狸親父のせい
その日の晩のうちにルーベルトの爺様が訪ねてきた。
早い。
仕方ないので食事が終わったばかりのリビングに通した。
応接室でも良かったのかもしれないが、ここの方が早くお茶が出て来る。
「で、噂は本当なのか」
「ええ、まあ、あの狸親父は確かに来ましたよ」
「通じているのか?」
「通じているなら、あんな堂々と来ないでしょう」
「うむ……」
「むしろどんな噂が流れたんですか?」
「ノイベルトに加担しないのはバウワーと繋がっているからだ、とな」
おしい。
ノイベルトを潰したいからバウワーに加担したのだ。
「それは違います」
「ならばいい。だが、奴は何をしに来たのだ」
「援助してくれと言ってきました。どうも話しの前後はわからないのですがノイベルトはバウワーが兵を集めてるから集め出したと言い、バウワーもノイベルトが攻め込んでくると聞いて集め出したようなのですが、兵の集まりが悪く兵への報酬を二割も増やして募集を掛けてしまったらしいのです」
「……馬鹿なのか?」
「俺もその点については何を考えているんだ、頭を下げて取り消せと言いました。あまりにも馬鹿なので」
今思い出しても蹴り飛ばしたくなってくる。
「だが、それだとこちらが到着する前に戦闘が始まっていると言う事だな」
「ノイベルトも馬鹿ではありません。攻めて来るとなれば、負けない程度に戦って敵を山脈まで引き付けて合流を待つでしょう」
「ふむ……。ではこちらも急いだほうがいいのか」
その言葉にシャルはどうしたかなと辺りを見回すと、ルーベルトの爺様が来た時点でシェリールになっていた。
そのせいか、一緒に居たリリアナ達が目を丸くしてシェリールを見ている。
そう言えばまだ言って無かったな。
「急ぐにしても準備や移動で一ヶ月はかかります」
「主力だけでも運べばいい」
やはりそう言う結論になってしまうか。
結局の所一般兵は数が武器となるだけの存在なので、うちから近衛兵団や魔法師団、各領地から公爵家お抱えのエリート兵が行けば、ノイベルトの主力と合わせて確実にバウワーを追い返せる兵力になる。
それでは困る。
「確かシャルロットと言ったか、転移門の魔法に特化したエルフがいただろう」
「生憎と、学校から帰ってすぐに世界樹に用があると言って向こうに帰ってしまったらしいです。いつもリリアナ達の登校で転移門の魔法を使ってくれていて助かっているのですが」
「呼びには行けないのか?」
「行けるのはシェリールくらいですが、行くとエルフの代表に早く嫁に来いと捕まってしまうのです。エルフの結婚観が人間とは大分違っているので」
「トモヤが連れて来ればいいではないか」
「夢を壊すようで申し訳ないですが、結構な数のエルフは人間をゴミクズ同然に見ているので、探し回ろうにも話しになりません」
「……では手が無いのか」
「ええ。一度帰るといつ戻って来るかもわからないので」
「仕方あるまいか……。ちなみにだが――」
チラッとシェリールを見た。
「うちは関与しませんよ?」
「そうだったな。では可及的速やかに兵を集めて出す事にしよう。――関与は本当に無いんだな?」
「何のメリットがあるんですか」
「ノイベルトを嫌っているようだったからな」
「まぁ嫌っていますけどね」
「ふむ……」
どうやら無いと思ってくれたらしい。
極力嘘をつかないようにしてはいるが、それでもバウワーと通じている事に関してはノーとは断言出来なかったし、シャルの件でも嘘をついている。
今後シャルがシェリールだと表沙汰になる事があった場合、多分本気で怒られる。
まぁでもそれについては身内扱いになるので、関与しない側に入るから言い返せるけど。
「まぁいい。そう言う事ならこちらから話を通しておこう」
「すみません、お手数おかけします」
「なに、構わんよ」
ルーベルトの爺様はお茶を一杯飲んで帰って行った。
