第21話 女のオシャレは特攻服っス
店内は2階建ての構造で1階はショップで異常は見当たらず、2階は休憩所になっており小型冷蔵庫、レンジ、寝具などある程度の生活必需品は揃っていた、荒らされた形跡も無く食料、水、お菓子、嗜好品も数日分残されていて、商店街の通路に面した位置に窓ガラスが設置されそこから覗けば外の状況が良く分かる。
『そうすっスね、暫くはここでお世話になるっス、天国っスからね」
2階の安全を確認して、窓ガラスのカーテンを閉めると心ウキウキさせて1階のショップに向かう。
「うわぁ~、凄いっス、このメリケンのバックル、鋲付きの腕輪、細めのサングラス、髑髏の指輪、他にも沢山良いっス、全部欲しいっス、てかっ、全部貰うっス」
女は天国に囲まれて有頂天で、ゾンビが蠢く世界を少しの間忘れて自分磨きに時間を使う、そして厳選して拝借した商品を装着した姿見に映る自分に納得すると上機嫌で2階に戻ると拝借した商品を眺めて楽しむ。
「やっぱ、女のオシャレは特攻服っス、サラシも鉄板ブーツもオシャレポイントが高すぎるっスね」
2階に持ち込んでいたインナーの真っ白なサラシと鉄板入りのブーツも拝借していたので急いで着替えて最初から着ていた真っ赤な金刺繡入りの特攻服に合わせると、姿見の前でヤンキー座りやメンチを切る動作やあまり吸わないが煙草を口に咥えてカクカク上下させたりして鏡に映る自分に満足気に話しかけコーディネートと動きに納得していると。商店街から突然「助けて~誰か助けて~」の女性の声の直後に「アアアアアァァァァァ」とゾンビ達の呻き声も続けて聞こえてきて慌ててカーテンを少し指で拡げると隙間から様子を伺う。
「あ~あ、残念っスけどアレはダメっスね」
最寄りの駅に隣接するこの商店街の駅側の方向から、2人の20代ぐらい男女が走って来るのが見える。その背後からは3匹の走るタイプのゾンビに狂気の呻き声と共に追いかけられて、その背後にも数体の歩くゾンビが2人の男女をユラユラ揺れて追いかけて来ており、女が覗く変形学生服ショップの5メートル程前方の場所で女性が1匹の走るタイプのゾンビに追いつかれ肩を掴まれ引きずり倒され仰向けにされると、残りの2匹の走るタイプのゾンビがあっという間に女性に群がり「きゃああああいやああああ」と悲鳴が数秒聞こえたが首筋や腕や足に噛み付き最後は3匹のゾンビに喰われ始めると悲鳴は聞こえなくなった、それからは遅れて来た4,5匹の歩くゾンビ達も加わり女性の姿はゾンビ達が覆いかぶさるので見えなくなる。
「まずは女性からっスよね・・・体力の問題っスからしょうがないっスけどね」
女は半分納得半分諦めのトーンで呟くと女性に群がるゾンビ達から目を逸らして先に逃げた男性に目を向ける、男性も疲労が限界なのか走る速度も落ちており首を上下左右に振り逃げ切れる場所を探しているが運が悪いのか見つからない、すると歩く速度まで体力が落ちたと同時に店と店の間の路地から飛び出してきた1匹のゾンビに両肩を掴まれ首筋に噛み付かれると「ぎゃああああああああ」と悲鳴を上げて涙を流すが、そのまま押し倒され抵抗して手足をバタバタさせるが徐々に動きが鈍くなり他のゾンビ達も迫って来て噛み付かれると動かなくなる。
「しょうがないっスね、運がただ悪かっただけっス、今の時代に生まれた事とゾンビに見つかった事っスかね?・・・・・・・しょうがないっス・・・」
男性に群がるゾンビ達を少し見て呟いてカーテンを閉めると、窓ガラスから静かに歩いて離れて2階の反対側の壁際に設置しているベットに横たわると先程までの上機嫌も消え去り目を瞑る。
「おはよう~、瑠偉ちゃん」
今日は可愛い人間の顔になったゾンビに見下ろされて朝を迎える。昨日は精神的、肉体的にも疲れ果てあのままソファーで寝てしまい慎吾は珍しく早く朝の7時に目が覚める。
