄金の光がギルド内を埋め尽くした。


「な、なに!? この光は!」

「おい、何が起きてるんだ!?」


 酒場で飲んでいた冒険者たちが、椅子を蹴り飛ばして立ち上がる。

 光の源である水晶は、まるで太陽を閉じ込めたかのように激しく明滅し、激しく震え始めた。


 そして――パリンッ!


 鋭い破裂音が響き、鑑定水晶が粉々に砕け散った。


「えっ……? う、うそ……ギルドの鑑定水晶が、割れた……?」


 受付嬢の眼鏡が衝撃でズレ、彼女は震える手で砕け散った破片を見つめている。


「なにごとだ!? この騒ぎは!」


 奥の扉が勢いよく開き、白髭を蓄えた厳格そうな老人が姿を現した。この街のギルド長だ。

 彼は砕け散った水晶と、その中心に無傷で残された一本のポーションを見て、目を見開いた。


「おい、まさかこのポーションが原因か? 鑑定不能……いや、出力オーバーだと!? ギルドの水晶が耐えきれないほどのマナ密度だとでもいうのか!」


 ギルド長は、ひったくるようにアルスのポーションを手に取った。


「君か、これを持ってきたのは! いったいどこで手に入れた! 伝説の聖遺物か、あるいは古の賢者が残した宝物庫でも見つけたというのか!」


「いえ……さっきそこで、そのへんの薬草を混ぜて作っただけなんですけど」


 アルスが正直に答えると、ギルド長はガタガタと膝を震わせ、その場に崩れ落ちた。


「ただの薬草を……【調合】しただけで……魔法の極致を超えたというのか……。ば、馬鹿な……そんなことがあってたまるかーっ!」


 ギルド中が静まり返った。

 冒険者たちは口を開けたまま固まり、受付嬢は腰を抜かしている。

 ただ一人、リリスだけが「当然だ。私のアルスを誰だと思っている」と、マントの下で誇らしげに胸を張っていた。


 アルスはといえば、頭を掻きながら困った顔をしていた。


「あの、壊しちゃった水晶の代金、そのポーションで払えますか?」

「払えるどころか、これ一本でこのギルドが丸ごと買えるわっ!」


 どうやら、普通に暮らそうと思っていただけなのに、やりすぎてしまったようだった


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