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高子の『出来心』 其の1

今回は、古典落語の『出来心』のネタバレを含みます。前もって、何らかの方法で内容を知っていただくと幸いです。

高子もまた、自宅に戻ると、急いで怜先生に言われた通りに、検索をするのです。


「ええと、『落語』に『裏』だったな。おや、予測変換に、『裏は花色木綿』ってのがあるじゃあないか。どれどれ、なんだこりゃあ」


その検索結果に、高子は仰天します。


「『出来心』って落語があるのか。話の内容は、と。兄貴分に、見つかったら、つい出来心で、なんて言えばいいと言われて、盗みを働くことにした泥棒さん。しかし、盗みに入った家にはなにもない。すると、家主と大家が帰ってくる。家の裏に隠れる泥棒。家主は、家のものは泥棒に盗まれたと言い出す。大家は、盗まれたものはどんなものだったと聞く。家主は、裏が花色木綿の布団、鍋、タンスと言い出す。泥棒が怒って出てくる。家主がなんで泥棒なんかしたと聞く。出来心と答える泥棒。泥棒もまた、嘘をついた家主を責める。家主は答える。出来心で」


一通り読み終えて、高子は、『出来心』には別のサゲがあることを知ります。


「へええ、サゲが二種類あるんだあ。なになに、家主がどこに隠れていたんだと聞く。裏だ。裏のどこだ。裏は花色木綿だ」


『出来心』のあらすじを調べた高子は、怜先生の言ったことを思い返すのです。


「それにしても、怜ちゃん先生ったら、何が、『裏』の『落語』だよ。まるで、暗殺を生業なりわいにしている、落語家がいるみたいなこと言っちゃってさ。『落語』と『裏』で検索しただけで、わかるって事は、相当有名な話だろうに。当然、怜ちゃん先生も知っていただろうなあ。となると、何か他にも、企んでいるに決まってる」


高子は、そう確信して、怜先生の言動を思い起こします。


「男を知らない落語家なんて、落語家じゃあない、みたいなことも言っていたな。まあ、この高子さん好みの話だが。そういえば、この『出来心』の最初、兄貴分が、弟分に『泥棒でもやれよ』なんて勧めている。ははあ、怜ちゃん先生は、この高子さんに、男色を弟分にさせる兄貴分、という発想をさせるよう誘導したんだな」


高子は、怜先生の企みについつい乗っかてしまうのです


「しかし、『出来心』の、泥棒と家主は、襲う男と襲われる男でいいとして、大家はどういう役所にしよう。犯罪なんだから、やっぱり警察官かなあ。ああ、裏投げなんて言い出したのもそういうことか。いくらなんでも、和枝君に、裏ビデオだの裏DVDだのの話はできないし、警察官が柔道というのは、ごく当たり前だからな。」


高子は、話を展開させていきます。


「そうなると、元々の『出来心』で、泥棒は隠れていたけど、男を襲った男が隠れるかなあ。この高子さんとしては、『芸のために、男の一人や二人襲って何が悪い』と開き直ってほしいものだが。おおそうだ、襲われた方が口を閉ざすことにしよう。男に襲われた男が恥ずかしくて、証言できないというのは、実にこの高子さん好みだ」


最早、誰も高子を止められやしません。


「だったら、サゲが問題だなあ。どっちにしよう。ええと、襲った男が出来心、次に襲われた男が出来心。ううん、襲われたことを隠すなんて、出来心で済むかなあ。古典の『出来心』の方は、盗まれていないものを、ちゃっかり盗まれたことにするわけだから、出来心で済むけど。わたくしの方の『出来心』だとなあ……」


高子は、初めての創作の苦悩を味わうのでした。


「もう一つの方だと、『裏は?』『 裏投げです』になるかなあ。そもそも、“裏投げ”って言って、遊さんや米村君に伝わるだろうか。待て待て、遊さんはともかく、どうしてこの高子さんとあろうものが、米村君のことなんて、考慮しなくてはならないんだ。いやいや、これはあくまで、和枝君との勝負だ。ならば、全力を尽くすのが、和枝君への礼儀といえよう。しょうがない、米村君。今回だけは、君のことを、脳の片隅の、それもほんの端っこの方くらいには、入れといてやるぞ」


高子は、聞き手への伝え方まで考え始めます。


「やっぱり、実際にやってみるのが一番だよなあ。でも、“裏投げ”って人を投げるわけで。流石に、和枝君との落語勝負で、本物の人間を投げると、一人の和枝君に対して、この高子さんが二人がかりで勝負を挑むみたいになって、アンフェアもはなはだしいしなあ。そもそも、この高子さんが、人間じゃなくても、サンドバッグか何かを投げるなんて、少しはしたなくはないだろうか」


高子は、体の動かし方まで、自分を演出し出すのです。


「ああ、でも、シャドウボクシングのようにやるなら、ありかもしれない。落語だから、正座の姿勢からブリッジすればいいな。なにせ、この高子さんは、幼少時には社交ダンスをやっていたからな。背が伸びすぎて辞めてしまったが、体の柔軟性には自信がある。本来、相手の胴をホールドする両手は、床につくことになるが、まあ、細かいことはおいおい考えよう。よし、せっかくだから、自分で録画して、見てみるとしよう。まず入念にストレッチしてと……」


高子は柔軟体操をしっかりしてから、スマートフォンで、自分の裏投げを録画するのです。


「よっと」


正座した高子が、そのままブリッジしたかと思うと、そのままの勢いで、バク転をしてしまいました。急いで高子は、その動画を確認します。


「うん。この高子さんに微塵みじんの衰えもない。サゲにこれをしたら、盛り上がること間違いなしだ。よし、早速、通しでやってみよう。ちゃんと、録画もしておいて、と。怜ちゃん先生の、手のひらの上で踊っているみたいで、なんだか気に食わないが、何はなくとも、試してみよう」


そして、高子の『出来心』が始まるのです。



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