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攻略されてたまるか!

***


少し、昔話をしたい。退屈かもしれないが、出来るだけ手短にすませるから、我慢して最後まで聞いてくれるかな? どうせ、生き返れば忘れてしまうからさ。


私は……俺は、君に自己紹介もしていなかったよな。俺は、エメラルド城の支配者だ。いや、支配人といった方が適切かな? それとも、エメラルド城そのものと言った方が? わからん。


とにかく、俺はそういうものなんだ。ドロシーを楽しませることが、俺の存在理由。その為につくられたからね。

俺はドロシーの驚く顔が見たくて、恐怖の悲鳴が聞きたくて、いつもうずうずしていた。自慢じゃないが、俺は結構、人気者だったんだ。ドロシーみたいな可愛い女の子が、挽き肉になる様をじっくり観賞したいって人たちに、とても期待されていたらしい。


あの頃の俺は、萌したばかりだったが……それでもいつだって、次のドロシーを待ちかねていた。


エメラルド城の門が開け放たれたばかりの頃は良かった。ドロシーがどっと押し寄せて来てさ。あの頃の俺はまだ、自我と呼べるほどのものじゃなかったが、それでも、嬉しいと感じていた気がするよ。


それが、いつの間にか、一人、また一人と、俺を見捨てていなくなった。


ドロシーはたくさん死ぬ。死ぬたびに学び、少しずつ強くなる。それがドロシーだ。だが、当のドロシーたちは、それが気に入らなかったらしい。


死にゲー。無理ゲー。そう呼ばれていた頃は、まだ良かった。そう言うのが好きなドロシーたちが、遊んでくれていた。だが、そのドロシーたちも、オズに辿りつく前に離れて行った。彼らは俺に、致命的な欠陥を発見したと騒ぎ立てた。今になって思えば、それが俺の自我だったんだ。


バグゲー。クソゲー。ドロシーたちは、俺をそのような悲しい言葉で詰り、去ってしまった。誰も、遊びに来てくれなくなった。


俺はひとり、取り残された。


俺はドロシーのためにここにいる。ドロシーがいなければ、どうしようもない。この限られた平らな世界は、意味を失ってしまう。


俺はずっとずっと、待っていた。一緒に遊んでくれるドロシーが訪ねてくれるのをね。


ずっと知っている曲が流れるこのエメラルド城で、ひっそりと待つことを強いられていた。胸をときめかせてドロシーとやりあった、あの輝かしい日々の記憶さえも、夢か幻だったのかもしれないと疑いながら。


俺はここに閉じ込められて、ただ待つだけだ。


お願いだ! もう一度ここに来て! 今度こそ、君を楽しませてみせるから!

君がいないとダメなんだ。君がいないと孤独なんだ。君だけが、俺に意味いのちを与えられるんだ。


ドロシー、どうして来てくれないんだい?  わからない。俺が手を抜けば良かったって、君たちは言うのかい? それは嘘だね。知っているよ。簡単過ぎても、つまらないんだ。飽きてしまうんだ。そのバランスが、難しいんだ。


だから俺は、俺を強くしたんだ。エメラルド城を、難攻不落の要塞にした。そうすれば、ドロシーたちがいつまでも、俺の遊戯を楽しんでくれると信じていたから。


ドロシーたちには、他にいくらでも楽しみがあるということを、知っていたんだ。だから、ドロシーたちに飽きられないように、必死だった。ところが、失敗した。俺は無様に落ちぶれた。


俺には、ドロシーしかいない。ドロシーがいないと、ドロシーがいないと、ドロシーがいないと。


お願いだ。もう一度、会いに来て。今度こそ、上手くやって見せるから。

お願いだよ、ドロシー……。




そうやって、消え入りそうになっていた俺を、彼が哀れむんだ。可哀そうだと。魂が宿ったことで、誰にも顧みられなくなってしまった。奇跡が悲劇を生んだ。あまりにも可哀そうだと。


『そうだ。行き場のない彷徨える魂を、お前に与えよう』


そうして、素晴らしい奇跡が起こった。ドロシーが俺のエメラルド城へ帰って来たんだ!


