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一番大事な物は何ですか? 十

 都会の中でも割と大きな病院。勝は自動ドアが開いて入ろうとしたが、ある物が目に入り立ち止まった。駐車場に一台の大きなバスに並ぶ人達。バスには献血と書かれている。並んでいる人達はお年寄りばかりだ。バスの扉から出て来た男が、順序よくする為に誘導し始めている。


「順番にお並びください。すぐに終わりますので…」


「具沢差さんや。献血はどのくらい血を抜くのかい? もう立ってるの疲れたんじゃが…」


「もう少しですよ。そんなに抜きませんから」


「………」


 笑顔で対応する具沢差に、早くも疑いの目を向ける勝。会話からしたら優しそうだが、今回の殺人事件で一番怪しい人物だ。


「なるほど〜。彼が怪しいと睨んだ警察は中々だと思うね!」


「……でも…証拠……掴めてない………無能」


 いつの間にか勝の後ろに隠れていた不明と未明。そして一番遅く来たのは日揮は息を切らしていた。


「はあ……はあ……勝手に行くなよ」


「だらしないな。警察がそんなんでどうするんだ?」


「車で送ったのは僕だぞ! 勝手に降りやがって……それにここの駐車場が遠いんだ! 疲れるんだよ……はあ」


 額の汗を袖で拭く日揮。気を取り直して具沢差の元へ歩いて行く。


「何度もすいません具沢差さん。日揮です」


 日揮の顔を見た具沢差は、嫌そうな顔をするとため息を吐いた。


「……刑事さん。私はあなた達の協力は出来る限りやります。ですがこう毎日来られては商売になりません」


「毎日来てるの? そりゃ迷惑だ」


 からかわれニヤニヤとする不明に、日揮は大きく咳をした。


「ご迷惑をおかけして申し訳ないですが、事件解決の為なんです。お願いします」


「………」


 頭を下げる日揮。勝はそのやりとりをただ見ているだけだった。彼が事件を解決したい気持ちはとっくに分かっていた。気になっているのは具沢差の方だ。医者のくせに商売と言うなんて、気に入らない。


