【六日目】 〝MELM〟
今日は、四階、とミランダさんに言われた。ミランダさんも同じらしい。
四階に行くと、ミランダさんが既に居たが、私を待っているようだった。
「あー、来た来た。アカリちゃーん。ねー、掃除道具、取って来てー」
「え? あ、はい。…………あのー、……何処に、あるんですか?」
「そこの、物置部屋ー」
「あ、分かりました。……………………もしかして」
部屋を開けながら、ミランダさんに聞く。
「ここ、カメラ、無いんですか?」
「そー。だから分かんない」
「あ、じゃあ……」
中に入って、掃除用具を見つける。綺麗に置かれていたので、すぐに分かる。
だが、その奥に、何故かベッドが置いてある。
(…………なんでだろ? こんな所に)
物置部屋、と言うには、物が無い。在るのは、そのベッドと、掃除用具。あと、箱が少し。それだけ。
そうして、掃除用具を取って、掃除を始める。
四階は、どうやら、大フロアー以外、こうやって、まとめてやってしまうみたいだ。
掃除をやりながら、ミランダさんに聞く。
「あのー、ミランダさん、……そのー……」
「んー?」
通路を掃除しながら話をする。
「参考に、……えと、……カメラの位置とか、……数とか。……今日みたいに、陰になるといけないので……」
「んー、それねー。……えーっとねー。今ー、この城全部でー、332台カメラあるよー」
「…………さん、ひゃ、……え!?」
想像していなかった数。
(そ、そんなに!?)
「もうすぐ、また増えるわよ」
後ろから、声がかかる。セリカさんだった。
(ど、何処から……?)
「大フロアーに、居たんだけれど」
心を読まれた。
「あー、そうだっけー?増えるんだっけー?」
当の本人のミランダさんが、忘れている。それを使用する、……唯一の人が。
「あ、お仕事してたんですか? お疲れ様です」
「ええ、ちょっとね。気になった事が、あったから」
気になる事。何だろうか。それにしても、まだ仕事をしてたとは。
「皆、もう、掃除してるよー?」
「ええ、私、今日、何処だったかしら?」
「……あ、無いわー。今日セリカっち当番の場所無しだねー」
「あら、そうだったの? じゃあ、まだ、進めれたわね」
セリカさんの、当番の場所は、今日は無いと言う。
(それにしても、ミランダさん。よく、そういう事、全部覚えてるなー……)
「すごいですね、ミランダさん」
「んー?」
「ちゃんと、皆の掃除場所とか、覚えてるんですねー」
掃除をしながら、話をする。セリカさんは少し離れてこちらを見ている。
「いいえ? 覚えてるわけじゃないわよ? この子」
「んー、確認したんだけどー?」
「……へ? ……あのー、……え?」
話が噛み合わない。
「ああ、もしかして、話してないんじゃない?」
「んー? んー、……あれー? ……んー。……あ、……そうかもー」
(何だろう? まだ私は、知らないことは、確かに多いけれど……)
「ミランダはね、ほら、”MELM”を、入れてるでしょ?」
「えーっと、すみません、何でしたっけ?」
「ほら、カメラ通して視える、これだよー?」
そして、掃除を一旦止めて、ミランダさんは、右の髪をかきあげて、見せてくれる。
ミランダさんの耳から、右目辺りにかけて、小さな機械が、取り付いている。
「これが”MELM”ねー」
「そう、これって、簡単に、着けたり外したり出来るのよ。ま、ちょっとだけ、手術は必要だけれど。他と比べると、ね。楽な物よ」
初めて見た、ミランダさんの右側の顔。普段は、髪で隠れていて見えなかった。
機械は、無骨で、すぐにそれと分かる外観だ。
だが、それを付けたミランダさんの顔。
やはり、想像通りというか、美人である。
「で、これってね。カメラ以外にも、端末にも繋げれるのよ。全部じゃ、無いけれどね」
「そー、自分の端末とかー、アカリちゃんのもねー」
髪を戻しながら、ミランダさんが言う。
「………………え!」
(じ、じゃあ、……これまで仕事で、……わ、私の作業のモニターも、全部、…………あれで? み、見られていた……? あの、……拙い、……私の作業風景まで……)
「で、掃除場所は、アンカが決めて、端末に、情報入れているから。もちろん、口頭で、言う事もあるけれど。最近だと、ミランダに聞く事が、多いわね」
「そーなんだよねー。……いやー、別に構わんけどさー」
私も、掃除の手が止まってしまった。
(という事は、……ミランダさんは、何処からでも、……端末の画面を見れる……?)
「そうでも無いわよ?」
(また、心を読まれた!)
「んー、そうなんだよねー。電波の届く範囲がねー」
「巡回の時は、さすがに、見れないわね」
「んー、そー。巡回艇準備室らへんが限界。もー、あそこでもチラつくもんー」
「そうね。後、地下も無理ね」
そして、気がつく。この城には、地下もあった。一度も行っていない。しかし、何があるのかまだ知らない。
「あとねー、カメラ。これもねー、近くじゃないと、見れないんだよねー」
「そうみたいね」
「どれくらいの範囲で、見れるんですか?」
「んー、最初のカメラとかで、ちょっと、違うんだけどねー。それでもー、ここから二階は見れないよー」
「ええっと、じゃあ、三階は……?」
「あー、そこなら、……んー、見えるねー」
なるほど。ずいぶん分かってきた。ならば、ミランダさんは、ある程度なら、離れていても、カメラを通して、視る事が出来るのだ。
そして、端末は、それより離れていても、確認する事が出来る。
「ま、だから、仕事の作業も早いのよ」
「で、でもカメラ。……そんなにあったら、……すみません。……覚えれる自信がないです」
「まー、それはちょいちょい教えてくからさー。大丈夫だよー。でー、今度は何処増やしてくれるんー?」
「その、巡回艇準備室、よ。少し、範囲が広くなるらしいわ」
「おー、そりゃー助かるねー」
「ええ、ま、まだ先のことよ。さ、掃除をしてしまいましょう」
どうやら、話し込んでいた分、セリカさんも手伝ってくれるようだ。黙々と掃除をしてしまうと、ここは早く終われる。三人だと尚更。
そこで、掃除をしていない箇所に気がつく。
「あのー、お手洗いは……?」
「ああ、お手洗いはね、気がついたら掃除してあげて。メイや、ユウカや、アンカ。リーゼや、プランも、よくやってるから。時間が空いた時とか、気になった時とか。そこは、小まめに掃除してね」
また一つ、謎が解けた。なるほど。これまで、掃除の時に入っていなかった、大事な場所。
それは、いつの間にやら、誰かが、掃除してくれてるようである。私も、やらないといけない。
お読みいただき、ありがとうございます。
”MELM”。正式名称を、書く機会は、無いと思われるので、こちらは補足いたします。
”マイクロン・エレクト・ローリンミネッセンス・モニター”人体内蔵型システムです。
一応、造語です。




