表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の貧乏農民、規格外の土魔法で最強国家を建国する〜追放令嬢と腹ペコ魔王軍を美味い飯で養ったら神まで退治することに〜  作者: 黒崎隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/16

第3話「黄金の波と忍び寄る強欲の影」

 朝露を乗せた葉が朝日に煌めき、眩い光を放っている。

 土の香りと青々とした植物の匂いが混ざり合い、村全体を優しく包み込んでいる。

 アルトは額に滲む汗を手の甲で拭い、目の前で次々と荷馬車に積み込まれていく麻袋の山を見上げる。

 袋の中には、彼が大地と対話して育て上げた巨大な野菜や、真珠のように輝く麦粒がぎっしりと詰まっている。

 荷馬車の脇では、修繕の跡が目立つものの気品を失わないドレスをまとったセリアが、羽ペンを滑らせて羊皮紙に何かを書き込んでいる。

 彼女の透き通るような金色の髪が風に揺れるたび、微かな石鹸の香りがアルトの鼻腔をくすぐる。


「これで七台目ね。王都の商業ギルドへ向かう手配は完璧よ。彼らもこれほど生命力に満ちた作物は見たことがないはずだわ。言い値で買い取らせてみせる」


 セリアは羽ペンの先をインク壺に浸し、自信に満ちた視線をアルトに向ける。

 その青い瞳には、没落貴族という境遇に甘んじない強い意志が宿っている。


「あんたの計算の速さにはいつも驚かされる。土を耕すことしか知らない俺には、その数字の羅列が魔法の呪文に見える」


 アルトは苦笑し、手についた泥をズボンで拭う。

 彼がこの村の荒れ果てた大地に息吹を与えてから、まだ数日しか経過していない。

 しかし、セリアの指揮によって村の作物は効率的に収穫され、ただの食糧から莫大な価値を持つ商品へと姿を変えている。

 彼女は周辺の村々にも声をかけ、彼らの貧しい農地にもアルトの力を注ぐことで、一帯を巨大な農倉地帯へと変貌させる計画を立てている。


「魔法なんかじゃないわ。これは知識と経験、そして少しの度胸よ。あなたの生み出す作物は世界を救う価値がある。だからこそ、誰にも搾取させないための防壁が必要なの」


 セリアは羊皮紙を丸め、革の筒に丁寧に納める。

 彼女の指先は白く細いが、その動きには迷いが一切ない。


◆ ◆ ◆


 二人の間に流れる穏やかな空気を引き裂くように、村の入り口から土煙が上がる。

 馬の蹄が固い土を蹴り上げる音が近づき、重武装の兵士たちに護衛された豪華な馬車が広場に乗り込んでくる。

 車輪には泥がこびりつき、馬たちは疲労で荒い息を吐いている。

 馬車の扉が乱暴に開かれ、けばけばしい絹の服に身を包んだ小太りの男が降り立つ。

 男は鼻を覆いながら村人たちを値踏みするように見回し、その視線を積み上げられた麻袋の山で止める。

 男は領主から派遣された徴税官だ。

 肥え太った腹を揺らし、靴底で乱暴に土を踏みつけながらアルトとセリアに近づいてくる。


「貴様ら、これはどういうことだ。これほどの収穫がありながら、なぜ領主様への報告を怠った。この村の作物はすべて領主様のものだ。今すぐその荷馬車を城へ向けろ」


 男の口から飛ぶ唾液と、きつい香水の匂いが周囲の空気を汚染する。

 アルトの奥歯が強く噛み合わされる。

 彼の拳が固く握られ、足元の大地が主の怒りに呼応して微かに震え始める。

 土の奥底で眠る植物の根が、外敵を排除しようとうごめき出すのを感じる。

 だが、アルトが動くより早く、セリアが軽やかな足取りで前に出る。

 彼女は徴税官の前に立ち塞がり、冷ややかに微笑む。


「お言葉ですが、徴税官殿。領邦法第三章第七条には、異常気象および魔物による被害を受けた土地の税は、復興の目処が立つまで三年間免除されると明記されています。この村はつい数日前まで干魃に苦しみ、さらに害獣の襲撃を受けました。その証拠なら、森の入り口に残る爪痕を見れば一目瞭然です」


 セリアの言葉は淀みがなく、氷のように冷たく澄んでいる。

 徴税官は顔を真っ赤にして口をパクパクとさせる。

 彼が反論の言葉を見つける前に、セリアは一枚の羊皮紙を彼の胸元に突きつける。


「さらに、この作物はすでに王都の商業ギルドと独占契約を結んでいます。領主様といえども、王都のギルドの取引に不当に介入すれば、中央からの厳しい監査を免れないはずです。それとも、領主様は王室を敵に回すおつもりですか」


 徴税官の額から脂汗が吹き出す。

 彼は羊皮紙の印璽を見て顔を青ざめさせ、舌打ちをして馬車へと逃げ帰っていく。


「覚えておけ。領主様がこのまま引き下がるはずがない」


 負け惜しみの言葉を残し、馬車は土煙を上げて去っていく。

 村に再び静寂が戻る。

 アルトは握りしめていた拳をゆっくりと開き、足元の大地の震えを鎮める。


「助かった。俺一人なら、怒りに任せて彼らを土に埋めていたかもしれない」


 アルトは深く息を吐き出し、セリアに視線を向ける。


「力で解決するのは最後の手段よ。でも、彼の言う通り、領主は必ず力尽くで奪いに来るわ。欲に目が眩んだ人間は、法律も契約も無視して牙を剥く」


 セリアの青い瞳に、冷たい炎が灯る。

 彼女はアルトの隣に並び、遠くかすむ領主の城を睨みつける。


「アルト、あなたの力と私の頭脳で、あの強欲な領主を完全に終わらせるわよ。準備を始めるわ」


 アルトは無言で頷く。

 彼の手のひらに残る土の温もりが、これからの戦いに向けた確かな決意を伝えている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