【十話】 かつての激オコプンプンセリカの話を聞いた、お茶会の日
「ちょ! アカリ! 間違ってるわ!」
今日も、仕事でミスをしてしまった私。
セリカさんに絞られていた。
「ここのミス! 三度目! 次やったら、激辛カレーの刑だからね!」
「は! はいぃぃぃい! すみませんー!」
「メイ!」
「……は、はい!」
「オッケーよ」
「は、はいー……」
激辛カレーの刑はまだ受けた事が無いので分からないが、プランさんなら、即倒してしまうかもしれない。
そして、メイちゃんは問題なかったようであるが、あの威圧感のある声で呼ばれると、つい、びくっとしてしまうのは、よく分かる。
そうして、ようやく仕事が終わった。その瞬間にミランダさんに言われる。
「終わった、終わったー。ねーねー、アカリちゃーん。これから行っちゃうー? 天国へ――」
「駄目だ」
「――って、チュン、何でー!? もう仕事終わりっしょー?」
「うむ、仕事は終わった。で、これからメイとアカリは、私とお茶するんだ」
「えー? こないだもー、やってたじゃんー。たまにはこっちにも来てよー」
「お前はいつも娯楽室じゃないか……お前こそ、たまにはこっちに来たらどうだ?」
最近は、確かに仕事が終わってよくお茶をするようになっていた。
もちろん、ミランダさんと一緒に、娯楽室へ遊びに行く事もある。
私の割合としては、お茶をする方が多いかもしれないが、娯楽室に行く時は、チュンさんやメイちゃんも一緒に行く事も多い。
だが、確かに、お茶会にミランダさんが参加する事は多くは無い。
「えー? んー……んー」
ミランダさんが悩んでいるが、私もたまにはミランダさんにも来てほしいと思っていたので、同じく誘ってみた。
それにメイちゃんも賛同してくる。
「それに、今日はユウカも来る。あと、プランさんも来るそうだ」
「んー、じゃーさー。大テラス行こーよー」
「もちろん、そのつもりだ」
ミランダさんがそう言う理由は分かっている。どうやら、小テラスのほうは、カメラがあまり無いようなのである。
それに、小テラスでは、テーブルがそこまで大きくは無い。三人を超える人数だと、自然と大テラスに行くようである。
そして、私達は、一度部屋に戻ってから、自分達のお茶を用意する。
私は何でも良いのだが、やはり好みもあるようで、こういったプライベートのお茶の時は、自分の部屋から、自分の好きなお茶を淹れていく事がほとんどである。
(……えーっと、今日は、うーん、これにしよ)
私は、ジャスミンティーを入れたティーポットと、カップ、それから湯沸かし器を持って、メイちゃんと合流してから、大テラスに向かった。
「大テラスでお茶するの久しぶりだねー」
「そうだね、遠いから……」
そう、そこが意外に問題であった。
小テラスは、私達の部屋のすぐ近くなのだが、大テラスは、この二階のほぼ反対側。ちょっと遠い、と言うだけなのだが、ティーセットを持つと、どうも近場の小テラスに行ってしまう。
それだけ、この城の二階が広いと言う事でもある。
大テラスに出ると、既にチュンさんとミランダさんが居た。
「あー、来た来たー。ねーねー、二人は何のお茶ー? チュンってば、いっつも煎茶ばっかりだからー。コーヒー無いのー?」
「あ、私、ジャスミンティー入れてきちゃいました……」
忘れていた。
ミランダさんは、コーヒーが好きなのだ。だが、かなり砂糖とミルクを入れるので、もはやアレンジコーヒーになっている。
最近分かってきたが、ミランダさんは、ここでもかなりの甘党のようである。
「あー、私ー、それ駄目ー……」
ちなみにメイちゃんはコーヒーは飲まない。どうも体質に合わないらしい。
煎茶は飲むから、カフェインが駄目と言う訳でも無いようだが、どうも調子が悪くなるらしい。
「……あ、私、紅茶ですけど、アールグレイなので、ミルクとお砂糖も持ってきてますけど……」
どうやら、メイちゃんがミルクティーを用意してくれるようであるが、おそらくミランダさんには、砂糖が足りないと思われる量しか無い。
そこに、もう一人の甘党、いやここのメンバーでの一番だろう、プランさんがやって来た。
お盆には、少し大きめなおしゃれな器に、白い何かが乗った、物を入れているようである。
「あー! プランさん、それー、私もそれが良いなー!」
それを聞いて、プランさんはコクコクと頷いてこちらに来る。
(……さすが、プランさん……ちゃんと二人分ある……)
お盆には、それが二つ。
そして、皆と同じ席に座りつつ、一つをミランダさんの座っている前に置く。
「わ、これ、何なんですか?」
「んー、これねー。プランさん特製のー、生クリーム大量のココアだよー」
とても甘そうであるが、美味しそうである。
「わー、良いなー。美味しそうですねー」
「あ、アカリちゃん、私、飲ませてもらった事あるよ。とっても美味しかった」
メイちゃんの言葉に、ニコニコ笑い頷くプランさん。
(ああ、これ、次は絶対用意してくれる顔だ)
最近は、プランさんの事も良く分かってきている。こういう時の後、プランさんはちゃんと用意してくれる。
「あれ? ユウカは?」
チュンさんは、自分の湯飲みを持ちつつそちらを気にする。
それにはミランダさんが答えてくれる。
「うんー、まだー、四階フロアーだねー。うわー、セリカっちまだ仕事してるわー」
「さすがに、今のセリカさんの作業は手伝えん……」
セリカさんは何か研究をしているようである。そればかりは、出来る人は少ない。
「ああ、そう言えば、アカリ。今日もまた絞られてたな?」
「はう! また……ミスしちゃいました……」
