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高子と和枝の勝負 其の2

 遊と英子が異論を挟まないことを確認し、怜先生はさらに、高子と和枝の勝負のルールを決めていきます。


「それじゃあ、高子君、和枝君。先攻後攻はどうするね。落語、と言うかお客さんの前での発表会的なもの全般には、前座やら、トリやらあるからねえ。基本的には、やる順番が後ろのほうになるにしたがって、格が上ってことになるけど。ああ、年功序列の場合もあるね。ま、高子君と和枝君は、同学年だから関係ないだろう」

「あの、柄見先生」


 遊が、おずおずと意見を言います。


「おや、どうしたのかな、遊君」

「その、高子さんと和枝君の、落語の内容が全く一緒ということは、まずないでしょうけど。ネタがかぶっちゃったとかすると、初めにやった方が有利になっちゃうんじゃないかなあと、思うんですが……」

「お、いいところに気づいたねえ、遊君。でも、それなら心配ないよ。昨日の、高子君と和枝君からの電話で、話のあらかたの内容も聞いたからね。後の落語を聞いて、『前のやつとおんなじじゃーん』というようなことにはならないと、先生が保証しよう。とはいえ、遊君。いい指摘だったよ、どうもありがとう」

「いえ、そんな、恐縮です」


 遊が照れ臭そうにしていると、怜先生は、英子にも水を向けます。


「それじゃあ、英子君は、何か気になることがあるかな」

「だったら、先生、二人の持ち時間はどうするんですか。片方が五分程度なのに、もう片方が、二十分も三十分もしちゃうというのは、公平じゃあないと思うんですが。それに、高子が落語を、柔道場でやるって言ってましたけど、一時半までなんですよね。だったら、あんまり長引かせられないし……」

「うんうん、英子君も、いいことを言うねえ。先生もそれが気になってね、高子君と和枝君の練習を、見学させてもらったんだ。審判としては不適切かもしれないけどね。ま、落語研究会の顧問や、武道場の管理者としてのいろいろがあるからね。勘弁してほしい」

「なんだ、先生も持ち時間の心配はしてたんですか。なら、わざわざ、わたしに言わせることもなかったんじゃあないですか」

「自分で考えることが大事なのさ、英子君。それで、高子君と和枝君の持ち時間なんだけどね、先生が、二人の練習を見る限り、両方とも、落語にかかる時間は同じくらいだ。下準備に手間がかかるわけでもない。それに、武道場への移動時間を考慮しても、仮に、高子君のほうが後攻だったとしても、一時半までかかることはないと言っておこう」


 すると、遊や英子の、勝負のルールへの意見を聞いていた高子が、怜先生に問うのです。


「先生、質問を一つしてもかまいませんか」

「いいとも、高子君。何かな」

「昨日、この高子さんも、和枝君も、先生に電話をかけたそうですが、どちらが先だったんですか」

「ああ、それは、和枝君、高子君の順番だったよ。和枝君に引き続いて、高子君も自分の落語ができたと電話してきたから、和枝君、そして高子君に今日、この部室で二人の勝負を行うよう伝えて、和枝君と高子君の了承を受けて、今に至るわけだけど、それがどうかしたかな、高子君」

「それなら、先攻後攻を決めるのは、和枝君であるべきだ。和枝君が、この高子さんより先に、自分の落語が完成したと宣言し、勝負ができると言ったのなら、和枝君にその権利がある」


 高子の、そのいさぎよさに、和枝もどこか心に響くものがあるようです。しかし、和枝はそんなことは、おくびにも出さずに、恐れ知らずに笑って、宣言するのです。


「ほほう、高子君、敵に塩でも送っているつもりなのかな」

「この高子さんは、ただフェアでありたいだけだよ、和枝君」

「そういう事なら、僕の好きにさせてもらおう。僕の先攻だ。僕はもう待ってなんかいられない。さっそく始めたいからね」

「それなら、この高子さんは後攻で行かせてもらうよ、和枝君」


 高子と和枝の話がまとまったところで、怜先生が勝負の進行を行います。


「話が決まったみたいだね。それじゃあ、まずは和枝君にやってもらおうかな。和枝君、準備しちゃって。遊君、英子君、我々は椅子に座って待っているとしよう。そうだ、高子君はどうする。自分の落語のために、外かどこかで精神集中でもするかい」


 怜先生にそう言われたものの、高子はかぶりを振ります


「いや、和枝君の落語、この高子さんもしっかり聞かせてもらうよ。もちろん、和枝君が構わなければの話だが」


 高子のその言葉を聞いて、和枝はますますやる気を出すのです。


「構わないよ、高子君。僕の落語を、うんと堪能してくれ」


 不敵な笑みを浮かべてそう言いながら、和枝は部室にある教卓を、黒板のすぐ前に置いて、座布団を教卓に置きます。


「ちょっと、黒板への書き具合を試させてくれ」


 和枝はそう言って、座布団が乗った教卓に正座すると、すぐ後ろの黒板に、正座しながら白のチョークで、何やら書き始め、その具合を確かめています。


「よし、こんなものだな」


 そう言うと、和枝は一旦黒板をきれいにして、居住まいを正すと、椅子に座って聞く準備をしている遊達四人に、正座したまま一礼します。


 ぱちぱちぱち


 怜先生がまず拍手で和枝の一礼に答えます。それにつられて、遊、英子、高子の三人も、和枝に拍手をします。四人の拍手がひと段落ついたところで、和枝の『初天神』が始まるのです。



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