【六日目】 夜間巡回業務
掃除を終え、一旦部屋に戻る。ミランダさんと、セリカさんと、私は、そのまま、お風呂に向かう事になった。
ご飯まで、時間はあるので、入ってしまおう、という事で。
その間、私は、ミランダさんに、カメラの場所をちょくちょく聞いていた。
「あー、ここの通路ねー。ここはー、あそことー、こことー、それとー、そっちー。その先の、上もあるよー」
そう、聞かされるのであるが。
(うん、ある。……それは分かる。……でも、多くて、やっぱり覚えきれない……)
そして、脱衣所に入る。
「あのー、ここにも、あるんですか?」
「んー、ここはー、入り口と、あそこだけー」
あそこ、と言われた先は、髪を乾かしていた場所。ならば、この脱衣場では、ほとんど見えていない、という事になる。
それは、今、ミランダさんや私が居る、この場所も。
「そんでー、中は、一個も無いのー」
そして、お風呂場には、一つも無い。お風呂場では、ミランダさんは、何も見えないのだ。
ミランダさんを、よくよく見ていたら、その機械を、外してた。
今まで、よく見ていなかった。それに、ミランダさんの髪に隠れて見え辛い。だが、確かに外している。
雑に置かれてた、服の下に、それも置いていた。
「じゃ、お先」
セリカさんは、今までで、誰よりも、一番早い。
頭を、タオルで巻いている。綺麗な黒髪が、多分、その中で、渦巻きになっているのだろう。
私は、ミランダさんを連れて、お風呂場へ入る。今まで、メイちゃんや、プランさんがそうしていた。
だが、結構、自分で分かっているようで、掛け湯の桶も、場所も、大体この辺り、というのは、察しがついているようだった。
「あ、ミランダさん、ここから浴槽ですよ」
「んー、おっけー。っと、よっこらしょっと」
セリカさんは既にオンセンに入って、のんびりしていた。
そこに、エレナさん、メイちゃんもやって来る。
「あー! もう入られてるー」
「……あ、エレナさん、今は、飛び込んじゃ駄目ですよ」
「おー、来たねー」
そして、更に、アンカ室長も来た。
「あら、セリカさんも。もう、今日は居たんですね」
「ええ、たまには良いわ」
「折角のオンセンなんですから、もっと、入ったらいいのに……」
「アンカは入りすぎ。ふやけるわよ?」
そして、結局エレナさんは飛び込んだ。
-バッシャーン-
「うっひゃー!」
「ちょ! エレナ! 飛び込まないでって、言ってるのに!」
「危ないわよ? エレナさん」
「……ああ。……言ったんですけれど……」
「賑やかだねー。んーんー」
「あ、あはははは……」
皆で、オンセンに入る。
欲を言えば、本当に、ここの皆で、全員で入りたい。
そして、アンカ室長には、やはり、アヒルさんが居る。
のんびりとオンセンに入っている時、私は、ふと疑問に思い、聞いてみた。
「あのー、ここの、このオンセンって、何処から来てるんですか?」
「んー、そういやー、そうだねー。セリカっちー?」
「ええ、実際は、分かってないのよねー」
「でも、ちゃんと、泉質も調べられてますから」
「そ。だから、そこは気にしなくて良いわ。でも、何処から、……か。大体の、想定はあるけれど」
質問には、答えてもらえもらえなかった。
まだ、そこは、確証があるのでは、無いのかもしれない。
「ま、アンカも何回も入ってても、何も無いし。泉質は確かにしっかり分かっているし。気持ち良いのも事実だし」
「ええ。ここでのんびりすると、疲れも薄くなって、また仕事が捗ります」
「んー、……それ分かるわー」
「……ん。……私もですー」
確かに、気持ちが良いのは、事実だ。
とても、気持ちが良くて、のんびりする。
それから、皆でシャワー室に行き、脱衣所に戻って、髪を乾かす。この中で、髪の長い順は、ミランダさん、メイちゃん、それからセリカさん。
この三人は、髪のお手入れも、大変である。
(…………そういえば、…………ここだと、……何処で、髪を切るんだろ?)
