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俺、CO₂悪者説を信じてたら地球詰んでたんだが?第二部  作者: マスター


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9/12

第9話 安い方を手に取りながら、“土に投票する日”のことを考える

第2部第6話では農家の「締め切り」、第7話では自治体の「締め切り」、第8話では企業の「締め切り」の中に、土を戻す話がどう入り込めるのかを見てきました。


第9話では、視点をいよいよ「市民の日常」に移します。


買い物かご。


値札。


割引シール。


ポイント還元。


安さと安心。


そして、よく分からないけれど少し気になる「環境に配慮した商品」。


今回は、“土を戻す”という大きな話が、日曜日のスーパーの棚の前で、どこまで自分の選択に関係してくるのかを、主人公が自分の足元から見直す回です。

「……いや、無理だろ」


スーパーの青果売り場の前で、俺は小さく呟いた。


トマト。


きゅうり。


レタス。


小松菜。


値札。


産地。


特売の赤い札。


ポイント5倍のポップ。


第2部に入ってから、CO₂グラフとか、森林伐採とか、土壌再生とか、農家の締め切りとか、自治体の予算とか、企業のサプライチェーンとか、いろいろ見てきた。


その流れのまま、今日は普通に食材を買いに来ただけだった。


本当に、ただそれだけのはずだった。


なのに今、俺の目の前には、妙に重い問いがぶら下がっている。


――この買い物かごの中に、土の話って、どこまで入ってくるんだ?


