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高子と和枝の勝負 其の1

高子と和枝が、仲違いをした翌日の日曜日の昼ごろ、落語研究会の部室で、遊と英子が話をしています。


「ねえ、英ちゃん、一体何なんだろうね。怜先生に呼び出されちゃったけど」

「全くだ。先生ったら、昨日の夜にいきなり電話をかけてきて、『英子君、明日は暇かい。暇なら、明日の午前十一時半に、落語研究会部室に来たまえ。ちなみに、遊君は了解してくれたよ』だもん。どういうつもりなんだろう」


遊と英子が、そんな話をしていると、部室に怜先生がやってきます。


「やあやあ、遊君に英子君。来てくれて、先生は嬉しいよ。二人に来てもらったのにはね、理由があるんだよ。頼みごとがあるんだ」


怜先生の申し出に、遊が疑問を口にします。


「頼みごとですか。それってなんですか、柄見先生」

「それと言うものね、昨日、高子君と和枝君が、ちょっとしたいさかいをしてね。まあ、原因は大したことのない、互いの意見の相違なんだが。幸い、取っ組み合いにまではならなくてね、高子君と和枝君の二人は、落語研究会に属していいるんだから、勝負は、落語で決めようってことになったんだ。それで、遊君と英子君には、審判を頼みたい。先生も含めて、三人が判定役となる」

「そんなことがあったんですか。でも、柄見先生。勝負ということは、優劣をつけるということですよね。あたしは、そのう、落語に順位をつけるというのは、どうも……」

「うん、遊君のいうことももっともだね。じゃあ、感想を言うくらいはしてくれるかな。まさか、遊君。高子君と和枝君が、せっかく落語をしてくれるというのに、それを聞きもしないなんてことは言わないよねえ。聞いたら、一言くらいはあってもいいんじゃあないかな。先生は、別に勝敗をはっきりさせたいんじゃない。高子君と和枝君にお互い納得して欲しいんだ。ちなみに、高子君と和枝君は、午前中、九時くらいからだったかな、ずっと練習していたんだよ。昨日の夜、なんだかんだあってね、高子君と和枝君に、それぞれ電話で、今日の昼に二人で勝負ということでと、先生が提案したら、二人とも大乗り気でね、さぞや、熱心に練習していることだろうよ」

「ま、そう言うことでしたら」

「遊君はこう言ってくれたが、英子君はどうだい」

「はあ、わたしも、遊ちゃんと同じスタンスで構いませんが」

「決まりだね。おっと、高子君と和枝君が来たみたいだ。高子君、和枝君、入っておいで」


怜先生の呼びかけに応じて、高子と和枝が、部室に入ってきます。すると、怜先生が何か言い出し始めます。


「実を言うとね、昨晩、先生は高子君と和枝君の二人から、電話を受けたんだよ。内容は二人とも似たようなものだったな」


それを聞いて、高子と和枝の二人は、お互いの顔を見合わせるのです。それを楽しそうに見ながら、怜先生は続けます。


「まず、『いい落語ができた。こちらは、いつでも相手との勝負を受ける』、と言うことだった。これは何の問題もない。問題は次だ。『ただし、落語にあるまじき演出をするかもしれない。相手に対して公平じゃなくなる可能性がある』と言ってきた。ちなみに、どう言う演出なのかも、先生は確認したよ。今、ここでは言わないけどね、ネタバレになっちゃうから。結論を言うとね、先生としては、そのくらいは何の問題もないと言うことだ。高子君も和枝君もね。いやあ、嬉しい限りだよ。革新的なことに挑戦する、と言うのも嬉しい。若いんだから、それくらいでいてくれなくちゃあね。それに何より、二人とも、相手を配慮したと言うことだ。本当に清々しい」


怜先生の言葉を聞いて、高子と和枝は、お互いに、不敵な笑みを浮かべ合うのです。


「ほほおう、和枝君もだったのかい。正直、この高子さん、素敵な発想をしちゃってね。あんまり素敵な発想だから、ちょっと和枝君が可哀想になっちゃったんだ」

「まだ勝負は始まっていないんだよ、高子君。そんな愉快な冗談を言う必要はない。僕のアイデアこそ、出来がいい。高子君が、無様に敗北に打ちひしがれる姿が、今から楽しみだよ」

「なるほど、手加減しないよ、和枝君」

「望むところだ、高子君」


高子と和枝が、お互いに火花を散らしあっているところに、怜先生が口を挟みます。


「それからね、高子君の、その素敵な発想の都合でね、高子君の落語は、この部室でやるのは、少しまずいんだ。理由は、ネタバレになる可能性があるから言えないけどね。それで、先生が武道場の柔道場を使えるよう手配しておいた。今日みたいに日曜日でも、部活動を行っている生徒たちはいるが、お昼ご飯を、別の場所で食べてもらうことにしてもらって、武道場は落語研究会だけで使えるようにした。一時半までね。というわけで、場所を移動する必要がある。そして、和枝君は、教卓の座布団に座ってやる。和枝君は、落語に教卓の後ろの黒板を使うみたいだ。和枝君が床に座っちゃって落語をするとなると、いちいち立ったり座ったりをすることになる。これでは、流石にまずい。黒板に近づけた教卓に正座すると、上手いこと黒板に手が届く。で、和枝君の落語は、この部室でやることになるんだ。と言うふうに、高子君と和枝君の、二人が落語をやる場所からして、違っちゃうんだけど、どうかな。高子君、和枝君」


怜先生の確認に、高子と和枝は、一切異を唱えません。


「この高子さんは、何の異存もない。和枝君、君のアイデアが、楽しみでならないよ」

「それはこちらの台詞だ、高子君。高子君の素敵な発想とやらを、大いに期待するとしよう。僕のほうも、そに条件で受けて立つ」

「高子君と和枝君はこう言っているが、審判役の、遊君と英子君はどうだい」


怜先生の、問いに、遊と英子は答えます。


「当の二人がそれで納得しているなら、あたしがどうこう言うことじゃあないです」

「右に同じです。わたしも、遊ちゃんと同意見」





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