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こんばんわ。生きています、今月中に完結する中編です。手直しをいれるかもしれません、突発ですがよければ。
―――人はどうすれば壊せるのだろうか。
「おかしいよ、警察にあの子を連れて行こう。あんただって見たでしょ、今朝血まみれで帰ってきたあの子。それでも傷一つなかった」
「お前はいったい何を考えている。正気とは俺は思えないな、その行動」
いらいらとした。血塗れで帰宅したから何だというのだろう。ちょっと血生臭いくらいで彼女を見捨ててたまるものか。
「そもそも、あんたが連れてきたよそ者じゃん」
手が出た。女性は傷つけてはいけないと思っていたはずだった。
「お前なにすんだ!!」
怒りのあまり伸ばされた手をそのまま引いて、旧友の後頭部に拳を落とした。
今の自分には幸せがどうしても認められなかった。
家を出た。友人としていたシェアハウスは思ったよりも早く終わりを告げた。実家にも帰るつもりはない。駅前のビジネスホテル、とりあえず3泊分とったその部屋に急いで戻った。
入ってすぐ誰にも見られぬようにとドアを閉めた。
「ただいま」
返答はない。
「冷たいな……リンゴジュース買ってきたけど飲む?それともなんか食べるか?おにぎり適当に買ってきた。昆布とかいける?」
「……あやさんと亮二くんは?」
「あぁ、知らねぇよ」
「なんで」
返答はしない。選択を後悔してはいない。
かろうじてコミュニケーションの取れる彼女は、それでも壊れていた。血の匂いのしたままの髪をそのままに布団に包まれている。血が固まっても気にしない、どうでもいいといったようだ。服は家を出るときに着替えさせた。彼女の意志はわからなかったが、彼女が人を殺したという確信を持って無理やりに彼女を脱がした。
恋とはなんだろうか。その人の幸せを望むことだろうか。その人を自分のものにしたいと思うことだろうか。その人の望みをすべてかなえようとすることだろうか。その人の味方で居ようとすることだろうか。その人の幸せに自分が関われないとき、どうしようもない嫉妬を抱えることだろうか。その人をうらやむことだろうか。愛とはなんだろう。愛情とはどういった情だろう。どのような他人に対して、人間はそういった感情を抱くのか。
「これから、どうするの。ついてこないで、ほしい」
「お前は死にそうな顔をしてるから」
「死なせないっていうの。綺麗事を並べる人、私あんまり好きじゃないって」
「知ってる。死ぬまで見ていようかなって」
自分の恋とは、純粋なものに抱く感情らしい。そこらの汚れた人間よりも、血塗れた彼女のほうが自分にはきれいに見えた。自分の愛とは、彼女に花を手向けることらしい。綺麗事は信じられない。
「勝手にすれば」
彼女の言葉に覚悟を決めた。
人は、どうやって壊れていくのだろうか。やはり、他意で壊れるのだろうか。それとも。
寝ている彼女をじっと見ていると気が付けば、眠りに落ちていた。目が覚めた時には隣に彼女の姿はなかった。焦りもなかった、知っていた。
彼女は復讐をしている。
毎晩のように、過去に彼女を虐めたクラスメイトを殺して回っている。それは別に昨日、突然起きたことではない。断言はできないが1ヵ月ほど前から彼女が計画していたものだ。それくらいから、彼女は少しずつおかしくなっていった。
殺すことで復讐になるわけではないのかもしれない。それ以上に苦しめることができるならそれが一番いいのだろう。それでも彼女は、殺すことで赦す決断をした。
殺すことで、自分を救う決断をした。
指を刺して笑うだろうか。情けないだろうか。心狭いと言うのだろうか。
「いじめられっ子、縛られ続ける」
世になんて羽ばたけやしない。捥がれたその羽でどう飛べるというのだろう、それこそ笑える話ではないか。
ペットボトルのお茶を飲み切って、潰した。羽を捥がれ、心を抉られる彼女を思い出した。
タバコに火をつけようとして、ドアが開く音がする。
「ただいま」
その声は昨日の彼女よりもしっかりとして、震えていなかった。
「今日は血塗れじゃないな」
「出たときは雨だったし、カッパ買った。それにホテルに入れないし、効率が悪い。汚い」
「汚いなんて思っていたのか。連れて行ってほしかったな」
彼女の表情は一瞬、驚きとほんの少しの明るいものに変わった。ため息をつく彼女はにぃっと笑って口を開いた。
「気でも狂ってる?」
「何日やるんだそれ」
返答を出すように、そう問いかける。
「このペースでいけばあと2日」
「わかった」
すれ違う彼女の頬には傷があった。抵抗されたのだろう。
「男はどうやるんだ」
「聞きたいの」
「教えてほしい」
何でも知りたかった。
「路地裏連れ込んで傘で喉一突き」
「物騒だ」
「物騒だね」
初日と違いシャワーを浴びた彼女は、力尽きたように眠った。人が死んだ日は月が綺麗なのだろうか。彼女と同じくらい、今夜も月が綺麗だった。雨雲も消えて、月だけが残る空を、カーテンを開けて眺めてそのまま眠りについた。
彼女とちゃんと話せたのは2日目だけだったことが先にわかっていたなら、もっと他の話もしていただろう。好きな食べ物を聞いていればよかった。
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あと2話。よろしくお願いします。