さて。
「あの狸親父のせいで面倒な事になった」
「やる気ならやるわよ」
「うん」
「そこの二人はやる気出さなくていいから。俺が何で今回意地でも戦争しないって決めたかわかってるだろ」
「はーい」
「うん」
千絵と楓子は変に潔くて本当に困る。
満腹で満足そうな顔をしたシエルが『はい』と手を上げた。
「でもトモヤ、援護するってどうするの?」
「シャルが千絵と楓子に透明化の魔法をかけて、上空から後衛目掛けて地面に穴開けて落ちて貰うとか、千絵の遠距離発動式の魔法で弱いファイヤーアローを撃ちまくってもらうとか。非殺傷で相手を足止めしてバウワーに止めを刺してもらう」
「そこまで来たらこっちでやっちゃっても変わらない気がするけど」
「俺の気分の問題なんだよ。何で好き好んで自分の嫁に人殺しをさせなきゃなんないんだ」
「それは嬉しいけどね、智也。やる時はやらないと」
「やる時はな。他の国の戦争に巻き込まれただけなんだから」
「ついでにあの狸親父を焼き尽くしたいだけなんだけど」
それに関してはむしろ推奨したい気持ちがあって何も言えなかった。
「あ、あのー、トモヤさん、ちょっとよろしいでしょうか……」
リリアナの凄く控えめな声に、はいそこと指さす。
そのリリアナは気まずそうにシェリールと俺を交互に見る。
「シャルロットさんは、その、一体何なんでしょう……」
「見たまんまだよ」
「ある時はぷにぷにロリっ子、またある時はすらっとした美少女。してその実態は――」
「いや実態がそっちだろ」
「表向き王女のシェリールなのでした」
「あの姿じゃもし顔バレした時に威厳もなにもないからってシェリールって言う王女を作り出したんだと。元々姿非公開だったけど王城内ではコレット達にその姿で対応してたんだ」
「でも普段はこっち」
そう言ってシャルに戻った。
と言っても、最近は慣れて来た事もあってリリアナ達がいてもシャルの姿でここに居たので、今日の件が無くても近い内に疑問をぶつけられていたと思う。
「は、はぁ……」
「しかも転生者で、元々俺の従妹って言うんだから凄いよな」
「は?」
控えめに話していたリリアナから素の声が出た。
「え?」
「いやだから言葉の通り。だから幼くても王国改革の為に色々知識があったわけ。俺達もシャルとシェリールが同一人物だって知ったのがコボルトの魔王の件があった後だし、実は従妹だって知ったのも結婚の直前に俺が踏ん切り付けられなくて暴露された。今のリリアナ達みたいに驚いたんだぞ?」
「はぁ…」
「勿論この事は内緒な。言ったらサウスルタンが海に沈むかも」
「わ、わかりました」
「智也」
「智也君」
冗談半分で脅したのに、我が幼馴染達はリリアナ側に付いたらしい。
「大丈夫よ。言わないで欲しいけど、バレたらバレたで何とでもなるだろうから」
「これを聞いたからって何もしないから安心してね」
「……俺には冗談も許されないのか……」
「あんたね、今の今まで西の国の奴等ふざけんなみたいな話してたんだから、その流れで脅したら本気にするでしょ」
「そうだよ」
「は、はい……すみませんでした……」
「にゃ」
凹んでたらトラ子が猫モードで寄って来た。
ああ、癒し。
「ま、まぁ冗談は置いといて、口外しないようにな」
「はい」
さて、ルーベルトの爺様がある程度対応してくれるだろうけど、会議では再度何かしらの追及がされるだろう。
それまでに無理のない言い訳を考えておかなければ。
聞かれ方によっては完全に嘘をつかなければならない場合もあるし、そうなると後でバレた時が怖い。
出来る事なら嘘をつかない形でかわしたいが、これがまた面倒なのだ。
全くめんどくさいなぁと思っていると物凄く邪悪な事を考えてしまう。
どうせならノイベルトもバウワーも共倒れしてくれないかなと。