私は、今日の仕事の時を思い出す。今日もセリカさんに、こってり絞られた。
「でもねー、すごい進歩だと思うけどねー?」
「私もそう思う。多分、セリカさんもそれは分かっているから、簡単なミスに怒るんだろ?」
「最近はー、メイちゃんもー、多いねー」
「……あ、そ、その、まだ作業が遅くって……」
今度はメイちゃんに話題が飛ぶ。今日は怒られてはいなかった。
「ま、今だから言えるんだが……まぁ、あれだ。セリカさんは二人に期待してるんだと思うよ」
「「は、はい……」」
チュンさんはそう言ってくれるが、セリカさんが怒ると怖いのは、先刻承知である。しかし、あくまで私達には、叱咤しているだけであり、怒りのままに言っている訳では無いのも、良く分かっているつもりではある。
それでも、怖い物は怖い。
「だから、そう怖がる必要は無いと思うぞ? ま、本気で怒ったら、アレだ。前、社長が来た時の……」
その言葉で思い出す。あの時は、確かに怒っていた。明らかに違うオーラを纏っていた。
「あのー、それでちょっと思い出したんですけど……」
「ん?」
「あの時、セリカさん怒ってましたよね?」
「怒ってたねー。あれ、ほんとー、何時以来だったっけー?」
「アンカ室長の時だな……」
「あのー、それなんですけど……その、アンカ室長の時って……何だったんですか?」
確か、前もそう言っていた事を思い出した。だが、それが何だったのか、私とメイちゃんは知らないし、分からない。
「…………あー…………あれはねー…………」
「うむ……まぁ、仕方が無い……」
うんうんと、プランさんも頷く。
「「……え……?」」
「あれは、二年半くらい前だったかな?」
「うーん、それくらいかねー?」
そして、チュンさんとミランダさんが、昔の話をしてくれた。
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まだ、アンカがここの室長に就任し、あまり間が経っていない頃であった。
ここのメンバーから、ミカが抜けた為、ここの人数は、9名になってしまっていた。
どのメンバーも、まだ若く、そして日が浅いメンバーも多い。そして、実働は8人。
プランが唯一の主任であり、技師でもあった為、多忙な日々を過していた。
巡回艇もまだ少なく、夜間用も無かった頃である。
メンテナンスにも時間がかかる為、プランはほとんど四階フロアーには居る事は無く、セリカとアンカで、日の浅いメンバーをほぼ全員見ていた。
チュンと、ミランダはそれでも長い方であり、最も作業を多くこなしていたかもしれない時期である。ユウカやエレナは、まだまだ作業も覚束ない。リーゼは、ずっとプランに付いていたが、それでも何とか日々を過していた。
そして、夜間巡回も専属が居ない為、その中のメンバーでやらないといけない。
アンカも、セリカも、そしてプランも多忙であった。
だから、”ひずみ”発生の際に、フロアー内に人が居ない、等という事もあった。
夜間巡回を行ったメンバーが、就寝しているからである。
しかし、”ひずみ”が起きれば、対応しないといけない。
その為、必要な物があった。
それは、就寝しているメンバーに、”ひずみ”を知らせる物である。
だが、寝ていても、彼女達はそれを感知出来る。しかし、感知できたからと言って、必ずしも起きれる訳ではない。
しかし、それが悲劇を生んだ。
その日は、午前に”ひずみ”が起きた為、皆、疲れていた。
前の晩、夜間巡回に出ていた、セリカやチュンは、それで叩き起こされた。
だが、それは仕方の無い事である。
それを感じ取った二人も、寝ていた自室から、すぐさま四階フロアーに向かった。
先程、寝たばかりだというのに、すぐに起こされる。
仕方が無いが、腹が立つ。それがセリカの心象だった。
その”ひずみ”は少し大きく、その日は大変であった。
結局、事後処理等もあって、夜遅くになってしまった。
セリカは、その前の晩も、あまり寝ていない。かなり寝不足だった。
事後処理の後は、すぐにベッドに直行したのだった。
そして、夜にそれが起きた。
サイレンの音が、城中に鳴り響いた。
それが、その時に使用されていた、”ひずみ”を知らせる合図である。
感知が出来ても、疲れて寝ているメンバーが起きない事もあったので、かなりの大音量のサイレンなのである。
「……う、嘘よ! 夜中なのに……! まさか……」
セリカは一人で、そう叫びながら、四階フロアーへ向かった。
(何? 感知も出来ない。いや、予知も出来なかった……一体……)
四階フロアーへ行くと、他のメンバーも、慌てて来ていた。
「今! 夜間行っているのは誰!?」
「リーゼちゃんとー、プランさんー!」
「皆、感知出来てる!?」
「なんにもぉ」
「ああ、感じないよ!」
「……どういう事? 感知も出来ない”ひずみ”……?」
そこは、これまでに無い緊張感で包まれていた。
夜に”ひずみ”が発生する事は、これまで無かった。しかし、別の”ブルー空間”では起きたことがあるとも聞いている。
だが、それなら何故、誰も感知出来ないのか。
それとも、夜に起きると、感知が出来ないのか。
(どういう事――)
そうセリカが思っていた所に、焦ったようにアンカが入ってきた。
それはそうかもしれない。このような事態は、初めてなのだから。
「み、皆! はぁ!」
「アンカ! 何があったの? 何処で起きてるの!?」
「……あ! ……皆……やっぱり来ちゃったのね……」
「どういう事?」
アンカの声色は焦っている。しかし、発言がどうも変である。
(やっぱり来ちゃった……?)
