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オヤジ  作者: 矢島大佐
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 不服そうだった中島も、次々に現れる制服を着たゾンビ野郎の姿を見て、「行ってくれ」って項垂(うなだ)れてた。

 暫く裏道を走って行くと、左手にこんもりとした森が見えてきた。…どうやら新宿御苑の森らしい。

 木陰の向こうにチラチラ動くモンが見えるけど、あんな所を悠長に歩いてるのは、ゾンビ野郎の他には居ねぇから用心した方がいいだろう。

 小松の奴は、低速で、なるたけ音を立てねぇように運転しながら、銃砲店のビルの前にバスを止めた。

 通りには野郎どもの影は見えなかったが油断は出来ねぇぜ。

 それでオレは、女、子供にはバスで待ってるように言ったんだが、姉ちゃんが「トイレ休憩に行かせろ」って文句を言うモンで、中島と小松に正面の警戒を任せて、ドアが半分ほど開いた銃砲店の前に一同引き連れて降り立ったのよ。

 武藤の旦那が、お巡りから受け取った拳銃を構えながらオレの後衛に付いてくれたから、用心しぃしぃ店の中を覗き込んだ。

 …入り口のマットに、頭が吹き飛んだゾンビ野郎が二匹も転がってやがった。

 そいつを足で蹴って、脇に退かしながら、店の奥に向かって小声で呼びかけてみた。

 電気は点いてねぇから薄っ暗いが、射撃用のベストや帽子が床一面に散らかった店内に人の気配は無ぇんだ。

 オレは散弾銃を構えながら、店の奥に進んで行ったのよ。

 店の用品が散らかってて、足の踏み場も有りゃしねぇうえに、血の痕らしい真っ黒いシミがあっちこっちに飛び散ってるから、ゾンビ野郎と格闘した奴が居たんだろう。

 オレたちゃ構わず、その辺の物を踏みつけながら先に進んだぜ。

 そしたらカウンターの奥で店の主人らしい中年男の死体が見つかった。

 そいつは上下二連の散弾銃の銃口を口にくわえたまんま、ザクロのような後頭部を見せてひっくり返ってた。

 男の死体は、あっちこっち噛み付かれてるみてぇだから、ゾンビになるよりゃ死んだ方がマシだと思ったんだろうな。

 それで、オレは武藤の旦那を振り返って見たのよ…。

 額に汗を滲ませた武藤は、苦しそうな表情でガラスケースに陳列されている散弾銃を手に取ってた。

 オレ達は店の奥をざっと確認して、トイレまでの経路を確保してやってから、姉ちゃん、ばぁさん、娘っ子の三人組を奥に案内したのよ。

 武藤の奴が、カウンターの中の開かれたまんまの金庫に近づくと、中に入ってる散弾の弾を取り出し始めた。

 オレが持ってる奴や、さっき武藤が手に入れた散弾銃は十二番口径だけど、「他にも何種類かの口径が有るから『タマ』を間違えるな」って武藤の旦那が言ってた。

 散弾の薬莢の後ろに十二って数字が入っている奴なら間違いねらしい。それに同じ十二の弾にも何種類か有って、一発ダマのスラッグから、クレー競技用の十号弾までいろいろ有るって話だ。

 ほんとなら用途に合わせてタマを使い分けるらしいんだが、ゾンビ用の散弾なんか無ぇから、箱に収められた薬莢を、拾ったバックに手当たり次第に放り込んでた。

 金庫の奥にゃ、ライフルの弾も見つかったから、オレは「その弾は、あんた等の小銃に使えねぇのか」って聞いたのよ。

 そいつは猟銃用のサンマル-マルロク(30-06)って口径らしくて、自衛隊の小銃とは口径が合わねぇけど、店のケースにディスプレイされてる、ライフル銃なら合うらしい。

 武藤の旦那が、「そこのガラスケースのライフル銃を取り出して持ってけ」って言ったんだが、ケースにゃ鍵が掛かってるから、簡単には取り出せねぇ。

 そこらのパイプ椅子をひっ掴んで、思いっきりガラスケースに叩きつけてやったのよ。

 すげぇ音がしたモンで、姉ちゃん達がビックリして、奥から飛び出して来やがった。

 けど、音に反応したのは姉ちゃんだけじゃ無かったぜ。

 建物の二階の方でバタバタと、物をひっくり返すような音が響いてきたから、こっちも焦っちまった。

 オレはショーケースから取り出したライフル銃二丁を、姉ちゃんとばぁさんに持たせて、女どもをバスの方に急がせたのよ。

 そしたら今度は、表の方で小銃の乱射音が鳴り出しやがった。

 どうなってんだ。チクショウめ。


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