計画84
トレント実験、1週間が経過。私は色々な条件下でトレント強化訓練を行いました。
ローガンさんが今日どのようになっているかの視察に来るのでとても楽しみです。
「王女。トレントの強化はどうなっている?」
「こんにちはローガンさん。待っていました。今日は私の成果をたっぷり見ていってください」
「ふん、このたった1週間でそんな大した成果は出んと思うがな。見せてみろ」
「それでは先ずはこちら」
私は最初のトレント強化体1号を見せた。
そのトレントは普通のトレントより枝の本数が多く、枝の太さも太い。
「このトレントは普通の水に魔力をできるだけ込め、その水を与えて育てたトレントになります」
「普通のトレントよりも強く、戦えそうだな。良い戦力になりそうだ。実戦はどうなっている?」
「はい。こちらのトレント、名前を強化トレントと呼びましょうか。この強化トレントに捕まれば通常トレントの数倍締め上げが強く、圧殺する力を持ちます。強度もそれなりにありますので脱出も困難。枝を鞭の様に使用されてはかなりの威力です」
「普通に強いな」
「しかし欠点があります」
「なんだ?」
「枝が増えた事により視界が皆無。敵味方関係なく自分の体の1部分に触れたら暴れる習性になったので、強化トレントを近く植えているとお互いに攻撃し合います」
「使えるかぁ! そんなの扱いが通常トレントより厄介になったではないか! こんな奴らこれ以上増やすなよ!」
「安心してください。目の前の1体のみしかいません。この強化トレントは他の強化トレントを倒した最強の強化トレントです」
「……とにかく増やすなよ、もう」
「もちろんです。失敗でしたから」
「次!」
フッフッフッ。私にはまだ実験体のトレントがいます。きっとローガンさんは驚くことでしょう。
「次はこのトレントになります」
「小さいな」
「命名、リトルトレントです。縮小魔法を使って小さくし、魔力をそこまで込めていない水で育てました。そばに寄ってみてください」
「足をペチペチ叩いてくるな」
「まだまだです。そのままじっとしていてください」
「俺の足の毛を引っ張っているぞ」
「枝が小さいので、掴みやすいのがきっと毛だったのでしょうね」
「で?」
「はい?」
「このリトルトレントはどう戦力になる?」
「このリトルトレントは揺動です。この見た目とこの構ってほしいという感じの枝を伸ばしてのペチペチや緩い締めつけ、勇者たちはかわいいって目が離せなくなります。その隙をついて仲間は殺し、勇者はとっ捕まえましょう!」
「王女」
「なんでしょうか?」
「リトルトレントはかわいいか?」
「問題点はそこです。見た目がどうしてもかわいくなく、どちらかというとブサイク。反応的には、なんだこの鬱陶しい雑草は! ってなりそうです」
「そうだな、まさに俺はそう思っている。破棄しろ」
「大丈夫です。私もイラッとして八つ当たりしていたら残り数体しかいないので」
「他のトレントを見せろ」
いよいよ最後の実験体トレント。このトレントはちょっとした自信作です。時間のかかったトレントですから、思い入れもあります。
「こちらへ。このトレントがこの1週間で最も大変で、手間のかかったトレントです。ですがその分私にとってとても大切なトレントでもあります。ご覧ください」
「普通のトレントにしか見えんが?」
「トレ爺、こちらは魔王の幹部の1人ローガンさんです。挨拶しないと」
「王女、お前は何を言って」
「ほっほっほ。幹部の方でしたか。初めまして、わしはただのトレントですじゃ。リーンちゃんからはトレ爺と呼ばれておりますのぉ。お見知りおきを」
「おい、トレントが喋っているぞ」
「はい。トレ爺は私が話せるようにしたトレントです! 残念ながら話せる以外は通常のトレントと同じですが、圧倒的な知識量やこの穏やかさはかなりの魅力ですよ!」
「また失敗か」
「待ってください! 失礼ですよトレ爺に対して失敗だなんて!」
「戦力にならんのなら意味がないだろうが」
「そんな戦力戦力ばかり言って、よく見てくださいよ。トレントが喋っているんですよ? とても凄いじゃないですか」
「リーンちゃん、落ち着きなさい。ローガン様の願いは魔王軍の戦力増強。わしが話せたところでなにも役に立てないのは事実じゃよ。もしそれでも悔しいと思ってくれるのなら、わしと一緒に他のトレントを強化する案を考え、貢献しようと思う。そうなればわしも知識の面で戦力と認識してもらえるじゃろう。これからじゃよ、頑張ろう」
「なんだこのトレントは! 自分の立場を理解しっかりとさせながらも将来を見据えるとは」
「トレ爺はとても知識量があると言ったはずです。通常のトレントが会話できないことに、どうしても私はもどかしさを感じました。ですので前に読んだ呪術本を思い出しまして、話せるようにしたのです」
「ちなみにどんな事をしたのだ?」
「必要なのはだいたい揃っていたので、勝手に使わせていただきました」
「お前! そういうのは許可とかを」
「安心してください。ちゃんと許可は取ってます。足りなかった素材回収のついでに」
「足りなかった素材とはなんだ?」
「知能の高く、魔力を含んだ魔族の血です」
「嫌な予感しかしないが、誰から提供してもらった」
「魔王」
「何をやっているんだぁ!」
「より賢く、成功率を上げるには魔王しか候補がいないでしょう」
「いないでしょう? じゃねんだよ。魔王様も何をなさっているのか」
ローガンさんの顔がとても疲れた顔になってしまった。たしかに最初の実験体1号と2号は失敗だったが、このトレ爺はこの1週間での唯一の成功なのに。
そもそもまだ1週間しか経過していないのだ、これからの実験じゃなかった訓練結果を楽しみにしてほしいものだ。
「この1週間での結果は以上になります。どうでしたか?」
「ああ、もうとにかく戦力になる奴を今度は見せてくれ」
「トレ爺、先程あのように言ったのですから手伝ってくださいね!」
「もちろんじゃよ、何から試そうかの」
うなだれて帰るローガンさんを無視して、私はトレ爺と楽しくまたトレント改造計画を話し合うのでした。