そして、皆、一度部屋に戻り、食堂へ向かう。もう、そんな時間であった。
昨日とは違い、今日は、晩御飯は、皆、揃った。晩御飯の挨拶の前に、アンカ室長が言ってくれた。
「皆さんに、お知らせがあります。アカリさん。彼女は、正式にここに配属になります」
「え? もう!?」
「……………………おめでと……」
「…………アカリちゃん」
「ふふ」
それぞれが、それぞれの反応をする。
もう、知っていた人。知らなくても、察していた人。歓迎してくれる人。驚く人。少し、心配そうに見てくれる人。
「正式には、今後、本部から、辞令が着ますので。それまでは、試験期間と同様の扱いになります。ただ、辞令もすぐに来るでしょうから。」
「ねー、しつちょー。巡回はー?」
「それは、まだ、ですね」
「そもそも、操縦の仕方を教えないと」
「ああ、アカリさん、確か、車の運転も知らないって」
「ああ、それね。私、考えがあるから、ちょっと待ってて」
セリカさんが最後に、何か考えがある、と言う。
(へ? 考え? 何だろう……)
だが、そもそも、聞いていた事から推測すると、兆候が起きないと、”ひずみ”は感じる事が出来ない。
それが起きてから、ようやく巡回に行けるはず。
「ま、食事が冷めてしまうから、先に、食事にしましょう」
「あ、そうですね。では」
セリカさんの、その言葉で、食事になった。
(今日の晩御飯は、……えーっと。………これは、………何でしょうか?)
「マーボー!」
エレナさんが、叫んで食べている。
「いったーーー!」
「ほら、熱いから」
(お米に、お豆腐、……は分かる。……で、他のこれは、……お野菜?)
一口食べて見る。
(……うん。美味しい。………………へ。………………え、……か、辛い!)
そう思って、プランさんを見る。
(……………………ほとんど、お米)
他のみんなは、辛い物は大丈夫なのか、好きなのか、エレナさんとリーゼさんは、お代わりしている。
(いや、いつもの事、……だけれど)
そして、アリスさん。
「………………………………………………からい。……………………もぐもぐ」
寝そうな顔で、ちょっと汗をかきながら、結局食べている。
マイヤさんは、そこまで辛い物は得意じゃないのか、少なめ。
プランさんは、もう、言わずもがな。
(て言うか、プランさん。……今日の、お食事当番、入ってるのに、…………何で、……苦手な辛い物に……)
食事が終わった、その後に、何人かに声をかけられた。
「じゃあ、改めて、よろしくね」
「よろしくねぇー!」
「あ、アカリちゃん……」
リーゼさん、エレナさんが声をかけてくれ、メイちゃんも何か言いたげに、私の名前を呼ぶ。
メイちゃんが、言いたい事は、なんとなく分かる。
チュンさんは、何も言わないが、肩をポンポンと叩いてくれた。
ユウカさんは視線だけ、少しこちらをみて頷いていた。
夜間の二人、アリスさんとマイヤさんも、こちらをチラっとみて、少し笑っているようであった。
そして、最後にセリカさんに言われる。
「じゃ、明日から、覚悟しておいてね」
怖い台詞である。それは、本格的に業務をやるから、という事なのは分かった。いや、もしかしたら、他の意味も、含んでいたのかもしれない。
だが、その後の言葉で、先の言葉が欠き消えてしまった。
「じゃあ、折角だし、後で、娯楽室へ行きましょうか」
「…………え?」
「おー、セリカっちー。やるかねー? あれ」
ミランダさんが乗ってくる。
「あ、私も行きます! 次こそ!」
リーゼさんも参加するようだ。
「じゃあ、折角だし、私達もどうですか?」
「あら、そうね。じゃあ、夜間の二人が出た後に」
