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21 レジューナの回想

──森の奥

「逃げられたか……」


 トゥラミシュとして寺院での“勤”を果たし終えた私──レジューナ──は、塔の元へと戻ってきていた。

 あれから数刻。何とも煩わしいことだ。しかしこれも私の大いなる“目的”の為、ではある。

 しかし……だ。どうしてこうも邪魔な連中が次から次へと現れるのか……。

 足元に転がるのは、両の翼を砕かれ、糸で絡めとられて足掻くガーゴイルの姿。

 まだ未完成で、調整半ばではあったが……少なくともあんな連中に敗れるほど弱くはないはずだ。だからこそ、ヤツらの討伐を任せた訳だ。

 しかし、

 ……クソッ! 私の見立てが甘かったというのか。まだ作りかけの“アレ”も出すべきだったか。

 だが、“アレ”はまだ完全にコントロールできる状態ではない。それにもし暴走などすれば、それこそ取り返しのつかないことになるだろう。

 ……フン。『神の思し召し』だの『天の配剤』だの、好き勝手言ってくれたが、ここでは私こそがその“根源”だ。我が手から逃れられるとは思うなよ。

 ……仕方あるまい。一旦引き上げるとしよう。他にもまだやるべきことがあるしな。

 私はチラと背後を見やる。

 森の樹冠越しに、聳え立つ石造りの塔が見えた。空に向かって伸びる主塔の外壁に、螺旋状に巻き付いた蛇の様な衣装が施されている。その名は、“天蛇の塔”。

 あの塔は、かつて(レジューナ)が建て、研究の為に使っていたもの。

 しかし勇者どもの襲撃を受けて放棄せざるを得なかったものだ。その後はかろうじて発覚を免れた地下の研究室で研究を続けていた。いずれ、忘れ去られた頃に奪還するつもりであった。

 だが、塔本体にギルドの魔導師どもが住み着き、それも難しい事となる。

 あの塔の地下では、大規模な実験などしたら上層の魔導師どもに気付かれてしまうだろう。

 だから、丁度空き家となっていたベルガント邸を借り、新たな研究施設とした。その理由は、その構造。この地によくある構造の家ではあるが、それが私の求めるものと合致していたからだ。

 しかし、あの盗賊連中の狼藉によって、私が禁忌を犯しているのではないかという疑いをかけられてしまった。故に、一旦あの家から手を引かねばならなくなったのだ。

 何とも忌々しい。

 ……まぁ、よかろう。

 今はせいぜい束の間の自由を満喫するがいい。いずれ“運命の糸”は貴様達を捉えるだろう。

 そもそも貴様達には、この地に何の伝手もない。必ずや我が“網”にかかる日が来る。

 では……


「“転移”!」


 そして私はガーゴイルとともに森を去った。



──直後

 私は、森に囲まれた巨大な神殿の廃墟に転移していた。

 ここは、セルキア神殿。この世界における祭祀施設でも大規模なものの一つだ。

 森、といっても無論ここは、天蛇の塔のあった場所とは違う。ベルガント邸が存在するアルタワールの街のやや北だ。

 そして……あのシロウとやらどもが転移してきた場所でもある。

 時空の歪みを感知した私がここで見た“それ”は、金属やら肉やらが溶け合う様に混ざり合った“何か”だった。

 それは、転移者であった“もの”。

 先に手に入れた転移者の“テルヤ”とやらは、肉体の損傷が激しかった為かほとんど意思の疎通ができず、異界の情報は入手できなかった。

 “これ”もあまり期待できそうにはなかったが……ベルガント邸に持ち帰り、“分離”を試みることにした。

 結果は……ある意味成功ではあった。

 肉体の分離には成功したものの、ヒトと蜘蛛が“混ざった”状態になってしまっっていた。

 理由は、シロウとともに転移してきた“蜘蛛”。あの小蜘蛛は、“女神の欠片”だったのだ。その膨大な“運命力”のためなのだろう。

 そして、シロウからは異世界の情報を入手することに成功した。それは、概ね予想の範囲内ではあった。

 とはいえあの男をこの世界に放つわけにはいかない。異分子は“処分”するしかないのだ。

 塔の住人に気付かれぬ様、あの“スパイダー”とやらを使ってシロウと小蜘蛛を始末し、それを廃棄物処理用スライムに“喰わせ”たのだ。

 それで終わった……はずだった。

 しかし、何故かヤツらは生き延びた。

 おそらくは、かつてスライムに“喰わせ”たはずのテルヤとやらの仕業か。


『…………』


 私は、神殿の東側へと視線を向ける。

 神殿を取り囲む森。その一部に大きく窪んだ箇所がある。

 あれは、テルヤの乗っていた“えあ・ぷれーん”とやらが転移し、堕ちた場所。

 どうやらこの神殿周囲は時空が歪みやすいようだ。そのため、“重なった”ものがこちらに入ってくることも少なくない。

 そのために私は、“アルセス聖堂騎士団”なる組織を作り上げたのだ。

 これは、異界人狩りを行うための組織だ。



──過去

 あの時も、私は騎士団顧問として騎士団に出動を命じた。

 私は騎士団とともに現地に赴き、捜索を行う。

 これは、生存者救出のためではない。むしろ、真逆だ。生存者は捕らえ、異界の情報を聞き出した後に始末するつもりであった。

 現地は、まさに地獄の様な状況であった。

 木々は焼け焦げ、原型もわからぬ金属の塊が多数、周囲にばら撒かれていた。おそらくは、もう……


「生存者は?」


 私は先に現地入りしていた騎士の一人に問う。


「まだ見つかっておりません。既に移動した後かと」

「……そうか。ところで、だ。全滅ではなく移動した後、とはどういうことだ?」

「こちらに……」


 私の問いに、その騎士は少し離れた場所へと誘う。


「ふむ……」


 そこにあったのは、幾つかの塚。明らかに人の手によるものだ。土の状態からして造られたばかりだろう。そしてその後方に石が置かれている。


「墓、か」


 生存者がおり、死者を弔ったのちこの場を去った、か。

 まぁ、良い。

 右も左も分からぬこの世界。そう生き延びることもできないであろう。

 私は騎士達に、生存者のさらなる探索を命じた。

 そして……私はその墓の調査を始めた。

 そこで分かったことが幾つか。

 この墓の下に眠る遺体は、まだ新しく、蘇生の可能性も少なくないこと。そして、この世界から転生した“もの”の魂を宿しているものもあった。

 ふむ……これは“使え”るかもしれん。

 この世の“(ことわり)”の“外”にある“モノ”たちを“処理”するには、やはり“理”の“外”にある“モノ”でなければならない。この世界の“環”の中に入れることも、中のものを出すこともあってはならないからだ。

 当人たちにはその不幸を呪ってもらうしか無いが……。

 私は極秘裏に遺体を確保し、ベルガント邸の地下に運び込んだ。



──現在

 『アンタのやることだぜ?』、か。

 ……シロウの台詞だ。

 ならば、万全を期してやろう。

 私は足元に転がるガーゴイルに視線を向けた。

 これは、あの現場で得たものの成果物の一つ。


「!」


 視線に魔力を込め……その身体に絡む糸を引き剥がす。


「起きろ」

『ゴ……ホ……』


 私の言葉に応じ、ガーゴイルが起き上がる。


「この場に現れた異界人は一人残らず抹殺せよ」


 そう命じておいた。無論それには、新しく転移していた者だけではなくあのシロウどもも含まれる。

 あとは……

 ガーゴイルに絡んでいた糸を手に取る。

 これを“追え”ば、いつかヤツらにたどり着く。

 その時こそ、は……

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