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歓迎会 其の5

遊に抱きしめられた英子は、すすり泣きながら、遊に打ち明けるのです。


「わたしね、自分が古典落語やるところをね、録画して、自分で見たことあるの、遊ちゃん」

「へえ、それでどうだった、英ちゃん」

「そのね、自分の歌を録音して、いざ自分の耳で、客観的に聞いたら、思っているようなものと全然違って、あまりの下手さ加減に絶望した、なんてよくある話じゃない」

「そうだね、英ちゃん」

「でもね、わたしの場合は、ちっともそんなことなかったの。むしろね、『わたしったら、なんて古典落語を上手にやっちゃうのかしら』なんて、自画自賛しちゃったりなんかしたの」

「あらら」

「それにね、高子や和枝に古典落語を聞かせるのも、今回が初めてじゃあないの。落語研究会の部室で、何度かやっていたの」

「へえ、それで、二人はどんな反応だったの、英ちゃん」

「高子は、わたしの落語、それはもう食い入るように聞いているのよ。で、あの高子よ。何か落ち度があったら、それこそ鬼の首を取ったように、騒ぎ立てるに決まっているわ。だけど、高子は何も言わない。悔しそうな顔はするけども。それって、私の落語に欠点なんてないってことだと思っちゃったの。それに、和枝は、ただ感心してくれるみたいだったし」

「へえ」

「わたしの落語を聞いている人間が、どれくらい、落語の素養があるかなんて、考えもしなかったの。結局、落語が好きで、好きでたまらない人間の評価でしかなかったの」

「でも、英ちゃん。落語が好きな人間を楽しませるだけでも、立派なことだと思うけど」

「うん、遊ちゃん、ありがとう。遊ちゃんが言いたいことはわかったつもりだし、遊ちゃんがいてくれて、本当に良かったと思うの。でもね、わたし、これからは、聞く人間のことも、考えて落語するようにするよ」

「そうなんだ、だったら、あたしにも手伝わせてね、英ちゃん」

「えっ、手伝うって、何をなの、遊ちゃん」

「それは、ほら、和枝さんが、まだ完成していない落語、聞かせてくれたじゃない。“群・環・体”のやつ。ちょっとえらいことになっちゃったけど」

「ああ、そんなこともあったね、遊ちゃん」

「それでね、英ちゃんが、もし、もしもよ、話を作っている最中に、行き詰まったりなんかしたら、とりあえず、あたしにどんな話か聞かせてくれて、あたしが、英ちゃんの落語を聞くことが、英ちゃんの落語づくりの手助けになるんだったら、それはすごく素敵なことだなって、思っちゃたりなんかして……」

「そ、それは、こちらとしても、大変助かるというか、できれば聞くだけじゃあなくて、感想なんかも言ってくれると、嬉しいと言いますか……」

「あ、あたしなんかの感想でいいの、英ちゃん。余計なこと言っちゃったりなんかしないかなあ」

「ううん、全然そんなことないから、遊ちゃん。だけど、わたしばっかり、遊ちゃんのせわになっちゃって、なんだか申し訳ないというか、迷惑のかけっぱなしというか」

「別に、迷惑だなんて思わないよ、英ちゃん。でも、英ちゃんさえ良ければだけど、お願いがあるんだ」

「うん、なになに。なんでも言ってちょうだい」

「そのね、あたしも、英ちゃんが作った創作落語、やってみたいの。だけど、一回聞いただけじゃあ細かいところまで覚えられないから、英ちゃんが落語するところを、録画させてもらいたいの。それでもって、それを見ながら練習したいなって。もちろん、英ちゃんに断りもなく、勝手に他の人の前でやったりしないし、その録画をあたし以外が見るようなことにはさせないから。あたしの個人的な使用だけにするから」

「ゆ、遊ちゃんが、わたしの落語を録画して、個人的に使用しちゃうの」

「だ、だめかな」

「そんなことないわ。是非やってちょうだい、遊ちゃん。わたし、頑張っちゃうから。ちゃんと綺麗に撮っちゃってよ。しっかり、わたしを参考にして、稽古してね」

「はい。英ちゃんが落語するところを、あますところなく見させていただきます。英ちゃんの一言一句、そして一挙手一投足を再現させていただきます」

「そ、そうね。でもね、遊ちゃん。芸の道は厳しいんだからね。そんな一朝一夕でうまくいくと思ったら、大間違いよ。何度も、わたしの落語を見返しなさい」

「了解です。デジタルデータのゼロと壱が、平均されて両方とも二分の一になっちゃうくらい、繰り返して勉強させていただきます」

「そうね、でも、そんなことになっちゃったら、もう、わたしの落語見返せなくなっちゃうね。そうなったら、またわたしにお願いするのよ。『英ちゃん、もう一回録画させて』って。そうね、その時には、稽古の成果も見させてもらうわ。当然、わたしは、遊ちゃんを指導するわよ。言っておくけど、わたしの指導は厳しいからね。手はこう、顔はこう、と言った具合に、手取り足取りだからね」

「わかりました、英ちゃん。びしびししごいてください」

「い、いいのね、本当にいいのね。後になって、こんなこと聞いてないなんて言わないでよ」

「不肖、この立林遊、そのようなふざけたことは申しません」

「そ、その言葉、ゆめゆめ忘れるでないぞ、遊ちゃん」

「御意にあります、英ちゃん」


そうして、遊と英子は、仲良く手を握り合うのでした。

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