ユウカさんとアンカ室長まで、娯楽室に行くようだ。
「あー駄目ー。室長ー、セリカっちは今日はこっちー」
「私、どっちでも良いわよ?」
「じゃあ、後ほど」
どうやら、これから、夜間の巡回組の、アリスさんと、マイヤさんが出発するので、アンカ室長と、プランさん、リーゼさんは、その補佐をしてから来るようだ。
私はちょっと気になっていたので、駄目もとでアンカ室長に聞いてみる。
「あの、折角なので、見学できませんか? 夜間の……」
「あら。そう? そうですね。じゃあプランさん、折角ですし、見学してもらってください。……じゃあ、その後ですね」
「ありゃー? アカリちゃんー、ちゃーんと来てねー」
ミランダさんに、念押しされる。
「あ、はい」
そして、私はプランさんとリーゼさんと一緒に、食堂の整理を手伝い、その後、巡回艇準備室に向かった。
一階は、これで三度目になるのか。だが、今後、私も行くようになるのかもしれない。それに、夜の二人が、どんな感じで、作業しているのか、私は全く知らない。そこに向かう途中に、リーゼさんに言われる。
「アカリさん、じゃあこれが終わったら、やりますよ! 負けませんよ!」
プランさんはニコニコ、コクコクと笑っている。
「えーっと、夜、夜間の巡回は、これくらいに出発するんですか?」
「そうだねー。大体これくらいかなー。でも、夜間は、ちゃんと時間が決まってるわけじゃ、無いんだよね」
「そうなんですか?」
コクコクとプランさんが頷いてくれる。
「夜間は、昼と違って、無い時も結構あるし、時間もまちまちなんだ」
私は、一度部屋に戻って、急いでメモ帳を持って来ていた。
それに、ふむふむ、と思いながら、今聞いた事を、書き込んでいく。
「これまでは、夜間は、アリスさんと、他に誰か、だったんだけど。もう、マイヤさんが決定したし」
夜間は、昼夜が逆転してしまう。アリスさんを見ていると、よく分かる。そんな大変な業務に、マイヤさんは志願したという。
「何故、マイヤさんは、その夜間に、なりたいって言ったんでしょうか?」
「うーん、多分マイヤさんはアリスさんと仲も良いし、あと、夜間は、さっき言ったみたいに、無い事もあるから。慣れてしまうと、楽なのかも」
リーゼさんも、理由までは、詳しくは聞いていない、という事だろう。
だが、そうすると、今度はこの、リーゼさんと、プランさんの二人も、また大変なんじゃないかと思う。そして、アンカ室長もだ。
それも聞いてみたが、二人は、意外にそうでないらしい。
「ほら、私達はさ、基本、巡回の出発と、帰着の時に居ればいいだけだからさ。それ以外の時間は結構あるんだよね。多分、一番大変なのは、アンカ室長だと思うよ」
「じゃあ、それ以外の時間は……?」
「うん、基本、巡回艇のメンテナンス。でも、毎日やってるけど、そんなにやる事もないし。まあ、改造できる所は、研究したりも、してるけど」
(ああ、そういえば、昨日、リーゼさんお風呂の途中で……。という事は、改造とか、前のブースターとか、あれは、義務でやっている訳では、無いと言う事なのかな……?)
そして、プランさんが教えてくれた。
[だから、お昼のご飯とかは、時間を使えるの]
なるほど、と納得する。
つまりは、お昼の食事当番は、お手伝いは、無かったけれど、単純に、時間をかけてやっている、と言う事だ。だから、お手伝いは無かったんだ、と気が付く。
そして、巡回艇準備室に着く。二人は、作業着をそのまま着て、夜間の巡回艇、と説明された船を、チェックし始めた。私は、それを、少し離れた所から、見学していた。
そうすると、夜間の二人の、アリスさんと、マイヤさんがやって来た。
(アリスさん、大丈夫かな……?)
