第1話:勇者 理不尽な要求をする
「エレク殿! 頼む、我がローデン王国をもう一度救ってくれ!」
酒場の床に額を擦りつける男は、まぎれもなく一国の王だった。
かつて魔王を倒した俺を「穀潰し」「用済み」と嘲笑い、着の身着のまま追放した張本人だ。
自業自得で新手の魔獣に攻め込まれ、滅亡寸前になって今さら戻ってきてと懇願された。
正直、これ以上ないほどスカッとした。
だが、ただ普通に戻るのも面白くない。
俺は絶対に断られるであろう、意地悪で理不尽な無理難題を吹っ掛けてやることにした。
「いいですよ、陛下。ただ、俺を本気で呼び戻したいなら……国中の『美少年』を一人残らず集めて、俺の領地に差し出してください」
可愛い男の子たちに囲まれて「勇者様すごーい!」とちやほやされるぐうたらハーレム生活。
そんな不条理な要求に国王が怒り狂い、決裂する未来を楽しみにしていた。
しかし、国王は涙目で叫んだ。
「分かった……! 必ずや集めてみせる、だから頼む!!」
それから一ヶ月後。
約束通り、俺の用意された領地の城へと、祖国からの「貢ぎ物」が到着した。
出迎えた俺は、城の広場を埋め尽くす光景を見て、文字通り顎が外れそうになった。
「エレク様! ローデン王国が本気を出して集めた、選りすぐりの美少年たち、総勢三千名にございます!」
案内役の役人が、ドヤ顔で胸を張る。
広場にいたのは、およそこの世の美の結晶をすべて集めたかのような集団だった。
金髪縦ロールの誇り高き没落貴族の少年。
儚げな黒髪で、読書が似合いそうな病弱風の少年。
狐の耳を生やした、あざとい仕草の獣人の少年。
さらには、なぜかキリッとした顔で騎士の礼を取る、現役の第二王子まで混ざっている。
「いや……待て待て待て。おかしいだろ! 何で王子までいるんだよ!?」
「はい! 王家としても誠意を見せるため、最も顔立ちの整った第二王子殿下を差し出すべきと、国王陛下が直々に指名されました!」
「本気出しすぎだろ我が祖国!!」
俺が頭を抱えていると、おどおどした目の美少年が、おそるおそる俺の服の裾を引っぱってきた。
「あの……エレク様。僕たち、これからどうされてしまうんでしょうか……? 乱暴なこと、されるんですか……?」
怯えるような、それでいて何かを期待するような潤んだ瞳。
「ち、違う! 誤解だ! 俺はただの嫌がらせで言っただけで、お前たちに怪しいことをするつもりは一切ない!」
俺が慌てて否定すると、役人が信じられないものを見るような目で俺を見た。
「えっ!? 乱暴しないんですか!? 陛下からは『勇者様はそういう高尚なご趣味になられた。国のためにその身を捧げてこい』と、皆に言い含めてあるのですが……」
「どんな誤解のさせ方してんだよあのクソ親父!!」
すると、最前列にいた第二王子が、すちゃっと剣を抜いて片膝を突いた。
すると、最前列にいた第二王子が、すちゃっと剣を抜いて片膝を突いた。
「なるほど。手出しをしないというのは、我々を戦力として鍛え上げるという意味ですね。エレク様、我ら美少年義勇軍三千名、あなたの一手駒として、魔獣討伐の先陣を切る覚悟はできております!」
「おおおおーっ!!」
王子の勘違い発言に、三千人の美少年たちが一斉に拳を突き上げて歓声をあげる。
違う。俺はただ、お酒を注いでもらったり団子を食べさせてもらったりする、ゆるい生活を妄想していただけなんだ。
「エレク様! 早く僕たちを、あなたの色に染めてください!」
「まずは僕から、夜の戦術の御指南を……!」
グイグイと距離を詰めてくる美少年たちの熱気に、最強の勇者であるはずの俺は、じりじりと後退りすることしかできなかった。
「違うんだ……俺が求めていた本気は、こういう方向性じゃないんだ……!!」
国を挙げた大真面目な超絶大誤解のなか、俺の「美少年たちに囲まれた(物理的に圧がすごい)新生活」が、幕を開けようとしていた。