『ようやく、そこまで来たな』


スマホの画面に、AIの文字が浮かぶ。


「来たくて来たわけじゃないんだよ」


『だが、第2部としては自然な流れだ』


「その便利ワード、もう完全に武器みたいになってるな」


俺は、かごを片手に持ったまま、並んだ野菜を見比べた。


安い方。


見た目のいい方。


いつもの方。


なんとなく安心な方。


そして、もしあるなら――土に少しでもいい方。


「で、どれだよ、それ」


第1節 ラベルは多い。でも、“土”は見えない


『まず確認しよう』


AIが言う。


『消費者は、ラベルや表示を手掛かりに判断することが多い』


「うん、それは分かる」


俺は棚を見た。


有機。


特別栽培。


減農薬。


国産。


地場産。


契約農家。


旬。


お買い得。


たしかに、ラベルは多い。


多いけど――。


「“この野菜は、土の団粒構造が改善されていて、流域の負荷も少し軽いです”みたいなラベル、ないんだよな」


『ないな』


「いや、あっても困るけど」


『困るだろうな』


「五秒で分からないし、たぶん売り場で負ける」


『かなり負ける』


俺は、二袋のほうれん草を手に取った。


片方は安い。


もう片方は少し高い。


高い方には、「環境に配慮した栽培」と小さく書いてある。


「この“配慮”の中身が、分かんねえんだよな……」


『そこが、現実の壁だ』


AIの文字が短く出る。


『サステナブルな選択に前向きでも、価格差やラベルの理解負担があると、実際の行動では迷いやすい』


「分かるよ」


俺は、少しだけ苦笑した。


「ていうか、今まさに迷ってる側だからな」


第2節 安い方を選ぶのは、そんなに悪いことか


「正直に言っていいか?」


『言え』


「俺さ」


ほうれん草を戻しながら、俺は言った。


「安い方を選ぶこと、そんなに悪いと思えないんだよ」


『当然だろうな』


「だって、毎日の買い物だぞ」


『そうだ』


「“未来のために少し高い方を”って、言葉にすると綺麗だけど」


『うん』


「月末が近かったり、電気代上がってたり、他にも買うものがあったりしたら、普通に安い方に手が伸びる」


『それが消費の現実だ』


AIの返事は、いつになく責める感じがなかった。


『サステナブルな選択が難しい理由の一つは、価格差だけではない』


「じゃあ何だよ」


『日常の判断コストだ』


「判断コスト」


『毎回考えるのは疲れる、ということだ』


「それな」


俺は即答した。


「毎回全部を“正しい買い物”にしろって言われたら、たぶん数日で嫌になる」


『多くの人がそうだろう』


「第2部、ここに来て急に生活感出てきたな」


『市民回だからな』


「それは普通に便利ワードとして成立してるんだよな」


第3節 農家、自治体、企業の“締め切り”が、売り場で重なる


レタスを一玉取って、また戻す。


気づけば、頭の中で第6話から第8話までの会話が勝手に再生されていた。


農家の人が言っていた。


――“分かる”と“やる”のあいだに、“暮らし”がある。


自治体の人が言っていた。


――“土を戻すと何が減るのか”を、数字で示せと言われる。


企業の担当者が言っていた。


――“環境にいい会社でいたい”と“今年も決算を出さなきゃいけない”のあいだで揺れる。


「なんかさ」


俺は、レタス棚の前で立ち止まったまま呟いた。


「この売り場、思ったより人が多いな」


『人?』


「いや、実際には俺しか見えてないけど」


『比喩か』


「農家もいる。自治体もいる。企業もいる。で、最後に消費者の俺がいる」


『そうだ』


「全部の“締め切り”が、この値札のところで重なってる感じがする」


AIが少しだけ黙った。


『かなり良い見え方だ』


「珍しく素直だな」


『今日は市民回だからな』


「便利ワードへの依存度が上がってるんだよ」


でも、ほんとにそうだった。


この値段には、土の時間が入っているかもしれない。


入っていないかもしれない。


この安さには、企業努力が入っている。


物流も入っている。


農家の無理も入っているかもしれない。


見えないだけで、いろんな立場の締め切りが、ここで数字になっている。


第4節 買い物かごは、思ったより“投票箱”に近かった


『消費者の購買行動は、企業や供給側へのシグナルにもなる』


AIがそう出したとき、俺は少しだけ眉をひそめた。


「分かるけどさ、“シグナル”とか言われると急に責任重くなるんだよな」


『だろうな』


「買い物って、もっとこう、適当で、反射で、空腹でやるもんじゃん」


『現実には、かなりそうだ』


「なのに、“それは企業への信号です”“未来の食料システムへの投票です”とか言われると、急に買い物かごが重くなる」


『重いだろうな』


俺は苦笑した。


でも、否定もできなかった。


企業は、売れるものを増やす。


売れないものを減らす。


もし“土を戻す側”の商品や取り組みが少しでも支持されれば、それはたぶん次の契約や次の棚に影響する。


小さい。


かなり小さい。


でも、ゼロではない。


「買い物かごって、思ったより投票箱っぽいんだな」


『完全な投票箱ではない』


「出たな」


『だが、全く無関係でもない』


「第2部らしい言い方だな」


『最も正確だ』


第5節 ニュースの豪雨と、売り場のきゅうりはつながっていた


レジの近くまで来たとき、店内モニターでニュースが流れた。


『西日本では大気の状態が不安定となっており、土砂災害や低い土地の浸水に警戒が必要です──』


また豪雨か、と思った。


でも今日は、それで終わらなかった。


第7話の会議室。


第6話の農家の顔。


第4話の、スポンジみたいな土。


全部が一気につながってしまった。


「なあ」


俺は、小さくスマホに向かって言った。


「この豪雨のニュースと、今かごに入れた野菜って、ほんとは同じ流域の話なんだよな」


『かなりの部分で、そうだ』


『土の保水性、農地の流出、流域治水、供給の安定、価格の変動は、別々の話ではない』


「やめろよ、急に全部つながると怖いだろ」


『第2部だからな』


「もうそれ、お守りみたいに使ってるだろ」


でも、本当に怖かった。


昨日まで、“豪雨ニュース”はニュースだった。


“野菜の値段”は家計だった。


“土壌再生”は本の中の話だった。


今は違う。


それが全部、一本の線でつながって見えてしまう。


第6節 全部の買い物を正義にするのは、たぶん無理だ


レジ待ちの列に並びながら、俺はかごの中身を見た。


特売の卵。


安かった豆腐。


普通の牛乳。


少し迷って、結局いつもの値段帯で選んだ野菜。


完璧じゃない。


というか、かなり普通だ。


「これで“土に投票しました”とか言うの、無理あるよな」


『あるな』