今まで、ほぼ、ほとんど眠そうにしていたアリスさんだが、もう、この時間になると、もしくは、仕事になると、しっかりするのか、リーゼさんと話をし始めた。
「……メンテ。……どうです? ……ブースター、……こっちにも付きました?」
「うーん、夜間の巡回艇にはブースターは、まだ、ちょっと」
「……発進。……もう行けますか?」
「もう少し」
「アリス、きょうあ、あそこ、とおくないよ」
「……うん、でも、……ブースター、使ってみたい」
そんな事を話しつつ、アリスさんと、マイヤさんの二人が、私のところへ来た。
プランさんと、リーゼさんは、そのまま、チェックを続けている。
「……お疲れ。……アカリちゃん。……夜の巡回まで、もう見学するんだね……」
「あ、はい。折角なので」
「アカリさう、まじめあね。でも、よるあもう、あんまりないよ?」
「うん。……マイヤが、専属になったから……」
「でも、夜の巡回なんて、大変だね」
こうして、この二人と、このような、まともに話するのは、初めてだと思う。アリスさんは、普段いつも眠そうで、マイヤさんも、私が来てからは、ずっと夜間業務だった。
「……ん、そうでもないよ?」
「うん、なれて、きたよ。なれえば、おひるより、らくかも」
二人とも慣れてしまったようだ。それに、マイヤさん、今、慣れればお昼より楽かも、って。
確かに、リーゼさんもそう言っていた。
「……でも、……ちょっと残念」
「え?」
「……ブースター、……使いたい」
(…………ああ、そっちですか)
「やかんの、ふねあねー、おひるのより、ちょっと、おそいの」
「あ、じゃあ、そんなにスピード出ないんですね」
「……そう。……ちょっと、遅い。……だから、……早く欲しい。……ブースター」
夜間巡回用の巡回艇は、お昼のより、スピードが遅いらしい。そして、ブースターを使えば、早くなるようである。
(あれ? でも、夜間は基本、”ひずみ”は出ないんだっけ。という事は……)
「夜間って、もしかして、自分で、えーっと、車みたいに、操縦する事って、無いんですか?」
「……そう、無い。私、一回も、……やった事ない」
「あたしは、あるけど、ちょっと、にがて」
(それは、……ちょっと、羨ましいかも。……私も、出来るのかどうか、分からないし。あんまり、……自信、………………無い)
マイヤさんは、最近、夜間専属になった。逆に言えば、それまでは、お昼もやってた事がある、という事だ。だから、そうなると、”ひずみ”の際の経験もあるようである。
(でも、じゃあ、アリスさんは、いつから、専属なんだろ……?)
「アリスさん、マイヤさん、準備できたよ!」
リーゼさんが二人を呼ぶ。
「……あ、行かなきゃ」
「アカリさう、じゃあ、いってくうね」
「あ、はい、じゃあ、お気をつけてー」
それから、二人は巡回艇に乗り込む。お昼の巡回艇とは、どこが一体違うのだろうか。
(あ、あれは、……そっか。光るんだ)
見ると、巡回艇の上に、ライトが付いていて、チカチカと光っている。おそらく、私が、前の夜に見た光。あれは、これだったのだ、と気がつく。中もぼんやりと、青白く光っている。
それから、足場があるところまでは、前に見学した、お昼の巡回艇と同じように、リーゼさんと、プランさんが補佐している。
足場が無くなった、その先の向こう。そこは、前に聞いた、エンジンをあそこまではかけてはいけない、と聞いた場所。そこを、見てみる。
夜は、そこの光も、よく分かる。それから、巡回艇の前の方にも、かなり強いライトが点く。こちらを向かれたりすると、とても眩しそうである。
夜間巡回艇は、前を照らす為の、強いライト、上に、位置が分かるようになのか、点滅するライト。
透明な中もぼんやり光っている。そして、そのエンジンをかける場所まで、のろのろと進んだ後、あっという間に、その光は見えなくなった。
アリスさんは、遅い、と言っていたが、私は、十分早い、と思った。
リーゼさんと、プランさんと、それを見送ってから、一緒に、巡回艇準備室の中に戻る。
巡回艇準備室を出る時、プランさんが、何かボタンを押して、その開いた、城の壁の所を閉めていた。
上から、鉄であろうか、重そうなシャッターが閉じてきて、外への出口は完全に塞がった。
そして、それから、娯楽室に向かう。
途中で、気になった事を、リーゼさんに聞いた。
「あの、お二人は、何時くらいに、帰ってくるんですか?」
「うん。今日は、……と言うか明日だね。今回は、明日の朝の、4時……くらいかな?」
「え? じゃ、じゃあ、あの、あそこも閉めちゃいましたし。……誰が、お迎えするんですか?」
