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オヤジ  作者: 矢島大佐
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 小銃の射撃音は、どうやら警察署の建物の方から聞こえてくる。

 オレは奴等に囲まれねぇようにダンプを運転しながら、誰とも知らねぇ奴にホーンで合図を送ったのよ。

 …警察署の建物は下り車線にあるから、遠くて何を言ってるか判らねぇが、人の声らしきものが聞こえてきたぜ。

 やっぱり、生きてる奴が居るみてぇだ。…そいつが噛まれてなければ、なお良いんだけどよ。

 さぁて、何とか助けてやりてぇンだが、警察の前には何百匹ってゾンビ野郎が屯ってるだろ。敷地の中だって、どんだけ居るか判からねぇ。…ダンプで突っ込んで行っても、出てこれる保証は無ぇよなぁ。

 ゾンビ野郎に取り付かれねぇように注意しながら、警察署の前を通り過ぎるとき、横目で建物をよく見たんだが、三階の窓が開いてて、自衛隊のヘルメット被った奴が必死で手を振ってた。

 オレもダンプの窓を細めに開けて、「助けてやるから、待ってろ」って怒鳴ったけど、向こうに聞こえたかどうかは判らねぇな。

 横に乗ってる姉ちゃんが、「どうやって助けるんだ」って聞きやがる。いい考えなんか簡単にゃ浮かばねぇよ。

 …とにかく、警察署の裏側に回り込もうと思って昭和通りを右折したのよ。

 そんで、金杉通りの交差点を戻るつもりで、もう一回右折したら、角のガソリンスタンドに使えそうなモンが見つかった。

 そいつは黄色い貝殻マークを横腹にくっ付けた大型車で、どうやらスタンドへ配送中に店員もろとも運転手が、どっかに行っちまったらしい。

 そいつの後ろに掲示してある積載物の表示は「ガソリン」、「軽油」って書いてあるから、こいつは使えるってピンと来たのよ。

 けどよ、あれを動かすにゃ、また、こっちのダンプを姉ちゃんに運転して貰わなきゃならねぇだろ。

 それで、オレは姉ちゃんにオレの考えを伝えたんだが、「危険すぎてダメだ」って言いやがる。…そのうえ、「オレには自分と娘っ子を安全なところまで連れて行く義務も有るから、無茶するんじゃネェ」とまで言い出しやがるから、オレも頭に来て「お前ら、降りるか?」って聞いてやったのよ。

 本心じゃ無ぇのは判ってるだろうけど、それで姉ちゃんもしぶしぶ了解してくれた。

 下谷警察署の建物に立てこもってる奴等は、何人居るかは知らねぇけど、何とか助けてやるつもりで、オレは昭和通りと金杉通りをダンプで周回しながら周辺の状況をよく確認した。

 警察署の前を通る度に、何匹かのゾンビ野郎がダンプを追いかけて来たが、大部分の奴等は昭和通り側の入り口に押しかけてるらしくて他の通りに人影は無かった。

 みんなまとめて火葬にしてやりゃ、ゾンビどもも成仏できるだろう。

 それでオレは、ダンプを転がしながら、自分の装備を確かめた。…十二番口径の上下二連散弾銃は装填済みだが、残念なことにクレー射撃用の散弾銃だからショルダーベルトは付いて無ぇ。

 銃身と銃床をロープで結んで肩に担げば、両手はフリーで使えるだろう。だからオレは姉ちゃんに話して、足下に放り出してあったトラロープを利用して、即席のショルダーベルトを作って貰ったのよ。

 次に接近戦になった時の獲物を選んだんだが、ダチの倉庫に置いてあったナタと、台所で見つけた包丁ぐらいしか無ぇんだよ。

 歯が立たねぇかもしれねぇが、素手よりゃマシだろうから、取りあえずナタを腰のベルトに差し込んで、心細いが武器の準備は完了よ。

 次は防御の方だけど、こっちもロクなモンは有りゃしねぇ。精々商売道具の軍手とヘルメットぐらいしか見当たらねぇが、こんなモンでも何かの役には立つだろう。

 黄色いヘルメット被って、軍手を填めると散弾銃の予備弾をジャンパーのポケット一杯詰め込んで、ダンプを走らせながら姉ちゃんと運転を代わったのよ。

 姉ちゃんもダンプの運転に慣れてきたのか、何とかまともに走らせることが出来るようになってきたから、助手席のアシストグリップにしがみついてる娘っ子には、「周りをよく見てて、ゾンビ野郎が来たら姉ちゃんに教えるんだぞ」って声かけながら、オレは助手席のドア側に体を移した。

 黙って頷いた娘っ子は、今にも涙しそうな眼差しで「おじちゃん、帰ってきてね」って唇を振るわせながら呟いてた。

 それでオレは、「自分が出て来るまで、今のコースを周回しろ」ってことと、「三十分たっても出てこなければ、来た道を引き返して北に向かえ」って姉ちゃんに言ったのよ。

 ダンプの燃料計の目盛りは半分ぐらいを差しているから、巧く行けば宮城辺りまでは行けるだろう…。


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