3、液化付与と幸せと
最近、梅雨に入ったので、外で遊べなくなってしまった。財務係のフィナンス家には、たくさんの本があり、僕はたまに付与術の本を読ませてもらっていた。だから、今日は、そこで覚えたことを色々試すことにした。
まずは石化付与から。本に、付与術は付与した後のイメージを持つことが重要だと書かれていた。前世では、毎日アニメでイメトレをしていたから、イメージするのは得意である。僕の部屋にあった花に付与することにした。
花を見る。集中する。石化した花をイメージする。そして、口に出す。
「『石化Lv1』を付与。」
その瞬間、さっきまで目の前で風に揺れていた花が、石でできた花の彫刻に変わった。花の彫刻は、本物の花を石化しただけなので、細かい所までよくできていた。これは、普通に芸術作品として良い値で売れそうだったので、将来の金策用に使えそうだった。
次は、ちょうど喉が渇いたので、液化付与の実験である。台所からミカン(地球と名前が同じで、助かる)を持ってきて、果実液(この世界でのジュース)を作ることにした。皮をむいたミカンをコップの中に入れて、液化付与をする。
ミカンを見る。集中する。オレンジジュースをイメージする。そして、口に出す。
「『液化Lv1』を付与。」
ミカンが一瞬にして、液化してオレンジジュースになった。飲んでみると、果汁100%なだけあって美味しかった。この世界には、ミキサーがないので、どうしても果実液を作る時に搾りかすが出てしまう。しかし、これは材料を無駄なく使えるので、良い金づるに使えるはずである。
今度は、ゴム化を試してみる。僕が今回覚えた中だと、これが一番面白そうだった。細長いものがないか、辺りを見回してみると、ちょうど毛糸の糸くずがあったので、これで試すことにした。
糸くずを見る。集中する。伸びているゴムをイメージする。そして、口に出す。
「『ゴム化Lv1』を付与。」
毛糸の糸くずの見た目は変わっていなかったが、両端を持って引っ張ると、前世のと同じくらいよく伸びた。この世界にも、ゴムの木があり、そこから天然ゴムが作れるらしい。しかし、品質はこっちの方が圧倒的に上なので、これも高値で売れる気がした。
気付くと、もう夕方になっていて、母さんが僕を呼ぶ声が聞こえたので、夕食を食べることにした。母さんに椅子に座らせてもらい、目の前に座っている父さんを見ると、何やらいつもより元気が無い気がした。
普通に聞いても、きっと僕に気を使って答えてくれないだろうから、前世で習ったある技を使うことにした。まずは「はい。」と簡単に答えられる問題を2個出して、「はい。」と言いやすくした状況で、本命の質問をして「はい。」と答えてもらう作戦である。
「父さん、外はまだ雨が降っているの?」
「そうだな、ざあざあ降りだよ。」
「疲れているの?」
「うん、色々あったからな。でも、まだ元気だぞ!」
「父さん、何があったか教えてくれない?」
「え...うん、...そうだな。毎年、この時期になると、大雨のせいで問題が発生しやすくなるんだよ。それで、今日は川向かいのモラリス領との橋が流されてね。」
「直すのに、お金がたくさんいるの?」
「そうなんだよ。ただでさえ、うちはお金が無いのに...。」
(うーん、どうしようか...。)
ここで、前世の知識を使って、父さんを助けるのは簡単なことだ。でも、さすがに1歳半の子供が言うと、いくら親バカな2人でも僕を怪しむだろう。1歳半でホームレスになるのは厳しいので、ここは子供らしくすることに決めた。
「父さん、元気出してよ。良いものあげるから。」
「ん、何をくれるんだ?」
「ちょっと待っててね。」
台所に置いてあるミカンを取ってきて、皮をむいて、コップに入れ、さっきと同じように液化付与をした。これで、レオ特製オレンジジュースの出来上がりである。
「はい、父さん。これ飲んで。」
「お、ミカン果実液(この世界でのジュース)か。ありがとな、レオ。」
僕の作ったミカン果実液を飲んだ瞬間に、父さんの目の色が変わった。驚きと幸せが入り混じったような顔だった。
「何だ、これは!オルガッ(僕の母さん)、早く来てくれ!」
「あなた、どうしましたか?」
「早くこれを飲んでみろ!」
「そんなに焦らなくても飲みますよ。ゴクッ......あなた、これは一体どうしたんですか?まだあるなら、場所を教えてくださいな!」
「オルガも落ち着いたら、どうだ?レオの前だぞ。」
「そうですね。...それで?」
「これはレオが作ったものだよ。」
「えっ、レオがっ!」
「そうだよ、母さん。」
「どうやって作ったの?」
「うーん、秘密だよ。」
「そう。でも、私たちにまた作ってくれないかしら?」
「うん、良いよ。」
思ったより、僕のミカン果実液が好評で安心した。前世とは違って、誰かを笑顔にできて、僕は幸せだった。女神様、僕を転生させてくれてありがとう。
ミカン果実液で、父さんの悩みの原因は解決しない。しかし、ホームレスになるのは困る。できるだけ子供っぽい案で、父さんを助けなくては。
「そういえば、父さん。大雨で橋が流れたんだよね?」
「そうだな。」
「良い事思いついたよ。橋の手すりの部分を無くせば、橋が流れないんじゃない?」
(前世で見た、四万十川の橋と同じに作れば、問題が起きない気が...。)
「手すりを無くす?大雨の時は良いかもしれないが、普通の時はどうする?人が川に落ちるんじゃないか?」
「そうだね。橋の手すりを取ったり付けたりできるようにして、普通の時は付けておけば良いんじゃない?」
「あ、確かに。明日の朝一番で、レオの言ったような橋ができるか、フィリップ(フィナンス家の主で財務係)に聞いてみるよ。」
「うん、上手くいくと良いね。」
「今日は色々と助かった、レオ。ありがとな。」
「気にしないで、父さん」
色々と付与術にも使い道があるようですね。レオはまだまだ躍進します。
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあればアドバイスしていただけると助かります。
もし面白いなと思っていただけたなら、評価もお願いします。
今後とも八咫烏をよろしくお願いします。