「それは大丈夫。あの巡回艇からなら、あそこは開けられるんだ。それに、夜間のだけには、帰着時の、オートサポート機能が搭載されてる」
「夜間のだけ、……ですか?」
「そうなんだよね。……全部に付けたいけど。……昼の巡回艇は、型が古いから。あ、でも今度、増産されてるのには、ちゃんと付いてるらしいよ。いや、それだけじゃなく、今作られているのには、発進時もオートサポートが、出来るようになるらしいんだ。ブースターも、あれなら問題なく付くし。それに、給水先の所も、換装が出来るって、聞いている! で、さらには、モニターも増える! サウサーからの、オートシフトエチが、早くなるらしい! そしてYJHSEにも、改良が入っている! 後は! サポートエンジンが、付く箇所があるのか? いや、付けてもらわないと!! メインエンジンが、小型化され、かつ速度も保ちつつ、エンジンも、これまでの物と違って、水圧式――――」
「………………あ、あのー、……………………ちょっと、……………………それ以上は……」
途中から、リーゼさんの火が点きそうだったので、消し止めた。
(……うん、説明してくれるのは、……ありがたい、のだけれど。…………ヨク、ワカリマセン……)
「……あ、そう? あー、早く来ないかなー」
リーゼさんは、その増産している、新型の巡回艇の事を、心待ちにしているようだ。
(……ああ、リーゼさん。……こういう事、…………本当に好きなんだ。…………あ…………ははは…………)
そして、三人で、娯楽室に入ると、
もう、人が居た。ミランダさん、セリカさん、ユウカさん、アンカ室長。
(あれ、メイちゃんと、チュンさん、あとエレナさんが居ない……)
「おおー、来た来たー。さー、じゃーアカリちゃんはこっちー」
「あら、ミランダさん。折角だし、こっちにも、入ってもらいたいわ?」
「えー? こっちが先だよー」
「でも、こちらも、多いほうが楽しいわ」
(み、ミランダさんとユウカさんが、……え? 私を、取り合い……?)
リーゼさんは、ミランダさんの方へ、行った。
そして、プランさんは、ユウカさんの方へ、行った。
二組に、分かれた人達。
ユウカさんや、アンカ室長、それと今、プランさんが行った先は、確か”ダーツ”と教えられた物。
(で、…………ミランダさんの方は、………………なんでしょうか?)
「えー? いいじゃんー。こっち、四人、居ないとー」
「でも、三人でも、それ、出来ますよね?」
そして、どっちにする? と言う目で、見られた。
(え、えーっと、…………ど、どうしよう!?)
私がどちらにするか、悩んでいた所に、ドアが開いてエレナさんが入って来た。
「あれぇー? どしたのー? …………はれ?」
「…………えーっと…………」
「あ! これなら4人、4人で綺麗に分かれるよー!」
「あ、エレナ、どっち入る?」
ユウカさんが、今度はエレナさんに、どっちにするかと、視線を送る。
エレナさんは、二人の方を交互に見てから、じゃあ、こっち、と、プランさん達のほう、ダーツの方へ行った。
「じゃー、アカリちゃんはーこっちー」
そして、自動的に、私の方も決まったようだ。
「あら、じゃあアカリ。次は、こっちに入ってね」
「あ、はい。じゃあ、今度」
「まー、いきなし、そのメンバーの中に入っちゃうとー、きついっしょー」
そして、メンバーが決まったのは、良いのだが、私は、これが何か分からない。
何か、ボタン、と思う物が、四個付いている物が、四台あり、画面が、二つ点いている。
「ねー、これさー、先にちょっと練習させたげてよー」
「ええ、チームは、……もう、これでいいかしら?」
「うんー、じゃー、私とー、アカリちゃんー。でー、そっちがー、セリカっちと、リーゼちゃんねー」
「ええっと、……これで、何をするんですか?」
「んー、簡単、簡単ー。ええっとー。ちょっと見ててー」
どうやら、ミランダさんが先に、やって見せてくれるようだ。
「これー、これね。これがねー、落ちてきたらー、ここに来たときに、このボタンを押すのー。っと、こんな感じねー」
画面の上から、マークのような、何かが、落ちてきている。
「それが、四つ分かれて、落ちてくるから」
セリカさんが、補足説明してくれる。
「そー、ほら、これねー。で、そこのボタンをー、っと、タイミング良く押すのー。これだけー」
(ふむ、……これなら、分かるかも)
「じゃー、ちょっと練習ねー」
「私も、ちょっと、肩慣らしをしてますから」
リーゼさんは、一人でやり始める。そして、私。
(えーっと……あ、来た。えーっと、……これがここに、来た時に、……えい!)
