表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い音楽教室  作者: marron
20/20

20■自由な舞台



舞台には舞台マナーというのがあって、ただ立っているだけでも身体をどちらに向けなければならない、とか、舞台に出るときはどちらの足から入るか、など、決まりがある。

古典的な演劇や、オペラなどは、そういった舞台マナーはまだ生き続けている。


が!

お客様に見えていないところは、自由なのである。



私がオペラの舞台で時々一緒になる、イケボなバリトンのUさん。

このUさんは、なんとも自由な舞台を創り上げてくださる。

舞台での所作が綺麗で品が良く、無駄がない。そして、誰も気づかないようなこともする。

歌が上手いだけでなく、演技も上手い。素晴らしい歌い手さんである。


どうしても、声楽家は歌ばかりを磨いて、演技が下手ということがある。

私も演技が下手な方なのだけど、歌がいっぱいいっぱいで、演技を磨くことはなかなか難しい。

だから、Uさんのように歌も演技もどちらも上手な方は羨ましい。



で、このUさんとは何度かオペラの舞台でご一緒したことがあるのだけど、本当に自由すぎて、時々まいってしまう。


Uさんが後ろ(お客様の方にお尻)を向いている時、私がUさんに歌いかける場面がある。

Uさんはとても上手なので、私がお客様から隠れないように、絶妙なところに立っていてくださるのだけど、その時の顔が酷い。

絶対に笑わせようとしている変顔なのだ。


Uさんは後ろ向きなので、お客様からは顔が見えない。

だからと言って、演技をしている時に、変顔ができる・・・自由だ。


これ、普段のリハもゲネプロも勿論本番でも、やる。

しかもいつも違う変顔だったりする。そんなレパートリーいらないのに。

やめてほしい。

もう、その場面が来たら自動的に笑いたくなってしまう。



違う演目で、腕を掴まれる場面で、

私は叫ぶように歌っているのに、いきなり小声で

「ツケマ取れてるよ」

とか言ってきたりする。


げ!?

ツケマ取れてる!?


いやいやいやいや、ツケマしてないよ。

て、ここでなぜウソつく!?

焦るじゃないかあああああ!


というようなことを平気でするのがUさんである。

なんか色んな意味で、気が抜けない舞台となる。

歌い手としては尊敬できるんだけどなあ・・・人格がなあ・・



■終わりにかえて



「黒い音楽教室」をお読みくださりありがとうございました。

黒かったでしょうか。全然黒くなかったでしょうか。

黒く書くってなかなか難しいですね。狭い世界なので、身バレしそうなことも多いですし、明らかに書けないことも多くて、随分とソフトになってしまった感がありました。


ただひとつ言えるのは、音楽の“楽”はただ楽しいだけではないということ。

「いきなり音楽教室」の最後とは真逆になりますが、努力の陰に汗や涙がこれでもかと流れていることが、伝わっていたら黒さも伝わったのではないかと思います。


黒くても、辛くても、それでも音楽は楽しい。

楽しいというのは、単に楽ちんという意味ではなくて、苦労したからこその楽しさなのではないかと思う今日この頃です。


私たち音楽家は、練習は仕事、本番は打ち上げと言いますが、この打ち上げを心から楽しみたいのは確かです。


努力や涙があるからこそ、色んな意味で楽しい。そんな音楽の黒さが伝わっていたら幸いです。

今までお付き合いくださりありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