第41話
『やっぱりいい、後で説明する!』
その短いメッセージが画面に表示されてから、もう随分と時間が過ぎていた。
コンコン。
控えめなノックに続いて、スライド式のドアが静かに開いた。
「白石さん、入りますよー」
ワゴンを押して入ってきた夜勤の看護師が、ベッドの上の栞を見るなり、困ったように眉をひそめた。
「あー、栞ちゃん。またスマホ弄ってる」
「えへへ、すみません……」
栞は苦笑いを浮かべ、手に持っていたスマートフォンから視線を外す。
「はい、検温してね」
看護師は小さくため息をつきながら体温計を差し出した。
「今日も、使ってたアプリで個人情報がどうとかって騒ぎになってたのに、懲りないわねぇ」
「個人情報じゃないんですよ。顔認識や音声解析の学習データが使われたかもしれないって、アプリの会社から連絡があっただけで……」
「どっちにしろ同じじゃないの。ネットは気をつけて使いなさいよ。はい、脇に挟んで」
「はーい……」
体温計を挟み、じっと待つ。
その時、シーツの下でスマートフォンが短く震えた。
栞は素早く画面を引き寄せ、通知をタップした。
開いたトーク画面に視線を落とした瞬間、栞は息を呑み、目を見開いた。
「ん? どうしたの、急に固まって」
「えっ……あ、いえ。……妹から、メッセージが届いて」
「ああ、双子の妹さん? そういえば今日、高校の文化祭だったんでしょ?」
「……ええ」
曖昧に頷く栞の横で、ピピピと体温計の電子音が鳴った。
看護師は数値を確認すると、カルテに手早くメモを走らせた。
「うん、平熱ね。体調も安定してるし、この調子なら来年は栞ちゃんも文化祭出られるわよ。消灯時間は守ってね」
「はい、ありがとうございます」
看護師がワゴンを押して病室を出ていき、ドアがカチリと閉まる。
静寂が戻った部屋で、栞はスマートフォンの画面を覗き込んだ。
夜空に浮かぶ光の幾何学模様を背景に、制服姿の男の子と紬が並んでいる。
写真に収まろうとしたのだろう。二人の顔が近い。
紬は少し恥ずかしそうに、隣の男の子も照れたように笑っている。
画面をゆっくりと下へスクロールする。
写真の下に、ぽつんと一行だけ添えられたメッセージ。
『瀬尾くん、だよ』
―― 完 ――