そうなるとオイレンブルクが西の国を纏める事になるが、むしろ一つなってくれるなら今後の交渉なんかもやりやすい。
今更謝罪だ賠償だなんて言われても受けられないが、それ以外の形で仲良くしていく方法もあると思うのだ。
だが、こうして考えていると一つの可能性も見えて来る。
王国兵が、どんな状況だろうがノイベルトに乗り込んでしまう可能性だ。
この場合ノイベルトが勝っていても負けていてもバウワーを排除し、使える兵を吸収してオイレンブルクへ乗り込むだろう。
結果的に西の国は王国の一部となる。
それくらい強硬しかねないかも、と言う考えが頭に浮かんでしまった。
誰が指揮を執るのかまだ決まっていないが、恐らくツヴァイだろう。
もしかしたら現場の人間ではなく、公爵家の長男が指揮を執るかもしれない。
その場合は少々厄介だが、ツヴァイだったら西の国のキナ臭さを伝え、何かあったら関所で待機していて欲しいとお願いが出来る。
あくまでお願いだが、こと戦闘に関しては普段の模擬戦やコボルトとの模擬戦等で交流があるし、こちらの意見を素直に聞いてくれるので、実戦でもこちらの言う事に耳を傾けてくれると思う。
それこそ兵に何かあったら困るわけだし、変に突入して大損害が出たら目も当てられないからだ。
狸親父のせいで予定が未定になってしまった。
元々不確定要素の多い予定ではあったが、教皇には本当に話を通しておかなければ。
シャルの話だと、メモには『資金が足らん』と『積極的な援護を』と書かれていたらしく、返信として『無理』『状況によりけり』と書いて来て貰った。
一度本気で死の恐怖を太った体に覚え込ませた方がいいのだろうか。
紐無し成層圏からバンジーとか割と景色良くてお勧めなんだけどな。
ノイベルトの方は、やはりさっそくバウワーが俺に接触した事を聞きつけ、派兵の準備を急がせているようだ。
ただ、ノイベルト側には俺がバウワーを追い払ったと伝えられているようで、可及的速やかにと言う程でも無いらしい。
つまり、バウワーが兵を集めてる事だけに対応してるようだが、まだ時間に余裕があると思っているのかゆっくりだ。
が、そこはテオだ。
俺ならバウワーに水面下で協力して攻めて来させると両親に言い続けていたようなのだが、考えすぎだと突っぱねられていた。
正解だよテオ。
テオの両親としては、バウワーが兵の準備をしていると言う情報自体がノイベルト側の流した情報が帰って来ただけだと思っているようで、それほど真面目にとらえていないらしい。
と言うのも、今からバウワーが準備した所で、王国側が急げば間に合うだろうと考えているのだろう。
そう、ルーベルトの爺様に言ったように、わかっていれば山脈側に引きながら時間稼ぎをして耐える事くらい出来るはずなのだ。
基本的に、迎えが来ない限り王国の兵は相手国には入れない。
入ったら侵略行為と見做されかねない。
だがそれもあくまで通常の話であり、既に話は通っているから迎えが来なくても侵略行為と見做されないし、何なら戦闘中らしいノイベルトの手間を省いてやった事にしてガンガン進軍出来てしまう。
どうせ戦闘はノイベルトの中心地から西側のエリアだろうし、勝手に入っても何となく戦場の予想は付くから合流が可能だ。
なので、現状バウワーがやらなければならないのは、ノイベルトを完全に制圧して関所を閉じて布陣する事だ。
そうすれば王国はバウワー領になった旧ノイベルト領に勝手に進入できない。
やったら侵略行為だ。
そうやって追い返したら、次は漁夫の利を狙うであろうオイレンブルクへの対応である。
関所の閉鎖なんて余計な事をやってる間に、結構深くまで入り込まれてしまうだろう。
多分オイレンブルクに倒されるだろうな。
連戦と移動で休む間もないから、こちらが援護した所で兵は限界だろう。
隠れてヒールをするにも限界がある。