「んー、そーそー。次、来るよー」
「ほら、次は、そこの右」
(え、えっと、あ、こっち。……えい!)
「そーそー。そんな感じー」
「その後、一番右が来るわ」
「えっと」
(……あ、これかな。……んー、えい!)
「うんーうんー。そーそー」
「じゃあ、一つ、やらせてみたら?」
「そだねー」
そう言って、ミランダさんが何やら操作してくれる。
「んー、じゃあ最初だしー、これかねー」
「……えーっと?」
「ああ、さっきの感じでね、落ちてくるから。その要領で、押せば良いだけよ」
セリカさんに、そう言われて、始めてみる。
(えーっと、……あ! 来た。これが、ここ! ……えい! ……え!? もう、次来てる! えっと、こ、こっち! あ! もう次! こ、これ! つ、次! えい!)
落ちてくるマークのような物。それに合わせて、えい! えい! と押していく。セリカさんと、ミランダさんは、私がやっているのを見ていた。
そして、少しすると、それは終わった。
「おー! 結構良いスコアーじゃんー」
「あら、これなら倒しがいがあるわね」
「こ、こういうゲーム、ですか?」
「そーそー。それをねー、二人ずつに分かれてー、点数を競うのねー。難しいのもあるけどねー。それだとー、チームでやっても、あんまり、面白くないんだよねー」
「そう。簡単な物ほど、そのタイミングで、スコアーも、大きく変わるし」
「ええっと、……難しい物って……?」
「んー、……今の感じのやつがねー。…………雨霰のように、落ちてくるんー」
「あれは、少し疲れるわ」
セリカさんは、一応、出来なくは無い、という事なのか。
「じゃー早速ー、やっちゃおかー。リーゼちゃん、もー、いいー?」
「…………………………………………………………はっ! あ! はい!」
(あ…………熱中してた……………………?)
そうして、そのゲームが始まった。
「あ! アカリちゃん! そっち!」
「あ! はい! えい!」
「リリーゼ! そっちよ!」
「了解! …………あ」
「あ! ちょ! こっち来た!」
「おー! そりゃー! なはははは!」
「わ! こっち!? えい!」
どうやら、これは、上手く押せると、その次の人に、その分の、お返しが行くようだ。そして、それが、誰に行くか分からないので、順番、というわけでも無いようである。ただ、それを上手く返せると、自分のチームの点数に、なるようだった。
「えい!」
「おおー、良いじゃん、アカリちゃーん!」
「え!? こっち? また!? で! あ……」
リーゼさんがミスをしたようである。けれど、ゲームは止まらない。
「あら! ほーら!」
「ってー、それ早い! え! ……あー、……って、次、アカリちゃん!」
「え? え? あ! えい!」
「って! あ! 何よ、それ!」
私が無我夢中でやった物が、セリカさんの方に行ったようである。
「ナーイス! アッカリちゃーん!」
と言っていた、ミランダさんに、次が既に行っていた。
「…………あ!」
「油断大敵ー。っぷ」
セリカさんが勝ち誇った顔。そして、今、吹き出しましたね!
