34 では──行こう
──廃砦
「……ッ! これは⁉︎」
とてつもないプレッシャーを感じる。
熱く……そして冷たい“何か”が心の奥底に浸食してくる様、な──?
……。
というかさ──結界ってことは脱出できそうにない、か。
それどころか、俺たち自身もその“何か”に取り込まれてしまうかも知れん。
ならば魔物をどうにかするしかない……のか?
『しろー。ちょっと 待った』
「どうした、アンダーソン君」
『幾ら 何でも おかしい。タイミングが──良すぎ ないか』
「確か──に……」
俺たちが来た途端にこれだ。
別に俺たちは館に近寄る様な真似はしていない。せいぜい城壁から眺めた程度だな。
それに俺たちの行動が引き金になったのなら、あの時点で何らかの変化がありそうなモノだ。
俺は、一番の容疑者に目を向けた。
『ああ、そりゃそうですよ。ついさっきまで、私の精霊力で何とか抑え込んでいたんですから。それが離れたら、勿論こうもなります』
「えっ……」
なるほど。でもさ──
「それなら戻った方が良くない?」
抑えている人がいなくなったらさらに酷いことになりそうだ。
『ええっ! 酷くないですか〜! 私、今まで一人で頑張って来たんですよ! ようやくお人よ……じゃなく、強そうな方が来たので、これは頼るしかない、と思っただけです!』
「う……ん?」
何か……おかしな言葉があった様だが?
『まぁいいです。では早速、お願いしますね』
「……」
──何だろう。この押しの強さは。
いや、そんな事より──今はアレをどうにかするのが先決か。
「まぁ──仕方がないだろう。なぁ、アンダーソン君」
『──おう。しかた ないな』
明らかに不承不承といった感じながら、同意してくれる。
そして、
『これは “貸し” だぞ』
『うぅ……ハイ』
アンダーソン君の言に、仕方なくと言った風でうなずくリゼット。
そうと決まれば、だ。準備をせねばな。
いや、その前に……。
「で、だ。その魔物についての情報を教えてくれ」
相手の情報がなければどうにもならん。
『はい。分かりました。その魔物の名はガルナガレス。炎を操る魔族でした』
「炎を、か」
炎系と水系は相克の関係か。だからこそ抑えこめていた部分もあったのかもしれんな。
……しかし、だ。
「俺たちの最大の武器は糸だ。これは少々厄介かもしれんな」
当然、俺たちの糸は火に弱い。だから糸を使った攻撃の大半が封じられてしまうであろう。
武器を含め、戦略の立て直しも必要か。場合によってはどうにかして撤退という選択肢も……
『そっ、その辺は、何とかなると思います。今はコソ泥の身体ですし。本気出したら自分まで燃え尽きちゃいますよ』
「なるほど、な」
それならばまだ希望がある、か?
『たっ……多分』
「ヲイ」
今、小声で何か言わなかったかい、リゼットさんや?
『さて、何の事でしょうか?』
こやつめ。はぐらかすように言いよる。
「……まぁいいさ。それで、アンタはどうするつもりだい?」
『私は、精霊力を開放します。そうすればガルナガレス本来の“力”は抑え込めるでしょう。なので、お二人にはその間に倒して欲しいのです』
「──ふむ」
まぁ、確かにそれが一番無難か。
無論、リゼットの言葉に間違いがなければ……だが。
とはいえ他に手立てはなさそうだ。
「それで行くしかなさそうだな」
『……ああ。不本意 ながらな』
「まぁまぁ」
アンダーソン君の気持ちはわかる。が、この場を切り抜けるためなら仕方ない。
次は、武器だ。
人攫いどもからぶん取って来た蛮刀とナイフを腰に。
う……む。授業で習ったレベルの剣道の技しか使えんがな。高校出てからもう……いや、止めよう。
そして、メインウェポン。ナタは柄を外すと、武器庫で拾った槍の柄を接合する。ナギナタもどきにはなるだろう。
多少ガタがあったので、ナイフで微修正した上で糸と粘液でガチガチに固定する。
軽く振ってみたが、特に問題はなさげだ。
炎を使う相手とは出来る限り距離をとって戦いたいものだ。
さらに、鎧を装着。
左の籠手と右の脛当てぐらいしかマトモなのはないけどさ。それでも無いよりはマシだ。そして作っておいた網を額や腕、胴に巻く。
水をたっぷり含ませておけば、多少の熱対策にはなるだろう。
……俺の方はこんなモノか。
『しろー。刀は まだ あったな』
「おう」
蛮刀やらナタやらはそのまま持って来てしまったな。
まぁ、あのまま置いておくのも問題あったしね。
しかし、だ。
「どうするんだい?」
『こう するのさ』
アンダーソン君の左の触肢がヒトの腕のように変化した。
ああ、サソリの尾や鋏に変化したヤツの応用か? でもヒトなんか……って、ああ、あのおっさん成分か。
『違う。しろーの 腕だ。あの 血は 全部 吐いた』
食い気味に否定された。
……そういやアンダーソン君にも俺の“成分”が混ざってるんだったか。
「で、どれにする?」
斧と蛮刀、そしてナタ、ナイフを並べて見せる。
『そう だな。とりあえず これを』
アンダーソン君は蛮刀を手に取った。
『あとは おれの 身体に くくりつけて おくと いい。必要な 時に そこから 抜け』
「すまんね」
武器に関してはこれで良いか。
あとは井戸で、水袋に水を詰めておこう。
「急いだ方が良いな。とりあえず館へ向かおう」
『ありがとうございます』
そして俺たちは兵舎を出た。
──三の丸
『こちらへ』
兵舎を出た俺たちを、リゼットは井戸の建屋へと誘った。
「井戸? 抜け道でもあるのか?」
城や砦には、万一の際の脱出路が用意されていることも少なくない。この井戸にもそんな仕掛けがあるのだろうか?
『ええ。正確には、私の“力”で作るんです』
「『作る』?」
……どういうことだ?
『地下水脈を通るんです。この井戸から館の地下にある井戸までは繋がっていますから……。なので、水を押し除ければあなた方も通れるでしょう』
「……なるほどな」
とはいえ、一気に敵の本拠に乗り込む訳か。
覚悟を決めねばな。
おっと、その前に……
「ナギナタもどきは大丈夫かい? それに、アンダーソン君も」
地下水脈だしな。狭くて通れない可能性もあるか。
『いえ、大丈夫でしょう。それぐらい、何とかなると思います』
「──なるほど」
それなら大丈夫か。
「では──行こう」
俺たちは井戸の建屋に足を踏み入れた。