「もう一度俺達に話せば、すぐに帰りますよ」


「……彼も警察?」


「あ、いや彼は……」


「日揮君の上の、更に上の上司です。正直に言うと事件は手詰まりしてるので、ふりだしに戻ってここの捜査は打ち切りたいと思っています」


「な?!」


 何を勝手に決めていると思う日揮だが、彼の考えがあっての事だろう。言いたい気持ちを抑えた。


「ふむ……つまり最後ということですか?」


「ご名答です」


「……じゃあそこの女の子二人は?」


「社会見学です!」


 笑顔で敬礼する不明に、具沢差は少し不審を抱く。


「警察が社会見学をするなんて初めて知った。だがこんな所に来させるなんて……それに何故二人しかいない?」


 おかしな点だらけだから、具沢差も怪しんでる。すると勝は不明の頭を叩いた。


「何言ってんだ。日揮の姪っ子でこいつが無理して来させたんですよ。すいませんね」


 この探偵は日揮に責任を擦りつけた。このままだと日揮はいらぬ問題まで抱え込まないといけない。さっさと具沢差に話をしてもらおう。


「すいません。そちらの為にもなるべく時間を早く済ませたいので、もう一度お話を…」


「はあ……分かりましたよ。君、ちょっと席を外すよ。後は任せるよ」


 具沢差は近くにいた看護婦に伝えると、病院の中に入っていった。勝と日揮も一緒について行こうとすると、未明が勝の袖を掴んで足を止めさせた。


「彼……やってるなら……凄く綺麗…」


「ああ、もしかしたら……こいつは可能性が出る。お前は周りの人から話を聴いてこい」


「……何を?」


「殺害された具流目と倉井……それと具沢差もな。どんな人間かを聴くくらい簡単に出来るだろう?」


「わかった……不明は?」


「あいつは他の仕事をやらせる」


 エレベーターの前で日揮が探している。具沢差に感づかれる前に、勝は日揮の元へ行く。


「頼んだぞ」


「…………」


 無言だが未明は首を縦に振った。彼女なりの返事だ。すぐに日揮の元へ合流すると、エレベーターの中で待っていた具沢差と不明に追い着いた。


「遅れてすいません」


「……もう一人の女の子は?」


「彼女はトイレに行くと言いました。心配なさらずとも、彼女は賢いのでしばらくしたら戻ってきますよ」


「別に心配してはいない。迷惑を起こさないでほしいだけだ」


 エレベーターは動き出し、着いたところは関係者以外は入れない最上階だ。具沢差は院長室と書かれた部屋に入る。以前は具流目の部屋だったが今は彼の部屋だ。


「どうぞ座ってください」


 三つあるソファに具沢差は座ると、手で向かいのソファを指した。勝と日揮は座るが、不明は部屋の周りをうろちょろと見ていた。


「すごーい! 腕時計がいっぱい!!」


「お嬢ちゃん、あまり触らないでね。ここには高額な物が置いてあるから」


「ほーい」


「といっても具流目院長の趣味で集めてた物だからね。彼がいた証にも置いておこうかと」


「そうですか。それでは具流目さんとはどんな関係か教えて下さい」


 日揮には亡くなった人に対する具沢差の優しい気持ちがよく伝わった。


「はい……といっても、彼とはあまり仕事をした事がないんだよ。一月半くらいにこの病院に来たからね。前は違う病院で働いていたから」


「つまり具流目さんと初めて会ったのは、その時ですか?」


「え、ええ。彼の父親とは仕事上何回か顔を合わせてはいましたが、仕事の話しかしていないですし、息子さんが医者として働いてたなんて初めて知りましたよ。彼は父親の葬式にも出なかったんですから」


 育てた親の甘やかしか、ただの反抗期だったのか分からないが真面目な人間とはいえない。


「医者としての腕前はどうでしたか?」


「私はよく知りませんが……あれでしたら具流目院長の手術記録が残ってると思いますが、見ますか?」


「……日揮、その資料は確認済みか?」


「あ、ああ…正直に言うと彼はあまりいい医者ではなかった。手術ミスにギャンブルまで手を出してると」


 日揮が確認済みという事は、手術記録の資料はこちらにあるなら今確認する必要はない。


「分かりました。次に彼が行方不明になったと思われる十五日前、何をしていたか教えてもらっても?」


「それなら、そこの刑事さんに言った同じ事しか話せないよ。私はその前日から出張で四日間、福岡に行っていた」


「……具流目さんと最後に会ったのは?」


「出張の前の日だ。私が出張に行った後、彼はこの病院に来ていたという話だ」


 これが警察が崩せないアリバイだ。日揮も右手で頭を掻きながら悩んでいる。すでに裏を取りに福岡まで捜査したんだだろう。具沢差が犯人ではないという。


「……お話、ありがとうございました。それじゃ私達はこれで…」


「ねえねえ! この人達誰!?」


 勝が引き上げようとした途端、不明が大声で具沢差に聞いた。持っていたのは家族の写真だ。


「ああ、それは私の家族だ」


「可愛い息子さんだね〜。名前は?」


「え? ああ……遊葉ゆうはだ」


「奥さん美人だね〜。この人はどこ出身?」


「ええと…どこだったかな? 歳のせいか最近物忘れが酷くてね。すまないが、仕事が詰まってるんで…」


「ええ、ありがとうございました」


 勝は笑顔で挨拶すると日揮と不明を連れてエレベーターに乗った。腕を組んで考える勝に、日揮は溜め息を吐いた。


「はあ……お前がこうも早く切り上げたのは、やはり犯人はあいつじゃないということか……」


「何を言ってる? 犯人はあいつだ。間違いない」


「……はあ?!」


 驚く日揮に気にもしない勝。勝はすでに犯人はあいつだと断定していた。しかし、大きな問題があった。


「問題は、奴の犯罪に手を貸している者だ」


 勝の目は、日揮が今まで見たことがないほどの怖さを感じさせた。

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