セリカは、嫌な事が頭を過ぎった。しかし、あり得なくは無い、とも感じ取った。
この、アンカなら――
「そ、その……い、今のサイレンなんだけれど……」
「…………まさか………………誤報、……とか言わないわよね?」
「……………………えーっと」
「……………………言わない……わよね……?」
「………………お掃除をね、していたんですけど…………」
「………………間違えて押したとか、……言わないわよね……?」
「……………………あ、え、う、そのー…………」
間違いなかった。
アンカは、たまに、大きなミスをする。天然で。
それが今起きたのだ。
起きたのは、”ひずみ”で無く、アンカの天然。
「ねぇ、アンカぁ? あれってぇ? とーっても大事な物よねぇ?」
「お、お掃除する暇が……この時間になっちゃいまして……」
「掃除ってダイジヨネェ!? デモサァ!? それをっ! このっ! お、オバカアンカぁぁぁぁぁああああああああ!!」
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「ありましたね、それ……」
「本当にね……困った物よ、アンカのドジッっぷりには……」
仕事の締めをしながら、ユウカとセリカが話をしていた。
「あれって、今どうなってるんですか?」
「三重に蓋をしてるわ。ま、今はもう、普段使われる事は無いでしょうね」
「使われないほうが、私は助かりますけど……」
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「――ってな感じだったんだよねー」
「その後しばらく、アンカ室長は、セリカさんに怒られ続けていたよ……」
「「は、はぁ……」」
ミランダさんと、チュンさんがその時の事を話してくれていた。
私とメイちゃんは、その時に居なかったので、想像するしかないが、何故だか分かる気がする。
「サイレンより、セリカさんの方が、その日は煩かった気がする……」
「確かにねー。室長なんかさー、正座させられてなかったー?」
「してたな。させられてたな……」
「セリカっちがさー、ああなるとねー、一旦怒りが静まったと思ってもー、何度も来るんだよねー」
「ああ。そして突然叫び出す。鬼の顔でな」
なるほど、と納得する。
確かに前、怒っていた時はそんな感じだった。
「……あ、その、私もそのサイレンは聞いた事が無いんですけれど……」
「メイちゃんも、そうなの?」
「……うん」
どうやら、メイちゃんはそのサイレン自体を知らないらしい。
「まーねー。今じゃさー、ほら、アリスちゃんとー、マイヤちゃんが夜間やってくれてるしー。その頃よりも人数も居るしー。だから使わないんだよねー」
「まぁ、私もあの音は好かん。鳴らない今は良いよ、本当」
それを知っている、チュンさんと、ミランダさんと、プランさんはそれに頷く。
(それにしても、昔は大変だったんだなぁ……夜間もやってお昼もやって……)
「さて、ユウカは来られなかったなぁ」
「当座のセリカっちとー、なんか話してるぽいねー」
チュンさんは立ち上がりながら言う。残念だが、今日はユウカさんは来れないようであった。それに、もう時間になる。
「じゃあ、掃除するか」
「「はい」」
「……ありゃ!? まずいよ、ソレ!」
そして、けたたましい音が鳴った。
「え!? こ、これって……」
「おい! ミランダ!?」
「…………あー、やっちゃったー…………」
「み、ミランダさん……?」
「あー、うん。”ひずみ”じゃないよー? でも残念ー。しばらく激オコプンプンだねー、こりゃ……」
カメラで室長室を覗いていたのだろうか。ミランダさんは成り行きを分かっているようである。
アンカ室長が、またもやらかしたらしい。
そして、その後、サイレンよりも恐ろしい声が聞こえていた。
「ちょっと! アンカぁ!? どうやったらっ! 三重の蓋を間違って開けるのよっ!! ねぇ! きいてんの! くぉらぁぁぁぁぁああ!」
「だ、だって突然、くしゃみが何回も……!」
その日は、終日その声が聞こえていた日だった。
お読みいただきありがとうございます。