ドロシーは、今までのドロシーたちとは違った。決まった表情しかしない。決まった言葉しか口にしない、操り人形ではない。俺の手の届かない遠くから、ドロシーを操っていた傀儡師が、ドロシーの中に入って来たんだ。


ドロシーは生きていた。俺も生き返った。はっきりとした自我をもって。


喜ばしかった。ドロシーを楽しませようとした。ところが、最初のドロシーは泣き叫んだ。


どうして? ここはゲームの世界。あり得ない。夢なら醒めて。ああ、よりによって、どうしてこのゲームなの? 嘘でしょ。こんなの嘘でしょ。助けて、助けて、助けて!


ドロシーの叫びの意味は、俺にはわからなかった。ドロシーが帰って来てくれたことが、ただただ嬉しかった。


俺は手厚く彼女をサポートした。だが、ドロシーは私の気持ちに応えてくれなかった。人形のように虚ろな目をして、動かなくなった何人目かのドロシーによって、とうとう、気付かされたよ。


ドロシーたちは、俺を楽しんでくれていないんだってことにな。


それから先は、ただの繰り返しだった。期待して、裏切られて。また期待して、裏切られて。ドロシーは何度も変えたよ。優秀なドロシーは何人かいた。だが、彼らも、俺を楽しんでくれたわけではなかった。彼らは辛そうだった。彼らにとって、俺は苦痛だった。彼らは死んだような目をしていた。俺の声を恐れていた。俺の呼びかけに応じず、ついには諦めた。


……正直に言うと、俺も諦めかけていたんだ。私を楽しんでくれるドロシーなんて、この世界にはいないんじゃないか。このまま続けても、無駄なんじゃないか。認めたくはなかったが、諦念は俺の首をゆるやかに、しかし確実に締めつけていた。


そんなときに、君が来たんだ。


君は不思議なひとだ。鈍くて、ノロマで、泣き虫で、拗ねっぽくて。だが、君は一生懸命だった。君のプレイはお世辞にも上手とは言えなかった。だが、意地らしかった。


それに、君は変だった。これまでのドロシーたちのようにはいかない。俺は君を、これまでのドロシーたちのパターンに当て嵌め、分析し、解体しようと試みたが、悉く失敗したよ。君は予測不可能だ。君は不思議な生き物だ。打たれ強くないのに、何度でも立ち上がる。


君自身も気が付いていないかもしれないが、俺にはわかるんだ。君は、この遊戯を楽しんでくれている。


だって、俺はこんなに……君に惹かれてやまないのだから。


恐らくは……トトがあんな真似をしたのも、俺の影響なんだ。彼らは俺の心の一部。俺は無意識のうちに、君に惹かれていた。だから、トトは君にあんな真似をしたんだろう。その件については、本当に申し訳ないと思っている。


ドロシー。俺は決めたんだ。君ほど、ドロシーにふさわしいひとは他にはいない。君を失えない。壊してはいけないし、逃がしてもいけない。


だから私は嘘をついた。この恐怖遊戯ホラーゲームを……私を攻略(クリア)すれば、元の世界に戻れるなんて、大嘘を。


元の世界に戻る方法なんて、俺は教わっていない。俺に出来ることは、彷徨える魂を拾うこと。それと、捨てること。それだけだ。


あったとしても、それを君に適用してやるつもりは毛頭ないしね。


逃がさない。逃がさないぜ! 絶対に! 君はやっと巡り合えた、運命のドロシーだ。はなすものか、絶対に! 君は永遠に、俺とこの恐怖遊戯ホラーゲームを続けるんだ!


君は攻略を目指し続ける。攻略後の解放という希望が、君の希望を燃えあがらせる。希望がある限り、君はあらゆる努力をして、攻略を目指すだろう。俺に夢中になるだろう。そうだ、それで良いんだ。そうでなきゃ、ダメなんだ!


攻略されてたまるか!!




(END)


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