ならば、最後にはバウワー邸に火でも放って証拠隠滅を――と考えて、このままではシュバインシュタイガーがやってるような事になってしまうと思いとどまった。
怒りや恨みは人を駄目にする。
とりあえず、教皇に話を通しに行った。
「それはまた驚きだな」
「あちらで城でも建てて暮らしたらどうでしょう」
「愛に生きると決めたが、その為には相応しい身分も必要だと最近思うようになっていたのだ」
「相応しい、ですか」
「ただのどこぞの貴族の風体で話しかけても、楽しい会話にしかならない。何の発展性も無いのだよ」
それは歳のせいもあると思うんです。
「この王国の成人女性はほぼ全員婚姻関係にある事も問題だ。故に西の国へ行くのは構わないと思っている」
「そうですか。助かります」
「だが、あちらでは教皇と言う地位を隠したい」
「……やはり年齢がバレるからですか?」
「いや、色眼鏡で見られるからだ」
「ですが、それだと統治が上手く行かない可能性も」
「敬虔なる信徒であれば大丈夫。聖地で要職に就いていた貴族とでもしておけば十分だろう」
「まぁ、それくらいならそうかもしれませんが」
いつもの執務室で、珍しく俺は一人で教皇と向かって座っていた。
楓子がボディーガード役だったけど、今は神聖術のお勉強をしている。
聖地で受け取った嫌がらせレベルでデカい本だが、それに書かれていた神聖術が特殊な物だらけで、それを使えるようになる為に必要な勉強と言う物をやっているらしい。
教会の人間もそんな聖典がある事は知っていたが、実際見れるのは限られた人のみだったらしく、楓子に教えながら躍起になって構成を解読しているとか。
結局魔法はイメージの産物なので、如何に書かれていようが正しく読み取って理解しなければ、正しく発動しないのだ。
攻撃魔法とかなら多少の変化はオリジナリティーだけど、神聖術は神の力によって奇跡を起こす物もあるので、一歩間違えたら発動しないとか、場合によっては人体に甚大な影響を与える可能性すらあるのだ。
「それでなのだが、私が受ける代わりに条件があるんだ」
「何でしょう」
「彼女、楓子を大司祭に推したい」
「えーっと、それは却下で」
「なら私も受けない」
「……何で教会は楓子をそこまで要職に付けたがるんですか?」
「女神と呼ばれるだけの能力。当然だろう」
「まぁ能力だけでしたら」
「それだけの力を持った彼女が、要職についてくれれば教徒皆の心のよりどころになりえるのだ」
それはどうなんだろう。
教会の一員となる事で教会の力は増すと思う。
それだけ楓子信者が多くなってしまっているからだ。
だが、ベースはジャポニー教の信者である。
その中から楓子に傾倒するのが出て来ただけだ。
それが教会の力を削いでいると考えられなくも無いが、かと言って協会が女神と認めた以上異端ではないし、楓子に傾倒した人もあくまでジャポニー教の女神として崇めてるのが大多数だ。一部変に熱狂的でヤバいのがいるのも、これだけ信者が多ければ多少は仕方ないと思う。
まぁ女神と崇めてる以上、楓子が教会の一員としていてくれた方が自然だし、熱狂的なヤバい奴らへの対処もしやすいのだろうけど。
奴ら毎日王城の近くまで来て礼拝と同じ動きをして帰ってくからなぁ。ちょっと怖い。
「まぁ本人に相談はしておきます」
「そうか。頼んだぞトモヤ」
嫌がるだろうけどな。
そして嫌なら俺もさせないけどな。
「他に何かありますか?」
「現実問題、城の建設など出来るのか?」
「建設と言うか一応過去使っていた城はあるので、それを改修する形になると思いますが」
「ああ、そう言えば遙か昔の古城があったな」
バウワーの南、太い地脈が通る山間部だ。
共和国以前が王政であったのだろうと予想出来るだけの立派な古城が存在する。
