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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第82話 北から届いた氷の便り

西・東・南。


三つの配送路が繋がり、物流は「巡る仕組み」へと変わり始めた。


補給網中継器の稼働率は三十六パーセント。


残る方角は、ただ一つ。


北方配送路。


その始まりは、一枚の木板に刻まれた、凍えるような知らせだった。

朝。


東補給庫の管理室では、補給網中継器が静かな音を刻んでいた。


カチ……。


カチ……。


その光は以前より安定している。


誠司は帳面を開き、昨日までの配送記録を書き込んでいた。


西方定期便。


東補給庫点検。


南薬草便。


医療便。


一つひとつ書き終えたところで、中継器が一際強く光る。


カチン――。


今まで聞いたことのない、高く澄んだ音だった。


帳面にも文字が浮かぶ。


未確認信号を受信


発信方向 北方


「北だ。」


ロウグもすぐに帳面を覗き込む。


地図の北側。


今まで何もなかった雪色の空白へ、小さな光が一つだけ灯っていた。


「誰かが……。」


「補給網を使ったのかもしれない。」


誠司は静かに頷いた。


二十八年間、誰も反応しなかったはずの配送網。


その向こうで、誰かが待っている。


その日の午後。


北砦へ向かうと、入口でカイルが難しい顔をして待っていた。


「伝令。」


短く言って、一枚の木板を差し出す。


普通の木札ではない。


分厚い白樺の板だった。


表面には刃物で文字が刻まれている。


峠 閉鎖間近


雪 早い


助け 必要


ロウグが読み上げる。


「送り主は……。」


板の裏には、小さな印。


山をかたどった紋章だった。


カイルが説明する。


「北の山民。」


「冬前だけ来る。」


「今年、来ない。」


つまり、この木板は途中で誰かが拾い、北砦まで届けたのだ。


誠司は板を両手で持つ。


まだ新しい。


数日前に刻まれた文字らしい。


「急がなきゃいけない。」


そう言いかけて、第一配送者の言葉を思い出す。


急ぐとは、一人で頑張ることではない。


誠司は深呼吸した。


「まず準備だ。」


水車町へ戻ると、すぐに会議が開かれた。


参加したのは、


ガラン。


エレナ。


リア。


バシール。


村長の娘。


そしてカイル。


誠司は木板を皆へ見せる。


「北へ行く。」


「でも冬山だ。」


ガランが腕を組む。


「タイヤじゃ厳しい。」


リアは薬草袋を差し出した。


「凍傷の薬。」


エレナは古い地図を広げる。


「北方街道は、ここで終わっています。」


「その先は徒歩道です。」


バシールも口を開く。


「荷獣も雪は苦手だ。」


皆で考える。


誰一人、「無理だ」とは言わない。


どうすれば届けられるか。


それだけを考えていた。


翌日から準備が始まった。


トラックには滑り止め用の鎖が取り付けられる。


ガランが一つひとつ確認する。


「初めて作る。」


「だから何度も試す。」


北砦の兵士は防寒具を運び込む。


森の民は保温性の高い毛布を持ってきた。


リアは寒さに効く薬を箱へ詰める。


誠司は荷札を新しく作った。


白札 北方便


これまで使っていなかった色だった。


夕方。


北砦で試運転を行う。


雪はまだ少ない。


しかし凍った坂道は滑りやすい。


チェーンを巻いたタイヤがゆっくり登っていく。


ガリ……。


ガリ……。


少しずつ。


焦らず。


止まらず。


頂上まで登り切ると、皆から拍手が起きた。


ガランが笑う。


「いけるな。」


誠司も笑った。


「まだ入口だけどな。」


その帰り道。


北砦の見張り台から、兵士が叫んだ。


「煙!」


皆が空を見上げる。


北の山並み。


遠くに細い煙が一本だけ立ち昇っていた。


カイルが目を細める。


「救難煙。」


三回。


少し間を空けて、また三回。


決められた合図だった。


誠司は帳面を開く。


中継器が反応する。


北方信号 一致


発信源 確認


地図の北側へ、青い点が灯る。


初めてだった。


待っている人が、はっきり見えた。


夜。


東補給庫へ戻ると、補給網中継器の光はさらに強くなっていた。


カチ……。


カチ……。


帳面へ新しい表示。


北方配送路 仮登録


補給網中継器 稼働率 40%


四方接続まで 残り一地域


「四十。」


誠司は数字を見つめた。


まだ半分にも満たない。


それでも、この四十という数字には意味があった。


配送網は確実に目を覚ましている。


その夜。


第一配送者の記録が現れる。


北だけは、


最後まで辿り着けなかった。


雪は道を隠し、


足跡まで消してしまう。


それでも私は知っていた。


白い世界にも、


待っている人はいる。


配送屋は、


行きやすい場所へ行く仕事じゃない。


必要とされる場所へ行く仕事なんだ。


誠司は静かに帳面を閉じた。


西では砂。


東では森。


南では雨。


そして北では雪。


それぞれ違う困難がある。


だからこそ、届ける価値がある。


翌朝。


満タン便の荷台は、いつものように満タンだった。


飲み物。


ガソリン。


防寒具。


凍傷薬。


保存食。


そして、新しく作られた白い荷札。


北方第一便


誠司は運転席へ座る。


エンジンが低く唸る。


フロントガラスの向こうには、白く輝く山々。


まだ誰も知らない北方配送路。


その先で待つ誰かのために。


満タン便はゆっくりと、雪の世界への第一歩を踏み出した。

第82話では、いよいよ北方編が幕を開けました。


これまでの三地域とは異なり、北方の最大の敵は「雪によって道そのものが消えること」です。


また、初めて**白い荷札(北方便)**が登場し、四つ目の配送路が動き始めます。


次回、第83話では、誠司たちは雪道へ挑み、氷に閉ざされた山の集落との初めての出会いを迎えます。そこには、第一配送者も最後まで辿り着けなかった、本当の「最後の道」が待っています。

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