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22 降りてくれ

──空

 ぼんやりと霞む空と大地の間から太陽が昇って行く。

 朝焼けに照らされる、異世界の大地。

 地平線の位置が異常に高いことが、ここが平面世界であることを実感させてくれる。

 ……とはいえ霞んでいるためにはっきりとした境界自体は見えないがな。

 おそらくは俺の視力の限界と、空気自体に含まれるチリなどの影響だろう。

 地球上ならば地平線までは地上でわずか数km、この高度でも数十km程度だろう。しかしこの世界ではその果てまで見通せる訳だ。

 この世界がどの程度の広さなのはわからないが、いつかその果てを見てみたいものである。

 断崖から海水が雪崩れ落ちているのか、それともとてつもなく高い壁があるのか──あるいは、ドーム状の天蓋に覆われているのか?

 レジューナははっきりとしたことは言ってくれなかった。

 まぁ、正しく答えてくれる他は限らないがな。──俺たちを始末するつもりだったわけだしさ。



 それはそうと、だ。


「とりあえず、どこか水のあるところに着地した方が良いんじゃないか?」


 アンダーソン君に声をかける。

 空中を漂う俺たちは森を抜け、乾燥地帯に差し掛かっている。

 このままでは容赦なく照りつける日光のため、いずれ俺たちは干物になってしまう。一度、どこかで水を調達したいところだ。


『そうだな。今 探して いるが……』


 と、そう答えつつもあちこちを見回す様に頭を動かしていた。

 そういえばアンダーソン君の姿は、猫サイズの時から更に変貌を遂げているな。

 通常の蜘蛛では胸部と一体化している頭が独立しているのは前と同じだが、胸部が長くなって“腰”が出来ているな。

 う──む。この辺は俺の“因子”由来の部分か。いずれヒトに近い姿になるんだろうか? いやまー、俺そっくりな顔のアンダーソン君か。

 ──あんまり考えない様にしよう。

 そう言えば俺自身にもアンダーソン君の“因子”が入ってるんだよな。いずれクモ怪人的な何かに……? そういえば、肩甲骨のあたりにちょっと硬い“何か”がある。まさか、それも腕?

 ま……まぁ、そっちも考えない様にした方がいいな。



──しばし、後

『あそこは どうだ?』

「……ン?」


 アンダーソン君の声。

 その視線の先には、赤茶けた地表に囲まれた小さな藪があった。そしてその中には、池があるらしい。

 提示された場所は、そこか。

 そして、その近くには大きな街が見える。

 アレがベルガント邸のあったアルタワールなのだろうか? しかし今の俺たちがそういった場所に入るには、いろいろ問題が多い。

 巨大な蜘蛛と、中途半端な蜘蛛人間。そんなモノが街中に現れた日には……

 ついでに言えば、言葉も通じないし金もない。住処もなければ頼りになる知り合いもいない。無い無い尽くしだな。

 それに、だ。あそこがアルタワールだとしたら、レジューナの懐に飛び込む形となってしまう。

 もし見つかれば、次はないだろうしな。そうなれば、テルヤさんの頼みも果たすことはできない。

 とりあえず……その辺が何とかなるまでは街の外でどうにかして生き延びるしかない。

 まぁ……普通に考えたら絶望的な状況だが、どういう訳かそこまで悲観的でない自分がいる。

 我ながら随分と図太くなったものだ。レジューナの虎口から生きて逃れたのが自信になっているのかもしれん。転移前の自分ならそこまで開き直れないだろうな。

 まぁ、アンダーソン君がいるというのも大きいか。掛け替えのない相棒だな。

 ……などと考えている間に、地面が近づいてきた。

 赤く乾いた大地の中に、ポツンと現れたオアシス。

 もしかしたら、先客がいるかもしれない。そうだったのなら、トラブルは必至だ。

 とりあえず、藪とその周囲を確認。

 ……よし。どうやら人はいない様だ。


『……どうする?』

「アンダーソン君、大丈夫そうだ。降りてくれ」

『おう。降下するぞ。掴まれ』


 そう言うとアンダーソン君は尻から出していた糸を切り離す。

 同時に魔導石の“力”を使い、ゆっくりと降下。

 そして……着地。俺たちは藪のすぐそばに降り立っていた。

 俺は、アンダーソン君の背から降り、地を踏み締める。

 よし。レジューナから解放され、初めて踏んだ地面の感触を噛み締めた。


『よし。じゃあ──行こうぜ』

「ああ。そうだな」


 アンダーソン君の声に、目の前の藪を見据えた。

 まずは、感覚器をフル動員し、藪の中を探る。


『水の 音が するな』

「そうだな。それと──別の音もする」

『やはり か』


 その音の出所は、後方。

 藪のすぐ外は、砂地となっている。

 その砂の中に、“何か”が潜んでいる様だ。


『多分 おれたちの 仲間かも。うまく 捕らえたら メシに しよう』


 などと言い出す。

 腹が減ってきたので朝食は欲しいところだが……“仲間”、か。


「え? 蜘蛛の? アンダーソン君的には大丈夫なのか」

『大丈夫? 何を? ニンゲンだって 仲間の ウス? だか ウジ? だかを 食べる だろう?』

「あっ……ハイ」


 臼や蛆……ではなく牛だな。まあ、哺乳類ぐらいのカテゴリ内での“仲間”ってことか。そもそも蜘蛛達は普通に共食いするからなぁ。愚問だったか。


「それより……どうやって捕らえる? 何かずいぶんと……?」


 足から感じる音からすると、“何か”はかなり大柄の様だ。そして、多数の脚を持っているっぽい?

 ……丁度今のアンダーソン君の様に。


『何、そんなに 難しい ことじゃ ない。まぁ、見て いろ』


 そう言ってアンダーソン君は音の主の方に歩み寄っている。

 足音を立てず、慎重に。

 ……どうやら俺の出番はなさそうだな。周囲を警戒しておこう。


「気を付けろよ」

『当たり 前だ』


 俺はとりあえず、近くの樹に糸を投げつけ、ジャンプ。2mほどの枝に登る。

 平面世界では、遠くを見渡すと言うメリットはあまりないが、砂丘の向こうに隠れたものを見つけるのには必要だ。この辺はそれなりに起伏があるしな。

 今の俺たちが現地人に見つかった場合、間違いなくバケモノ扱いされるだろうしな。もしかしたらレジューナに情報がいくかも知れん。

 そうなった場合、獲物をいったん放棄して身を隠せざるを得ないだろう。

 無論、そうならなけりゃ良いんだけどな。

 そして……


『来た!』

「!」


 アンダーソン君の右前方の砂が盛り上がり……そして赤茶色の“何か”が飛び出した。

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