場所が場所だけに開拓が難しいが、城を建てるならそこしかないと言う場所だ。
どうやら大昔は山の麓に町を作っていたようだが、城が使われなくなった途端町も廃れて無くなってしまったらしい。
バウワーが何故その城を家として使わなかったのかは、恐らく不便な場所だからだろう。
立地的に防衛に優れ、地下に地脈も通っているので常時発動型の魔法陣も使えたはずだが、それでも捨てられていた。
状態固定の魔法が効いているので建物自体は無事だが、野生動物が住み着いていたり土が入り込んで汚れているようなので、そこら辺の掃除と整備が必要だろう。
「なるほど、では上手く行けば私は城を持つ地方領主なのだな」
「ええ、これまでの人生をジャポニー教に捧げてきた教皇猊下へのささやかなプレゼントです」
「都合よく私のプロフィールを思い出しただけだろうに」
「そうとも言いますが、悪い話では無いでしょう」
「ああ、そうだな。こんな第二の人生があるとは夢にも思わなかった。提案してくれて感謝する」
「では、上手く行くように祈っていてください。まだ確定ではありませんので」
「そうだな」
俺としてはどうなんだろう。
正直、ノイベルトが倒れバウワーも倒れてくれたら万々歳だと思う気持ちは強い。
西の国の戦いが向こうだけで片付けば一番スマートだと思うからだ。
だが、教皇があの国を、と言うか領地を治めてくれるのなら、それはそれで解決だと思う気持ちもあるのだ。
実際王国にとって西の国は面倒な相手であり、今回の件で俺が思ってる以上に双方にとって根が深い問題だとわかってきた。
とにかく怒りや恨みを捨てて考えよう。
何が最善なのかを。
こうなってくるとバウワーと絡んだ意味はあまりない。
上手い事ノイベルトを制し、将来的にオイレンブルクを倒して西の国を纏めたとしても、あの狸親父は長くは持たないだろう。
多分クーデターに遭って、有能だと言われる弟が担ぎ出される。
今でこそ一領地でふんぞり返ってるから無事で済んでるが、国を纏めるとなれば反発は各所から出ると思うのだ。
それで有能とされる弟がどんなかは知らないが、無事治めてくれるならそれはそれでいい。
仮にノイベルトがしぶとく、王国の兵が間に合ってバウワーを倒した場合、そのままノイベルクが王国に寝返ってオレインブルクを倒して西の国が王国の物になるだろう。
その場合、とりあえず証拠隠滅にバウワー邸を家探しして俺たちの行動等が書類になってたら燃やして、後は教皇が統治する領土になる。
恐らく無事なのはノイベルクの人間だけで、バウワーやオイレンブルクの人間は戦場で殺されていると思う。
あんまり血なまぐさいのは好まないが、戦争であれば当然の流れだ。
仮に生きながらえて隠れ潜んだ所で王国の領土となるし、外へ出るには転移門の魔法でも使わない限り関所を通る。
十中八九詰みだ。
何だ、もうこの際どう転んでも大丈夫そうでは無いか。
だが、やはりテオが気になる。
ノイベルクが寝返った場合、あいつは王国民となるのだ。
その場合、個人的な恨みをぶつけたくなるだろう。
いやぶつけるな落ち着け俺。
ノイベルク家は平民に落とすが、教皇の補佐として城か城下町に住む事になるはずだ。
まぁ、本来は自分が統治権を得るつもりでピレネーと取引してたはずなので、それが駄目になったと思えば許せる気はする。
教皇が統治する以上、無駄の無い質素な生活で華やかさは殆ど無いだろう。
家の存続と言う点においては下手な事をしない限りはノイベルクも盤石な物となるだろうが、平民に落ちた事で資産も没収されているので、テオやテオの両親が考えていた生活とは遠い物になる事だろう。
どうせテオが上手い事伯爵家か公爵家の傍流と結婚して貴族に返り咲くだろうが、それまで十年は質素な生活だ。
教皇との話が終わり、楓子の勉強が終わると外に出てサクラに会いに行った。
何でって?