「だよな」


『全部の買い物を、常に理想的な行動にするのは難しい』


『価格、習慣、情報量、疲労、時間制約があるからだ』


「ありがとう。めちゃくちゃ現実的で助かる」


『現実の話だからな』


「でも、じゃあ意味ないのかっていうと、それも違う気がするんだよ」


『その感覚は重要だ』


俺は少しだけ考えた。


全部は無理。


毎回も無理。


完璧も無理。


でも、だからゼロでいい、にもならない。


それが、今日の売り場で一番引っかかったところだった。


第7節 “月に一回だけ土に投票する”なら、まだ現実かもしれない


レジの順番が近づいてきたとき、不意に、変にちょうどいい考えが浮かんだ。


「毎回じゃなくてさ」


『うん』


「月に一回だけなら、できるかもしれない」


『何をだ?』


「“土に投票する買い物”」


AIが少し黙った。


「普段は、普通に買う」


『うん』


「でも月に一回くらい、少しだけラベルをちゃんと見る」


『うん』


「直売所とか、顔の見える売り場とか、ちょっとだけ高くても納得できるものを選んでみる」


『うん』


「あるいは、“土を戻す”とか“流域を守る”みたいな文脈が分かるものに、意識して一票入れる」


『それなら、継続可能性は上がるかもしれないな』


「だろ?」


『完璧主義より、現実的な反復のほうが続きやすい』


「よし、その言い方は使う」


たぶんこれは、小さい。


かなり小さい。


世界のCO₂グラフも、海洋熱も、赤潮も、いきなり変わらない。


でも、今の俺にできる市民側の一歩としては、ちょうどいい大きさな気がした。


第8節 市民は、ヒーローじゃなくて“票を持つ人”だった


『第6話から第8話まで、お前は他人の締め切りを見てきた』


AIが静かに言う。


『では、市民の役割は何だと思う?』


「ヒーローではないな」


『うん』


「全部を背負う人でもない」


『うん』


「農家の代わりに畑に出るわけでもない」


『うん』


「自治体の代わりに予算を編成するわけでもない」


『うん』


「企業の代わりに契約を結ぶわけでもない」


『うん』


「でも、票は持ってる」


『どういう意味だ?』


「買い物の票」


俺は、かごの取っ手を持ち直した。


「言葉の票」


『うん』


「誰を応援するかの票」


『うん』


「どの話に耳を傾けるかの票」


『うん』


「そして、選挙とか地域の要望とか、そういう普通の票もある」


AIは少しだけ沈黙してから、短く返した。


『かなり第2部の後半っぽくなってきたな』


「その言い方、もう許すわ」


第9節 土の話は、やっと日常の棚まで降りてきた


会計を終えて、エコバッグに食材を詰めながら、俺は少しだけ実感した。


第1話では、CO₂グラフを見て固まった。


第2話では、森を見た。


第3話では、農地から海への流出を見た。


第4話では、土を戻す理屈を見た。


第5話では、誰がやるのかを考えた。


第6話では、農家の締め切りを聞いた。


第7話では、自治体の会議室を見た。


第8話では、企業の決算と土を並べて見た。


そして今、第9話でようやく、その話がスーパーの棚まで降りてきた。


「遅いな」


『遅いな』


「でも、ここまで来ないと、俺はたぶん“自分の話”として受け取れなかった」


『多くの読者もそうかもしれない』


「そこは、まあ、そうだろうな」


土の話は、遠かった。


海の話も、遠かった。


温暖化も、どこか遠かった。


でも今は、ほうれん草の値段と、豪雨ニュースと、流域の土が、少なくとも頭の中では一本につながっている。


第10節 次に必要なのは、“票をどう束ねるか”かもしれない


家に向かう道すがら、俺はスマホのメモを開いた。


月一で、土に投票する。


そう書いてから、その下にもう一行足した。


――でも、個人の一票だけでは、たぶん弱い。


『その通りだ』


AIが言う。


「じゃあ、次はそこか」


『おそらくな』


「市民の小さな票を、どう束ねるか」


『共同購入、地域の仕組み、見えるラベル、企業との接続、自治体との接続』


「おい、次回予告みたいに並べるな」


『実際、次の論点だろう』


たしかにそうだった。


一人の買い物かごは小さい。


でも、束になれば流れになる。


その流れが、棚を変え、契約を変え、予算の言葉を変える可能性はある。


第9話は、そこまで見えたところで区切るのがいい気がした。


個人の選択は小さい。


でも、ゼロじゃない。


そして、小さいまま散らしておくより、どこかで束ねたほうがいい。


第2部の後半は、たぶんそこに入っていく。

あとがき

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


第2部第9話では、「農家」「自治体」「企業」と見てきた“土を戻す話”を、ようやく「市民の日常の買い物」にまで引き寄せました。


現実の消費行動では、価格、習慣、情報量、ラベル理解の負担が大きく、サステナブルな選択への意欲があっても、実際の購買行動には結びつきにくいことがあります。


環境ラベルやサステナブルな表示も、一定の前向きな反応を生む可能性はあります。


しかし、実際の売り場では意味が伝わりにくかったり、価格や習慣に負けたりすることもあります。


今回のポイントは、「安い方を選ぶのは悪なのか」という主人公の素朴な違和感から始めて、買い物の現実と、土壌・流域・供給の安定性が実はつながっていることを確認した点です。


農家の暮らし。


自治体の予算。


企業の決算。


そうした“締め切り”が、最終的には売り場の値札や棚に重なっている。


それが、第9話の中心でした。


そのうえで、本作は「毎回すべてを正しい買い物にしろ」という方向には進みません。


それは現実的ではなく、判断コストが高すぎて、たぶん続かないからです。


代わりにこの回では、「月に一回だけでも、土に投票するような買い物をする」という、小さくて続けやすい実践の形を主人公の中に置きました。


土の話は、農家や研究者だけの話ではありません。


洪水や干ばつ。


野菜の値段。


地域の安定性。


海への負荷。


そういった形で、すでに市民の日常の棚まで降りてきています。


第9話は、そのことを、スーパーの売り場という最も身近な場所から確認した回でした。


次回以降では、この「小さいけれどゼロではない市民の一票」を、どうやって束ねて流れにするのか。


地域、企業、自治体、仕組みの側へどう接続していくのか。


その話に入っていきます。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成:リアル(Perplexity)

校正・文体調整:G(ChatGPT)

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