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入学前、学校案内ー遊と風紀指導教諭ー其の2

すっかり照れ臭くなっている遊でしたが怜先生はさらに話を続けます。


「ところで、遊さん。あなたの面接が先生の個人的感想だけではなくて、客観的な点数としても評価されていた、ということは話したわよね。実際のところ、遊さんの人前での話し方、ええと、プレゼンテーションってところかしらね、それは見事なものだったわ」

「そんなに褒めちぎらないでくださいよ」

「謙遜しちゃって、若いくせに。まあいいわ。それで遊さん、あなた何か観客を前にしての、そうね、演劇とか、ディベートとかやってたの? 訓練してなきゃあ、あれだけのものができるとはとても思えないんだけどね」

「そんな、柄見先生。別にこれと言って特別なことは。そうですね、強いて言えば、あたし……じゃあなくて、私……」

「あたしでいいわよ、遊さん。別段そこまでかしこまる必要もないわよ」

「じゃあ失礼して、あたしの家、NHKしかテレビ見させてもらえなかったんです」

「ああ、そういう家庭の生徒はうちの学園にも何人かいるわね」

「へえ、すごい。さすが海応学園の生徒さんですね。あたしが特別というわけでもないんですね」

「それで、NHKしか見させてもらえなかったことと遊さんのプレゼン能力はどう関係するのかしら」

「と言いますとね、たまたまある日、テレビで落語をやっていたんですね」

「落語ねえ」

「そしたらですね、柄見先生、その落語をあたしが見ていたら、そこをお母さんに見られちゃったんですよ」

「遊さん、見られちゃいましたか」

「うちのお母さん、厳しいんです、教育ママなんですよ。で、落語ってやっぱりゲラゲラ笑うものじゃあないですか。そんな落語をあたしが見ているところを母親に目撃されちゃったものだから、あたしとしてはまずいところを見られたな、と思ったんですよ」

「へえ、それでどうなっちゃの」

「それでですね、ちょうどその落語は終わるところだったんですよ。で、終わってですね、あたしが申しわけなさそうにしていたら、お母さんがこう言ったんです『遊、今の落語でしょ。最初から見てたの? だったら、お母さんの前で再現してみてくれない』って」

「結構面白いお母さんじゃない。少なくとも、遊さんが怒られなくてよかったわ」

「そんなんですよ、先生。あたしてっきり怒られるものとばかり思ってたんです。ところがまさかのリプレイ要求となっちゃって。それで、したんです。あたし」

「したって、落語を? 最初から最後まで? その落語を見たのは初めてだったの? それだったらすごいじゃない。初見の落語を通しで再演できる人はちょっといないわよ」

「でも、その落語は『時そば』だったんですよ。知ってますか、『時そば』?」

「ええ、まあ、大体の内容くらいはね。けどなんで、『でも』なんていうのよ」

「大体の内容ですか。それなら話は早いです。あたしが『でも』と言った理由はですね、お母さんにその落語を見せた後、いろいろ自分なりに調べたんです。そしたら『時そば』って落語家になったばかりの人がやるような演目だったんです。初心者向けと言いますか……」

「そんなことないわよ。初心者向けだろうとなんだろうと一回見ただけでやり直せるなんてたいしたものよ」

「そうですか?今にして思えばひどいものでしたよ。たどたどしいわつっかえつっかえのしどろもどろだったんです」

「そんなにだめだめだったの、遊さんの初めての落語は。それなら、それほどひどい落語しかできなかったお人がなぜゆえに、あれほど見事な面接を披露できたのかしらね」

「ですから先生、そんな風に見事とか言って妙な感じにほめないでくださいよ」

「わかったわ、遊さん」


そう遊の言葉に了承する怜先生でしたが、心の中では全く別なことを考えていました。この遊ちゃんはどうも。自分が表現者としてどれほど優れているか、自覚がたりないようね、まあ、入学したばかりの女子高校生が自信満々というのも可愛げがないけども、と。そしてこうも思いました。こういう子がいるから、先生ってやめられないのよね、とも。




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