第二話:勇者 美少年たちの部屋割りをする
「いいか、もう一度だけ言う。これは『軍隊のキャンプ』じゃない。だから夜中に素っ裸で俺の寝室に夜襲(ほふく前進)をかけるな。いいな?」
翌朝。俺の城の大広間は、三千人の美少年たちで文字通りすし詰め状態になっていた。
昨晩、お国のために身体を張る覚悟(大誤解)を決めた少年たちが、入れ替わり立ち替わり俺の寝室のドアをノック(一部はピッキング)してきたせいで、俺は完全に寝不足だった。
まずは生活の基盤を作らなければならない。
これだけの人数だ。適当に割り振れば、派閥争いや血の雨が降る。
俺は頭を抱えながら、手元の羊皮紙を睨みつけた。
「エレク様、部屋割りの件ですが」
すちゃっと音を立てて前に出たのは、現役第二王子のエドヴァルド(16歳)だ。相変わらず無駄に顔がいい。
キリッとした金髪をなびかせ、軍人さながらの礼を取る。
「我らローデン王国の騎士たる者、大部屋での雑魚寝など慣れっこにございます。どうかこのエドヴァルドめを、エレク様の『側仕え』として、寝室の隣の控室、あるいは同じベッドの端へ配置していただければ――」
「却下。お前はただの一般団員(美少年)だ。王子枠の特権はない」
「くっ……! 勇者の寵愛を得る道は、これほどまでに険しいのか……!」
何を勝手に「寵愛レース」を始めてるんだ。
俺がため息をついていると、今度はひらひらとした豪奢な服を着た、金髪縦ロールの少年が前に出た。
「お待ちになって、王子殿下! 没落したとはいえ、我がローゼンバーグ家の血筋たるこのルカ(15歳)を差し置いて、エレク様の隣を狙うなど生意気ですわ! ……あ、いえ、生意気です!」
語尾がちょっとバグっている。「ルカ、お前さっき『~ですわ』って言いかけたろ」
「い、言っていません! 姉上が七人いる環境で育ったせいで、焦ると口調が移るだけです! それよりエレク様、私は埃っぽい大部屋など肌が荒れてしまいます。どうか、あなたと同じ部屋で、夜通しスキンケアのやり方について語り明かすお部屋を……!」
「却下だ。肌が荒れるなら実家に帰れ」
本当にどいつもこいつも、隙あらば俺のパーソナルスペースに踏み込もうとしてくる。
そんな中、広場の隅でシクシクと泣いている儚げな黒髪の少年が目に留まった。読書が似合いそうな病弱風の少年、レニ(14歳)だ。
「……あの子、どうしたんだ? 部屋割りが不満か?」
俺が声をかけると、レニはおそるおそる顔を上げ、潤んだ瞳で俺を見つめた。
「ううん……。エレク様、僕、体が弱くて……みんなみたいに、エレク様を夜の戦術(?)で満足させてあげられる自信がなくて……。だから、僕は物置小屋か、馬小屋の隅っこで十分です……。そこで、エレク様がたまに通りかかるのを、じっと待っていますから……」
健気。圧倒的健気。……と、一瞬騙されそうになったが、その目は「可哀想な僕を、個室に囲ってください」
と雄弁に語っていた。
あざとい。このガキ、自分の武器を完全に理解していやがる。
「よし、レニ。お前は一番風通しが良くて、医務室に近い大部屋な」
「えっ……個室じゃないんですか……?」
「当たり前だ」結局、俺は力技で部屋割りを決めることにした。
「おい、静かにしろ! 部屋割りは完全に『属性別』で分ける!」
「属性別……!? さすがエレク様、魔術的な相性を考慮されるのですね!」
エドヴァルドが感心しているが、全然違う。
「一号棟は、王子やルカみたいな『プライド高め・お坊ちゃんグループ』だ! 互いにマウントを取り合って相殺しろ!」
「なっ……!?」
「二号棟は、レニみたいな『あざとい・病弱アピールグループ』! 互いにキャラが被って胃がキリキリする空間を楽しめ!」
「そんな……、僕のアイデンティティが……」
「三号棟は、獣人や元気系の『ワンコ・肉体派グループ』! 勝手に庭でドッグランでもしてろ!」
俺がテキパキと部屋を割り振っていくと、美少年たちは不満げながらも、勇者の絶対命令ということで、それぞれの部屋へと荷物を運び込み始めた。
ふう、と胸を撫でおろしたその時。
実家がパン屋だという可愛い系の少年、ティモ(13歳)が、焼き立ての甘いクロワッサンをお皿に乗せて、トコトコと歩いてきた。
「エレク様、お部屋割り、お疲れ様でした! これ、僕の部屋のみんなで作ったんです。食べてください!」
微笑むティモ。
これだ。
俺が求めていたのは、こういう無害で癒されるやつだ。
「おお、ありがとうティモ。お前は本当に良い子だな」
俺が頭を撫でてやると、ティモは顔を真っ赤にして、ボソッと呟いた。
「へへ……。あの、エレク様。僕たちの部屋(可愛い系グループ)、みんなで話し合って、今日の夜の『お当番』を決めたんです。今日は、僕がエレク様のベッドに入ることになりました!」
「待て。今すぐそのシフト表を白紙にしろ」
三千人の美少年による、俺の貞操(と安眠)を賭けた戦いは、まだ始まったばかりだった。