俺の暇つぶしと楓子が普通に遊びに行きたがっていたからだ。
教会の目と鼻の先という立地もある。
「いらっしゃいま――せー」
一々人の顔を見て嫌そうにしないで欲しい。
「こんにちはー」
「おひさーフウコ。今日は何買ってく?」
「えっとね、みんなの分欲しいからー」
なんか親友くらいの勢いで仲いいんだよなぁ。
千絵も楓子もサクラとはえらく馬が合うのだ。
と、新しく客が来た。
年の頃は俺達くらいで、上物のスーツを着ているので伯爵家か公爵家関係の子だろう。
「あっ、あのっ! サクラさん!」
「はい?」
俺と楓子はキタコレと少し離れて様子を見守る。
「今度! 一緒に昼食でもどうでしょうか!」
何だろう、爵位持ちの家かそれに連なるか、じゃなくとも関係する家の子だろうに、平民のサクラに対して凄く下からだ。
それが正しいとは思うけど、この世界ではそれはおかしい。
にしてもこの王国に於いて上流階級の男子がピュアと言うのは中々に珍しく、多分俺と同じくらいの年だけど何ともかわいらしく見えてしまう。
俺と同い年位で見覚えが無いとなると学校に通っていないだろうから、多分本家からは遠い家で戦闘系のユニークスキルは持っていないだろうな。
「お気持ちは嬉しいのですが、お昼は仕事がありますので中々……」
「では夕食でも!」
「その前に、今接客中でして……。ねぇ? 次期王様」
酷い。
こっちに振って来た。
若者の方は今になって俺達の存在に気づき、誰か気づき、青い顔をして店を飛び出して行った。
「かわいそうに」
「いいのよ。どうせまた来るから。今日で十回目かしら」
「相手してやらないのか」
「一回誰かの相手するとキリが無いってわかったから、最近は全て断ってるのよ」
「モテるのも辛いな」
「ええ、全くよ」
「あのー、智也君とサクラちゃんって何か仲いいよね?」
「気のせいだ楓子」
「気のせい気のせい」
「あれー?」
疑惑の目を向けられたので、これとこれとあれとそれと、と注文して買ってさっさと外に出た。
うーん、まぁ若いなぁと言う一幕が見れたからいいとしようか。
俺の時はどうだったっけな、ヘタレ過ぎてて現状維持でも仲良くやれてるからいいやと思ってた気がする。
にしても付き合う気は元々無いのだろうけど、十回来るくらい本気なんだから何とかしてやれよと言う思いと、そもそもハッキリ完膚なきまでに断ってやれよと言う思うがある。
平民としての立場で貴族を下手に扱えないと言うのはあるが、ああも一途な相手なら逆にきっぱり断れば大人しく引き下がりそうな気もするのだが。
サクラとはそれだけで、買い物を終えるとさっさと帰った。
サクラは前回会って以来、二日に一回ペースでトラ子に会いに来ているようだった。
トラ子もサクラが大好きなので、サクラの魔力が城内に現れると敏感に察知して会いに行くのだ。
今の所リリアナ達に気づかれていない、と言うか猫の気まぐれでどこか行ってると思われているようだが、少し気を付けるように言っておかなくては。
「ねぇサクラちゃん、実はあの次の王様に気が無い? お姉さんにだけでもこっそり教えてよ」
「そうだぞサクラちゃん。それならそれで俺も応援するからな!」
「いやほんと全くそう言った気が無いんで許してお願い」
なんてパン屋のおじさんとおばさんにそう言われた事は後日チラッと本人から聞いたが、そのせいで俺はしばらく出禁を言い渡されるのであった。
なんて酷い。
寝落ちして起きたらWindowsの更新中になってて数時間分パーになりました。
昔の98や2000時代はフリーズやブルースクリーンに悩まされたけど眠いからまさか今の時代に更新シカトしまくってて強制的に食らったタイミングが寝落ち中とは……