「めっちゃ俺早起きやん、凄いな俺小学5年以来やでこんな早起きしたの、たぶんやけど」
大きく伸びをして誰も聞いていないが話をしながら起き上がる、それから喉の渇きでキッチンに行き牛乳をガブ飲みしてソファーに戻って座り一服して眠気が覚めると。無表情で無抵抗の瑠偉ちゃんに耳付きのウサギのフードを被せて着替えを終わらすと慎吾が瑠偉ちゃんにほぼ一方的に話しかける会話が始まった。
「ほんで、今日の予定は1回行った事のあるスポーツショップ店名はタナカスポーツやったかな?そこで新しいお高いブランドのジャージ上下を今度は着替え分も含めて4,5着拝借して俺のパンツ一丁を卒業します。ここの元住人のロリ変態とはサイズもセンスも合わへんからな~、早くジャージが欲しいな」
今は慎吾達が居座ってる部屋の(出会ったら必ず殺す)元住人の服は細身の慎吾には横幅が大きすぎて動きずらく、身長が180センチに対しては両腕と両足が露出し過ぎて落ち着かなくセンスに関しては全く慎吾的には論外だった。
「それでジャージをゲットしたら昨日行きそびれた3か所目の商店街のショップを見に行こうと思うんやけど、ほんでええかな?」
「ウ”ァァァァァ」
肯定の呻き声を聞くと、ソファーから立ち上がり『とりあえず、何か着やなあかんな・・・嫌ですけど・・・いくらゾンビが蠢く世界でもパン1で外ウロウロして店に入るのは何か違うしな・・・しゃーない、ここはスポーツショップ店まで我慢するか・・・・・』とサイズとセンスが合わない服装に着替えると準備をして扉を開けると1階に停車している愛車まで瑠偉ちゃんと歩いて行くと乗り込む。
「それじゃあ~、出発~」
発進させるとゆっくり運転してスポーツショップ店が見える少し手前で愛車を停車させて降りる。道中では壁に衝突して停車している車内で閉じ込められているゾンビやマンションのベランダを行ったり来たり揺れて移動しているゾンビや愛車のエンジン音に気付いてユラユラ追って来るゾンビなど複数確認していた『最初に見た時からあいつら増えてますな』と思いスポーツショップ店の入り口を一応物陰に身を屈めて様子を探る。
「う~ん、前に来た時と何も変わらん気もするし、ゾンビや人間の存在も無さそうやな」
スポーツショップ店の入り口も開いた状態でマネキンが飾られているショーウインドーにも破損や割れた痕も見当たらず店内も商品が床に散らばったりしていない。
「まぁ~大丈夫そうやね、瑠偉ちゃん行こうかな」
「ウ”ァァァァァ」
周囲に目を配り進みスポーツショップ店の入り口を通り越して店内に入り見渡すが異常は感じないので、目当てのジャージが陳列されているコーナーまで行くと瑠偉ちゃんの右腕が上下に『ピクピク』上下する。
「ここでおいでになるのね・・・まぁ~着替え中や着替えた後に比べたらマシでええんですけど・・・やけど何処におるんや?」
慎吾は瑠偉ちゃんの右腕を見て店内を再度見渡すが変わりは無いと思った瞬間に、レジのカウンターの奥に続く通路の先から呻き声が聞こえた。『あっこは確か前回はスルーした場所やったな』と思い出してカウンターまで金属バットを肩に担ぐと向かう、目線の先には曇りガラスが本体上部に設置された木製の扉が有り、向こう側から曇りガラスに写る人影が木製の扉を叩き狂気の呻き声も発している。
「う~ん、前回来た時はその木製の扉はめちゃくちゃ怪しくて確かにスルーしたんやけど・・・別に怪しいだけで呻き声も何もしなかったんですけどね・・・まぁ~見つけちゃったから始末しときますか、瑠偉ちゃん?」
「ウ”ァァァァァ」
真横に居る瑠偉ちゃんの可愛らしい両目を見て確認してOKを貰うと激しく叩く木製の扉の視線を戻す。