ゲームのルールは簡単。やる事も簡単。だけれど、面白い。
確かに、これだと多い人数の人の方が面白い。
「来た来た、……ほら! って! 何で、戻ってくるのよ!?」
セリカさんは、自分でやった物が、自分に返ってきたようだった。
これは、自分でやった物も、誰に行くのか分からない。そこらへんは、運のようである。
だから、戦略的にやっても、それが、自分に返ってきてしまう事もある。
反射神経が必要のようで、それでも、通常のタイミングは、そう難しくは無いので、勘で、次に誰に行くのか、と考えて、タイミングを好きに合わせる。
そして、今度は、相手チームに行った、と思っても……。
「あ! アカリちゃん! それは取れんわー……」
このような感じで、味方に行ったりする。
そして、結局、最後には、私とミランダさんのチームが勝った。
「……き、……僅差、よ」
ちょっと悔しそうなセリカさん。
「くっ。自分など、…………まだまだ」
更に悔しそうなリーゼさん。
「にははー! 勝ったよーん! アカリちゃん、やるぅー!」
ミランダさんは、心底、嬉しそう。私は、まだ勝ったという実感が無い。でも、面白かった。だが、残念ながら、これは4人でしか出来ないようである。
そしてその頃には、ダーツのチームのほうも終わりそうだった。
「えいやぁー」
そんな掛け声で、投げていた、エレナさん。
「え! ちょ! エレナ! なんで、それで、そこ行くのよ!」
「あら、……負けちゃいましたね」
それを笑顔で見てみる、プランさん。
あちらの方は、どうやら、それぞれで、順位があるようだった。一番が、プランさん。二番が、エレナさん。そして、三番がアンカ室長。
(…………ゆ、ユウカさん。………………ぐっすん)
こちらの方が、先に終わっていたので、セリカさんもそれを見ながら言う。
「エレナって、……たまーに、…………恐ろしいスコア、出すのよね…………」
だが、ならば、それをニコニコ、普通に超えている、プランさんは……?
どうやらあちらも、終わったようである。そして、アンカ室長が言う。
「残念だわ。……あそこで、ミスしなければね。……でも、プランさんの壁は、高いわね……」
「うぅー、残念」
「…………何故、…………プラン主任は、…………………………あんなに正確に」
リーゼさんは、呟いていた。
(…………やっぱり、…………プランさんって、…………超人、ですか?)
「はぁー、良い気晴らしになったわ」
ユウカさんは、既にその事は気にしていない様子。ああやって、みんなで、競って、楽しんで遊ぶ事が、きっと大事なのだろう。それは私も、そう思える。
楽しかった、と思える。それは、他の人と一緒に遊べたから。勝ち負けよりも、そちらのお陰で楽しく遊べた。
そして、皆で、娯楽室を整理する。
ただ、ここに居ない、二人がちょっと気になった。
それは、エレナさんが教えてくれた。
「えっとねぇー。メイちゃんの、お部屋のカップ整理、チュンさんも、手伝ってるみたいだよー?」
私も、カップを借りたままだ。少し、申し訳なく思うが、エレナさんがこう続ける。
「あっちは、あっちでー、楽しんでるしねぇー」
ならば、また、今度、聞いてみよう、と考える。
メイちゃんは、お掃除も、楽しい、と言っていた。私も、今度手伝いたい、と思った。
その後、皆、それぞれ、またやる事をやるそうだ。
アンカ室長と、ユウカさんは、お風呂。
そして、エレナさんは、もう寝るからと、部屋へ帰るようだ。
リーゼさんとプランさんは、少し、ミーティングをすると言っていた。
ミランダさんも、部屋でやりたい事がある、と言っていた。
私は、部屋に戻って来ていた。
そして、私は私で、まだ、やる事がある。
それは、このメモ帳。
まだ、全然、終わっていない。
私の事。
それを書く。
それは、誰かに伝える為では無い。
いや、それもあるかもしれない。
けれど、一番の目的は。
自分の中で、整理する事。
今、私が分かる事。
それは、自分の事。
これまでの自分の事。
それを、少しずつ思い出しながら、私はメモ帳にそれを書いていく。
それが、このメモ帳に書こうと思った事。
今日はまだ、上手く整理出来ていなかった。
やっぱり、まだ。
まだまだ、先は長い、と考える。
お読みいただき、ありがとうございます。
本当に、先は、まだまだ長いです。




