カフェで占い師やってみた。
「恵美留!」
と声を荒げて立っていたのは元夫の晃一だった。
「あら」
エミルは顔を上げたが、ずいぶんと落ちぶれている晃一に唇の端が上がった。
ヤクザな勇者カイに追い込みでもかけられたのか、くたびれた様子だった。
「あら、晃一さん、何? 慰謝料の減額は認めないわよ」
とエミルは言った。
晃一はダン!とエミルの前のガラスのテーブルを叩いた。
「ふざけるな!」
「ふざけてるのはそちらよ。今、仕事中だから帰ってもらえる?」
衝撃で転がった水晶玉を元の位置に戻し、エミルは周囲を見渡した。
「オーナーやお客様にも迷惑だし」
ここはカフェの一角で、エミルは占い師を始めていた。
カイの知り合いの店で、老夫婦が経営するこぢんまりとしたカフェだった。
軽食とコーヒーだけで細々とやっていたが、エミルの占いが抜群の的中という噂で最近は繁盛している。OLや女学生、はたまた疲れたサラリーマンや主婦が気軽によれて、コーヒーも美味しい、しかも占い代金も高くはない。
「占い師だって? そんな知識ないだろ! いい加減な事をしゃべって金をふんだくって、詐欺師の間違いだろ!」
エミルははあっとため息をついた。
「あなたの正義はあなたの世界でお試しなさいな。偉そうに言う前に慰謝料をきちんと払ってもらいたいもんだわ」
「金なんかあるか。家も車も売って借金を返したんてだぞ!」
「当たり前の事をどうしてそんなに偉そうに言うの? あなたと母親と姉の借金でしょ。あなた達が一致団結して払うのは当たり前よ」
「そ、それより、戻ってこい。今、謝るなら許してやる。やり直そう」
冷めていたカフェオレを一口飲んでいたエミルはぶっと噴き出した。
「許すとか許さないとかいう問題じゃないけど、どうしてもっていうなら許してもらわなくても結構なんで、お構いなく」
「恵美留! やっぱり、お前そうなんだな」
「何なの。もう帰ってよ」
「あの竜崎って男と出来てるンだろう!」
晃一はびしっと恵美留を指さした。
「だから離婚なんて言い出して! 自分の浮気を棚に上げて、俺に濡れ衣を着せやがったな! あの男と結託して、家も車も金に換えて、さらに離婚の慰謝料まで請求しやがって! こっちもお前の浮気の慰謝料を請求するぞ!」
「私は浮気なんてしてないし、竜崎カイとはちょっとした知り合いってだけで、そもそもギャンブルの借金を取り立てされるのは浮気云々関係ないでしょ。仮に私が浮気をしたと言うならそれなりの証拠を突き出して然るべき場所に訴えなさいよ。こっちはあなたの三股の浮気相手の証拠も揃えて出したでしょ。既婚者と知って付き合ってたあなたの彼女達にも請求しましたから。それも合わせて払わないなら会社に乗り込むわよ」
とエミルは早口で言った。
エミルにすれば慰謝料はどうでもよく、一刻も早く縁を切りたいほうが強かった。
浮気相手と再婚するならそれも良いし、生活の基盤を壊さなかったのはエミルの温情だ。
仕事を失うともっと社会の迷惑に成り下がるだろうからだ。
家と車を失ったが借金は綺麗になくなり、浮気者で男尊女卑だが仕事は出来る男だった晃一はやり直しも可能だろう。
「恵美留、やり直そうと言ってるんだ」
「嫌だつってんの。てか、何なのかしらね。酷い扱いをしてた相手が逃げたら取り戻したがるのって。男に多いのよね」
「恵美留」
「あなたも自由になったんだから、新しい生活をしなさいよ。占ってあげましょうか?」
エミルは晃一の手をちょんと指先でつついて、
「あら、あなた新しい家族が増えるわよ! 三番目の恋人が正妻に昇格ね」
「え……三番目って」
「あなたの上司でしょ? 杉田女史だったかしら。すごいわ、45歳で妊娠なんておめでとう! 大事にしてあげてね」
「う……そだ」
その途端、晃一の携帯電話がピリリと鳴った。
画面の名前を見て、晃一の顔が真っ青になった。




