第十一話 制御
「全体、止め」
「今日から強度を一段階上げる」
接続訓練を始めて二か月ほどが経っていた。訓練生たちも同調に慣れ、数時間単位での接続すら可能になりつつある。この期間で四十人ほどいた訓練生のうち、すでに三分の一は姿を消していた。ここに残っている時点で、最低限の適正はあるということになる。
カイ達より上位の訓練群は脱落者が少ないという話も耳にしている。最初の選別段階で振り分けられた差が、そのまま残っているということだろう。
「本日から他のシステムを起動して接続を行う」
「敵感知センサー、行動予測線にも接続する」
座学で聞いた単語だ。だが理解しているのはあくまでも理屈だけ。実際に接続するとなれば話は別だ。全周囲観測だけであれだけの時間を要した。そこにさらに情報が重なる。どれほどの負荷になるのかは想像もできない。
「ここを越えれば、戦装機のシミュレーション訓練に入る」
「ここで落ちるな」
鷹宮が言う。
それだけで十分だった。空気が一段重くなる。戦装機〈アーク〉。その操縦に手が届くかどうかの分岐点だと、誰もが理解している。
すぐに呼び出しが始まる。カイの番もすぐに来るだろう。ユウトも同じだ。周囲を見ると、画面構成はこれまでと大きく変わらないように見える。だが接続された瞬間に異変が起きた。数秒で一人が嘔吐する。続けてもう一人。昨日まで数時間の接続に耐えていた訓練生が、ほとんど抵抗もできずに強制終了されていく。
「あれは……やばそうだな」
ユウトが小さく呟く。カイも同じ意見だった。明らかにレベルが違う。他の訓練生たちの顔色も一様に悪い。その後も同じ光景が繰り返される。接続、数秒して強制終了。
「次、久城カイ。早瀬ユウトーー」
名前が呼ばれる。他にも数名の訓練生が前に出る。
「接続を開始しろ」
鷹宮の指示。迷いはない。
この二か月で染みついた感覚で接続、同調に入る。
瞬間、負荷が叩きつけられた。
「ーーっ!」
隣でユウトが息を詰まらせる。これまでとは質が違う。情報量だけではなく、密度も違う。脳に直接圧しかかってくるような重さだった。
遅れて全周囲観測システムが展開する。だが今回はそれだけでは終わらない。空間に存在する生体反応が一瞬で把握される。数、位置、体格、危険度。それらが分類された状態で流れ込んでくる。さらに対象の動きに応じて、次の行動予測線が視界に直接表示される。
あまりの情報量に頭の整理が追い付かなくなる。波のように情報が押し寄せてくる。
カイは必死に処理しようとするが間に合わない。吐き気が込み上げ、視界が歪むような感覚に陥る。
「ーー止め」
ミサキの声で接続が切れる。視界が落ちると同時にカイはその場で嘔吐した。膝に力が入らない。
生まれたての小鹿のように震える足で列に戻が、呼吸が整わない。
「こ……れは……きついな……」
ユウトが青ざめた顔で言う。
「カイも耐えられないとか……」
「……ああ」
短く返すのがやっとだった。
これまでの接続訓練では、ある程度の余裕があった。処理できる範囲の中で維持できていた。だが、今回は違う。そもそも土台が違う。今までの訓練が通用しない。
誰一人として耐えられた者はいなかった。
カイは視線を落とす。
戦装機〈アーク〉。
それに届くための段階はまだ先にある。むしろ、今まで見えていた距離が、実際より近く見えていただけなのかもしれない。幻想のように遠くに離れていく。
その感覚だけが、静かに残った。




