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40 まぁ、そーするしかないよな、と

──そして、食後

 気がつけば、もう昼だ。

 俺たちはとりあえずこの館で寝泊りすることにした。

 館内の調度品はほとんど無くなってはいたが、それでも一応生活できるだけのものは揃っていた。質素とはいえベッドもある。屋根のある寝床はありがたい。

 あと、服も幾つか手に入った。

 まぁ、衣食住で最重要の食料、だが……。オオサソリの残りは心許ない。しかしここの周囲で狩れば何とかなるだろう。スパイスをはじめとする調味料はどうにかしたいところだがな……

 しかし、その時……


『しろー! 誰か来るぞ!』


 アンダーソン君が警告を発する。


「え? 何が──って、まさか!」


 砦の外、そして“三の丸”から本丸の城壁、そこからさらに延長してこの館まで引いておいた糸に触肢で触れる。

 と、それを経由して耳に、何やら男のものらしき声が伝わってくる。それも、複数。

 もしかして、これは……


『どうしたんです?』

「多分、リシュートの兵士たちがやってきたんだ。何を言っているかはよく分からないんだが──もしかして、ガルナガレスの件かも?」

『あ〜〜。そうかもしれません。きっと魔力が変動したので、“何か”起きたのかを確認しに来たんでしょう。ああっ、そういえば……確か兵士たちがここを去っていくときに何かそういう“魔法装置”を設置する予定とか言ってましたね。まさか、本当に設置していたとは……』

「むぅ……」


 そんなら俺たちが戦う必要もなかった?

 でも──兵士たちが来るまでこれだけ時間がかかったってことは、どう考えても手遅れになってるよなぁ……。そうなればリゼットも無事で済むとは限らないし。

 結果、よし──とすべきだな。

 それよりも、だ。

 連中は当然この館までくるだろう。もしそうならば、今ココにいる俺たちがどういう処遇になるか、だが。

 うむ。馬鹿デカい大蜘蛛と蜘蛛もどきの不審者、そしてほぼ全裸の女……

 どう考えても怪しさ大爆発である。

 ──ッ!

 こうなれば、だ。


「逃げるしかない、よな」

『だよな〜』

『ですよね〜』


 アンダーソン君とリゼットの答え。

 まぁ、そーするしかないよな、と。……ン?


「えっと、リゼット──君も?」


 予想はしていたがな。


『はい。この地に縛り付けられていた“運命の糸”は、もはや今の私には結びついていないようです。それに……肉体を得た私がここに留まってしまったら、どうなると思います?』

「う──む」

『そうなれば、私は飢えた兵士達に囚われたのち、欲望の赴くままに蹂躙されてしまい……』

「Oh──」


 い、いや──そこまで酷い連中が来る……のか?

 とはいえ彼女をここに置き去りにするのも気が引ける。


「あー、分かった! それならば一緒に行こう!」

『はい! お願いします!』

「おう──って、ッ!」


 リゼットが再び俺の腕に抱きつき……またアンダーソン君が反対側の腕に鋏角を突き立てた。

 まっ、それはともかく……だ。

 ともあれ俺たちの脱走は始まった。

 これからどこから逃げるか、そもそもどこへ逃げるかって話ではあるが……。



──井戸

 リゼットの発案で、持っていけるだけの荷物を持ち、館地下の井戸へと向かう。

 とりあえずリゼットには、クローゼットに残っていた服を着せているが、サイズが全くあっていない。


『少し動きにくいです〜』

「我慢してくれ。裸は目の毒だ」


 とりあえず糸をより合わせて紐を作り、ベルトとタスキで何とかした。

 で、俺は調理器具やら何やらを袋に入れて背負っている。

 そしてアンダーソン君の背にも、武器やら何やら。

 まー、明らかに放置されてたしね。ガルナガレス討伐の報酬ってコトで。

 それに、一応唯一の“住人”であったリゼットにも“許可”はもらってある。

 さて、と。


「行こう」


 まずは、リゼットを背に乗せたアンダーソン君が降りていく。

 一応彼女もアンダーソン君由来の重力制御による浮遊は出来るようだが、実体を得たためにまだ制御に不安がある。故に、アンダーソン君に任せた。

 そして、最後に俺。井戸の蓋を閉め、立坑を降りる。



 立坑を降りた先は、来た時と同じように円形の空間が形成されていた。

 実体を得ても水を操る能力は健在か。

 で、向かう先だが……

 地下水路はここで行き止まり。そして三の丸までは一本道なので、そこまで歩く。

 そして、三の丸の井戸。上から微かに声が聞こえてくるな。


「ちょっと確認してくる」


 そう言いおき、立坑を登る。

 無論、建屋どころか井戸からも出るつもりはない。どれだけの規模なのか確認しておきたかったのだ。

 そして、蓋の直下まで到達。

 壁に耳を当て、聞き耳を立てる。

 何やら数人の足音が聞こえる。近いな。

 そして、そのうちの一つがこちらに近づいている。

 ! マズいか。

 壁に糸をつけると、慌てて降下。

 直後、建屋の扉の鍵が開く音がした。

 間一髪。井戸の外に出ていたら危なかった。


「ドウシタ?」


 アンダーソン君が糸伝いに問うてくる。

 糸電話の理屈だな。わざわざ“念話”ではなく通常の声を使ってくれた。上にいるヤツが何者かも分からんしな。

 とはいえ、声を得たばかりなので拙い発声ではあるが。


「誰か来た。灯りも消してくれ」

「ワカッタ」


 と、円筒内を照らしていた魔法の明かりが消える。

 同時に俺は水路内に降り立った。

 そして息を潜めつつ、糸伝いに音を聞く。

 リゼットも察してくれたのか、沈黙を貫いている。


「〜〜〜〜〜〜」


 部屋に入ってきた“誰か”何か言っている。

 当然、この地の言語なので何を言っているのか分からない。

 リゼットに翻訳を頼むべきか? いや、彼女の耳では糸から音を聞き取れるかどうか……

 ……などと思っていると、声の主人は建屋から出て行ったようだ。

 ふぅ……一安心。一瞬どうなるかと思ったよ。

 ……ン?


「アンダーソン君、どうした?」

『あの“声”。聞き覚えがある』


 微かに震える“声”。


「聞き覚え? まさか……!」

『ああ。ヤツだ』


 レジューナか! しつこいな。

 まぁ、俺たちがここにいると知って来たって訳じゃないのかもしれんが。ガルナガレスによる一件は勘付いても不思議じゃないしな。

 何にせよ、逃げ出したのは大正解か。

 ……気を取り直して、だ。


「さぁ、行こうか」

『ええ』

『そうだな』


 そして俺たちは歩き出した。



──しばしのち

 水路が二股に分かれている。


「どっちに行くんだい?」

『ええ、こちらへ』


 彼女は右側の水路へと進んだ。


 左へ進めばリシュート市街。そしてその先には先日泊まった藪があるという。

 うむ……それほどヤツの縄張りから離れられなかったか?

 まぁ──その辺は何とかなる……だろう。多分。



 さらに進むことしばし。

 その先に微かな明かりが見えた。

 水路の出口だ。

 やれやれ──どれだけ歩いたのやら。気がつけば、歩む足も軽くなっている。

 そうしてようやく──俺たちは地上に出ることができた。

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