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オヤジ  作者: 矢島大佐
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 交差点にシェルのスタンドが見えてきた。

 オレは即席のショルダーベルトを結び付けた散弾銃を、背中に袈裟懸けに背負うと、ゾンビ野郎に注意しながら助手席のドアを開けたのよ。

 「オレが飛び降りるまでゆっくり走れ」って姉ちゃんに言うと、ドアの後ろっ側に取り付けられてる梯子に掴まってダンプの外に体を乗り出した。

 姉ちゃんに指示されたらしい娘っ子が、助手席のドアを閉めながら窓ガラスを細く開けてくれたから、「頼んだぜ」って言ってからタイミングを合わせて飛び降りたのよ。

 …危なく転倒するかと思ったが、とりあえずダンプに轢かれずには済んだぜ。

 けどよ、ゆっくりしちゃ居られねぇ。オレは散弾銃を構えながら、スタンドのタンクローリー車に近づいた。

 そいつの運転席にゾンビ野郎が居たら嫌だからよ、用心しながらドアを開けたのよ。

 …幸い誰も居ねぇし、ラッキーなことに鍵も付けっぱなしだった。

 それでオレは車内に散弾銃を放り込むと、タンクローリーのエンジンを始動させてから、車体の脇に回ってタンクの放出バルブを探したのさ。

 何しろ配送の仕事なんか、やったこと無ぇから、どれがどれだか判らねぇ。構やしねぇから、それらしいバルブを手当たり次第に回したのよ。

 そしたら青色の管から突然ガソリンが吹き出して来て、ツンとする刺激臭が広がったぜ。

 …空っぽじゃなくて助かったし、タンクの放出バルブが判れば、第一関門はクリアだろ。

 それでオレはガソリンが漏れねぇように、取りあえずバルブを閉じたんだが、いつの間にか、後ろが疎かになっちまったみてぇで、気がついたら背中に嫌な気配を感じたのよ。

 …咄嗟に振り返ると、真っ白い顔したサラリーマンが、今にも跳びかかって来ようとしてるじゃねぇか。

 食われちゃたまらねぇ。…オレはコンクリートの地面に転がりながら、そいつの体当たり攻撃を避けたんだが、散弾銃はタンクローリーの運転席ん中だから簡単に応戦できやしねぇ。

 その上、そいつは、ゾンビ野郎にしちゃ素早い身のこなしで、こっちが攻撃に移る機会を与えちゃくれねぇ。

 オレは必死で逃げながら、何とか腰のベルトからナタを取り出した。

 次の瞬間、ネクタイを振り乱したサラリーマンゾンビが、跳びかかってくるタイミングを見計らって、ナタを思いっきり横に振ったのよ。

 …野郎の左頬がざっくり割れて、下あごの骨が飛び散った。

 だけどゾンビ野郎の勢いは、そんなことじゃ止まらねぇ。こっちも体当たりされて歩道のブロックまで吹っ飛ばされちまった。

 ヘルメット被ってなきゃ、アスファルトの路面に頭を打って脳震盪でも起こしたろうが、そいつのおかげで何とか気を失うのだけは免れた。

 …けどよ。ゾンビ野郎は、オレの上に馬乗りになって、噛み付こうとしてやがる。

 男に乗っかられるような趣味は無ぇけど、野郎は馬鹿力でぐいぐい押さえ込んで来やがるから、押し返すことも出来やしねぇ。

 そのうち野郎の汚ねぇ口から、唾液が糸引いてオレのジャンパーに滴り落ちて来やがってホントにヤバイ状況よ。

 なんたって、こいつが病魔の原液だろうから、見たくも無ぇ野郎の顔がだんだん近づいてきて、終いにゃ野菜の腐ったような臭いまでするじゃねぇか。

 やられる。…と思った瞬間、ダンプのホーンの音がして、野郎の注意が一瞬逸れた。

 オレは肩に掛かった野郎の腕の力が、弱まったのを見逃さなかったぜ。

 転がったまま思いっきりナタを振ったのよ。

 もちろん、野郎の肉片や体液がオレの目や口に入らねぇように、顔は横向いて目は瞑ってたけど、野郎の首の骨が折れる手応えだけは、はっきり伝わってきた。

 そいつの体液がジャンパーに飛び散ったが、オレを押さえつける力はガクッと弱まったから、どうにかゾンビ野郎を振りほどくことに成功したのよ。

 ありがてぇ。…ホーンは、周回してきたダンプの姉ちゃんが、機転利かせて鳴らしてくれたんだ。…オレはゲンコツを突き出して、無事だっていう合図を送りながら、ふらふらっと立ち上がったゾンビ野郎を、ダンプが曲がっていく交差点の中央に蹴り出してやった。

 姉ちゃんも、ちょっとビックリしたみてぇだけど、ダンプが丁度いいラインで曲がって来たから、フロントタイヤに乗っかられ、リアのダブルタイヤで伸ばされてゾンビ煎餅の出来上がりよ。

 …まぁ、奴の臓物がパンクして散らばってるから、次に廻って来た時ゃ、姉ちゃんもアワ食って真っ青だろうけどな。

 そんなこと考えながらオレは、他の野郎が来ねぇうちに、タンクローリーに乗り込んで、今度はしっかり散弾銃を抱え込んだのよ。


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