第26話 溜まり場
「それじゃあ~瑠偉ちゃんの事を希唯依に説明しとくわ、絶対気になる筈やのに全然聞いてこないし、気になる事があればドンドン質問してええんやで・・・」
「・・・・・ベ、べ、別に、き、き、気使って無いっス・・・い、い、今から質問しようと思ってたっス・・・」
慎吾は『分かりやすい子やな、まぁ~何で人間がゾンビと一緒に行動してるとか確かに聞きにくいかも・・・』と思い横に居る瑠偉ちゃんを見てから希唯依に説明を始める。最初に出会った団地の事、ゾンビが襲いかかって来ても脱力状態になり襲われなくなる事、話すのは苦手だがこちらの言葉はある程度理解出来る事、ゾンビや人間の新鮮な死骸を食べて成長するがお食事シーンはグロいから注意する事、最後に武器をペロペロ舐めて綺麗にしてくれるなどを話すと説明を終える。
「・・・そうなんっスね、瑠偉ちゃん姉さん凄いっスね、今では見た目普通の女の子っス」
説明を聞き終えると希唯依はゾンビの姿から人間の姿に新しくなった瑠偉ちゃんを見て興奮気味で話す。瑠偉ちゃんは無表情で見返している。
「てかっ、さっきから瑠偉ちゃんの事姉さんって言ってるけど希唯依の方が明らかに年上やろ?」
ちょっと気になっていた事を聞いてみる。慎吾の事を『金髪坊主』と呼んでいた事はそのままの見た目と判断してスルーしておく。
「はいっス、私は14歳なんっスけど、こういうのには年齢は関係無いっス」
「こういうのってどういう事?」
「はいっス、慎吾一家の慎吾の兄貴の大事な右腕は瑠偉ちゃん姉さんっス、その点っス私は末席のペーペーっすから目上の方に対して兄貴、姉さん呼びは当然っス、それにっス私なんかはゾンビ1匹でも真正面からまともに戦っても苦戦するっス、でもっス瑠偉ちゃん姉さんは7匹のゾンビ相手でも戦える時点で実力も遠く及ばないっスから当然っス」
「・・・・・し、し、慎吾一家・・・は、は、初耳なんですけど・・・」
「はいっス、私の心の中では慎吾一家の慎吾の兄貴と瑠偉ちゃん姉さんにお世話になってるっス」
「・・・・・心の中ならしゃーないですけど・・・その心の中のお気持ち変更して貰う事は可能でしょうか?・・・・・」
「はいっス、無理っス、すみません慎吾の兄貴」
「・・・・・はい、分かりました・・・出来る限り完璧に近い感じで心の中でお願いしますよ・・・・・」
「はいっス、分かりましたっス」
慎吾は『他人様の心の中の事ならどうする事も出来ないですよね』と割り切る。
「それでゾンビが蠢きだしてからは希唯依はずっと1人やったん?」
「・・・・・・・・・・」
「んっ?どうしたん?」
「・・・・・1人じゃないっス・・・」
「何でも話して・・・希唯依が言ってた・・・し、し、慎吾一家ですよ・・・俺と瑠偉ちゃんは何でも話聞くよ」
話題を切り替える為とまた気になっていた事を聞いてみるが反応がおかしい。
「・・・・・・・はいっス、初めは【弐代目・鬼姫】の仲間と一緒だったっス」
少し躊躇っていたが話を始める。
「その【弐代目・鬼姫】って言うのは族?」
希唯依の真っ赤な特攻服に金刺繍で背中に確か書かれていたなと慎吾は思い出しながら。
「はいっス、その夜は5人で溜まってたっス・・・・・」
