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辺境の貧乏農民、規格外の土魔法で最強国家を建国する〜追放令嬢と腹ペコ魔王軍を美味い飯で養ったら神まで退治することに〜  作者: 黒崎隼人


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第7話「交わる土と新たな国造り」

 空の青さが深みを増し、高く澄み渡っている。

 秋の冷涼な風が吹き抜ける中、村の中央広場には活気が満ちている。

 かつての粗末な木組みの家々は取り壊され、滑らかに磨かれた石材と太い丸太を組み合わせた頑強な家屋が次々と立ち並んでいく。

 石を運び上げているのは、灰色の肌を持つ屈強な魔族の兵士たちだ。

 彼らは汗を流しながらも、その表情には充実した笑みが浮かんでいる。

 人間である村の若者たちが、木材の切り出しや採寸を行い、種族の違いを超えて一つの作業を共に進めている。

 アルトは広場の片隅で、麻袋に入った二種類の土を混ぜ合わせている。

 右の袋には、辺境の黒く湿った豊かな土。

 左の袋には、ゼクスが魔界から持ち帰った、灰色で砂のように乾いた土。

 両手のひらでそれらを擦り合わせ、指の腹で粒の粗さや温度の違いを確かめる。

 異なる環境で生まれた二つの土は、最初は反発し合うように微かな摩擦熱を生んでいる。

 アルトは目を閉じ、ゆっくりと息を吐き出す。

 彼の心臓から穏やかな波長が流れ出し、指先を通じて土の粒子へと浸透していく。

 二つの土を繋ぐように、細かな水分の糸が結ばれていく。


『争うな。互いの足りないものを補い合え』


 アルトの呼びかけに呼応し、土の温度が均一に落ち着いていく。

 灰色の砂粒が黒い土の養分を吸い込んで柔らかくなり、黒い土は砂粒の通気性を得てさらにふっくらと膨らむ。

 完璧に混ざり合った土は、深みのある紫がかった茶色へと変化し、甘く香ばしい匂いを放ち始める。


「また新しい土の調合ね。あなたの探究心には底がないわ」


 セリアが木の板に挟んだ羊皮紙の束を抱え、アルトの隣にしゃがみ込む。

 彼女の金色の髪が風に煽られ、アルトの頬をかすめる。

 かすかに甘い花の香りが鼻先を通り抜ける。

 アルトは混ぜ合わせた土を丸め、セリアの前に差し出す。


「魔界の土は水捌けが良すぎる。辺境の土は水を含みすぎる。二つを合わせれば、どんな過酷な気候でも根を腐らせない最強の苗床ができるはずだ。ゼクスの国に送る作物の収穫量を、これでさらに増やせる」


 セリアは差し出された土の玉を指先でつつき、興味深そうに目を細める。


「素晴らしいわ。昨日、王都の商業ギルドから使いが来たの。領主の不正を暴いたことで、この地は正式に自治領としての権利を認められたわ。つまり、私たちは誰の干渉も受けない独立した国家になったということよ。人間と魔族が共同で農地を開拓する国なんて、歴史上どこにも存在しないわ」


 彼女の青い瞳が、未来の展望を描いてきらきらと輝いている。

 アルトは立ち上がり、手についた土を払い落とす。


「国なんて大げさなものを作るつもりはなかった。俺はただ、誰も腹を空かせない場所を作りたかっただけだ。だが、あんたがそう言うなら、ここが俺たちの国なんだろう」


 セリアは立ち上がり、羊皮紙を胸に抱きしめる。


「ええ。私たちの国よ。名前も決めたわ。豊穣と共存の国、アルカディア。明日、周辺の村の代表者と魔族の長たちを集めて、正式な建国宣言を行うわ。あなたには、指導者として壇上に立ってもらうからね」


「俺が。そういうのはあんたの方が向いているんじゃないのか」


 アルトが顔をしかめると、背後から重く響く笑い声が降ってくる。


「セリア殿の言う通りだ。我ら魔族は、力ある者にのみ付き従う。貴殿が長でなければ、我らの誇りが許さん」


 ゼクスが巨大な丸太を軽々と肩に担いだまま、白い歯を見せて笑っている。

 彼の灰色の肌には瑞々しい艶が戻り、かつての飢えに苦しんでいた面影は完全に消え去っている。

 ゼクスは丸太を広場の隅に静かに下ろし、アルトに向かって右の拳を胸に当てる。

 それは魔族における最上級の敬意を示す姿勢だ。


「魔界に持ち帰った作物は、灰色の荒野に見事な根を張った。我が同胞たちは今、貴殿を救世主として崇め、この地に骨を埋める覚悟で働きに出ている。貴殿の命とあらば、我らはどんな敵でも切り裂こう」


 ゼクスの黄金色の瞳に、揺るぎない忠誠の光が宿っている。

 アルトは照れくさそうに頭を掻き、ゼクスの広い肩を叩く。


「敵を切り裂く前に、まずはその丸太を製材所に運んでくれ。明日の宴のための舞台を作らなきゃならないんだからな。誰も血を流さずに腹いっぱい食べるのが、この国のルールだ」


 ゼクスは深く頷き、再び丸太を担ぎ上げて歩き出す。

 セリアがその背中を見送りながら、小さく息を漏らす。


「平和ね。このまま、ずっとこんな日が続けばいいのだけれど」


 彼女の声に混じる微かな不安の響きを、アルトは聞き逃さない。

 彼は足元の大地に意識を向ける。

 地中深くを流れる水脈も、眠る種子たちも、今は穏やかなリズムを刻んでいる。


「大丈夫だ。俺たちが耕したこの土が、そう簡単に枯れることはない。何が来ようと、俺が守る」


 アルトの言葉に、セリアの強張っていた肩がわずかに下がる。

 彼女は柔らかく微笑み、再び仕事へと戻っていく。

 アルトは一人広場に残り、空を見上げる。

 澄み切った青空の向こうに、微細な歪みが生じていることに、彼はまだ気づいていない。

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