希唯依の話では【弐代目・鬼姫】5人は特に予定も無くいつもの様に夜コンビニで集まって居た、その時OBの先輩がフラッと現れて顔は血の気が無く目は少し充血して呼吸も荒く様子がおかしかったが、5人は『この先輩は薬をやってるのが有名』でバットの状態だと思い込み先輩なので断る事も出来ず付き合っていた、暫くすると突然震え出し地面に倒れて目を瞑ると動かなくなり『先輩なのでこのまま放置はまずい、家まで運ぶ』の結論になると、希唯依以外の2人が先輩を両脇から抱えた瞬間に目を見開き両側を抱えている2人の腕に噛み付く、少しの間希唯依を含む3人は呆然とするがその内の1人が『先輩大丈夫だったんですね、何で噛み付いたんですか、家まで送りますよ』と近づいた所で噛み付かれた、その瞬間に希唯依ともう1人は噛まれた仲間を素手で助けに行くが変貌した先輩に弾き飛ばされると2人は吹っ飛ぶ、すぐに起き上がるがそこでは先輩が最初に抱えた内1人に覆いかぶさり噛み付いていた、そこで吹っ飛ばされたもう1人が『希唯依逃げろ、先輩・・・こいつはおかしい逃げろ、落ち着いたらいつもの場所な』と叫ぶととりあえずその場を逃げ出した。
「・・・・・なるほど、それで逃げろって叫んだ子は?」
先輩と噛まれた3人は慎吾はもう無理と判断して話を促す。
「・・・はいっス、真紀姉さんとはコンビニからはバラバラに逃げたっス、それから何回か連絡してるっスけど繋がらないっス、他の【弐代目・鬼姫】の連中もそれ以外の友達も誰1人繋がらないっス・・・・・・・」
「なるはどな、俺もツレに連絡したけど繋がらんしな・・・その真紀姉さんとは?」
名前が出てきたので聞き返す。慎吾も悪友には連絡していたが実家の近く以外では繋がらなかった。
「はいっス、【弐代目・鬼姫】の総長っス、私の1つ上で良く面倒見てくれたっス、【弐代目・鬼姫】に誘ってくれたのも真紀姉さんっス」
「それでいつもの場所とは?」
「はいっス、私達の溜まり場っス、真紀姉さんの知り合いの不動産関係の部屋っス」
「その溜まり場には行った?」
「まだっス、そこに行こうと思ってたら途中でゾンビに出会ったっス・・・それでここに逃げて来たっス、コンビニの方は見に行ったんっスけど先輩に最初に噛まれた仲間とコンビニ店員のボロボロの死骸しか無かったっス・・・」
「・・・よしっ!その溜まり場見に行きたいやろ?希唯依?」
「えっ?」
「こっから場所は遠いん?」
「・・・嫌っ・・・あ、あ、あの・・・・・良いんっスか?」
「当然、全然ええよ、その真紀姉さんって先輩無事におったらええな?なっ!瑠偉ちゃん?」
「ウ”ァァァァァ」
瑠偉ちゃんは肯定の呻き声で首を縦に振り『そうだね』っと解釈しておく。
「はいっス、慎吾の兄貴、瑠偉ちゃん姉さん申し訳無いっス!」
そう言うと慎吾達は拝借したこの店の衣服、食料、嗜好品、使える物を袋に詰め込むとシャッターから商店街に出ると愛車の停車してある駐車場まで歩いて行く。先程始末したゾンビ7匹は瑠偉ちゃんが綺麗にお食事していて着ていたボロボロの衣服と地面などに浸み込んだ血、体液、油の跡しか無かった。
「あっ?、慎吾の兄貴、良いっスか!私が運転するっス」
ゾンビの気配も瑠偉ちゃんの右腕も反応も無く無事に駐車場に停車していた愛車に戻り、シートを倒して拡げた後部座席のトランクに拝借した荷物を積んで運転席側から乗り込もうとすると希唯依が声をかける。
「へぇ~そうなんや、それは楽出来そうやな・・・・・でも希唯依って14歳で免・・・・・」
慎吾は『14歳で免許無いやろ』っと言おうとしたが『無免許運転のお前が誰に言ってるんですかね』と『勿論お巡りさんもこの非常事態許してくれるはず』と超ポジティブ思考で脳内でクリアーする。
「大丈夫っスよ、溜まり場の場所も私しか知らないっス、それに車の運転はっス、暴走の時とかに良くやるっスから心配無いんで安心して下さいっス」
自信たっぷりに希唯依は話す。
「ほほ~それなら安心やね、それじゃあ頼むわ」
慎吾は何が安心か自分では理解していないが、希唯依の自信たっぷりの言葉に頷くと『まぁ~大丈夫でしょ』と頭に浮かべ助手席側に移動して乗り込む、そして希唯依が運転席に座り座席やミラーを調整すると受け取った鍵を回してエンジンを掛けると出発させる。瑠偉ちゃんはちゃっかり慎吾の膝の上に座っていた。