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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第80話 花渓の里への初便

南方配送路最初の拠点「南休所」が完成した。


初めて利用した旅人、薬師リアとの出会い。


そして明らかになった、南方最大の課題。


それは、水不足でも砂嵐でもない。


雨によって道が消えること。


誠司は満タン便を走らせ、南方で初めての正式な配送へ向かう。

朝。


東補給庫の前では、荷積みが進められていた。


今日は南方への初めての定期便。


荷台にはいつもの飲み物と保存食のほかに、新しい荷物が並ぶ。


防水布。


油紙。


丈夫な木箱。


乾燥剤。


交換用ロープ。


そして空の保存箱。


リアから預かる薬草を傷めず運ぶためのものだった。


誠司は一つひとつ固定具を確認する。


「今日は濡らせない荷物が多い。」


ガランが木箱を叩く。


「防水加工もしておいた。」


「多少の雨なら平気だ。」


ロウグが帳面へ記録する。


南方第一定期便


荷札は緑色だった。


午前。


南休所へ到着すると、掲示板に新しい文字が増えていた。


昨夜 豪雨


橋 異常なし


沢 水位高め


その下には、見慣れない字で一言。


ありがとう。 リア


誠司は思わず笑う。


「ちゃんと使ってくれてる。」


建物は、人が使って初めて完成する。


第一配送者の言葉どおりだった。


休所で少し待っていると、鈴の音が近づいてきた。


リアだった。


今日は荷車いっぱいに薬草を積んでいる。


青い花。


赤い葉。


細長い根。


乾燥させた木の皮。


誠司は驚く。


「こんなにあるのか。」


「春だから。」


リアは笑った。


「今だけ採れる。」


荷物を一つずつ確認する。


湿気を嫌う薬草。


逆に少し湿らせた方がいい根。


香りが飛びやすい花。


種類ごとに木箱を分ける。


ロウグが感心する。


「薬も物流ですね。」


リアは大きく頷いた。


「運び方で薬になる。」


「運び方を間違えると、ただの草。」


誠司はその言葉を帳面へ書き込んだ。


昼前。


リアの案内で、さらに南へ向かう。


道は細い。


昨夜の雨でぬかるみもある。


誠司は速度を落とした。


急げば泥を跳ね上げる。


荷物も痛む。


ゆっくり。


一定速度。


西方とは違う理由で、慎重な運転が必要だった。


やがて谷が開ける。


一面に色とりどりの花が咲いていた。


谷全体が花畑になっている。


その中央に、小さな集落。


屋根は急勾配。


家々は高床式になっていた。


「花渓の里。」


リアが少し誇らしげに言う。


集落へ入ると、人々が荷車ではなく赤いトラックを見て足を止めた。


子どもたちは目を丸くする。


年配の女性はリアへ何か尋ねている。


リアが笑顔で答える。


「配送屋。」


その一言で空気が和らいだ。


誠司は長へ挨拶する。


「水車町から来ました。」


「満タン便です。」


長は静かに頭を下げた。


「ようこそ。」


今回の荷物は多くない。


防水布。


保存瓶。


丈夫な縄。


保存食。


そして薬師が使う細かな道具。


代わりに受け取る荷物は、薬草だった。


しかし誠司はすぐには積み込まない。


まず保管場所を見る。


薬草小屋は湿気が少なく、風通しも良い。


「いい保管庫ですね。」


長が笑う。


「薬は里の宝だから。」


その言葉に誠司は頷いた。


荷物を守る場所も物流の一部だった。


午後。


突然、鐘の音が鳴り響いた。


カン、カン、カン!


里の人々が一斉に動き出す。


リアが顔色を変える。


「上流!」


皆で谷の上を見る。


山から濁った水が流れてきている。


鉄砲水だ。


「橋!」


子どもたちが叫ぶ。


里へ入る木橋が危ない。


誠司はすぐ荷台を開けた。


「ロープ!」


北砦の兵士が受け取る。


ガランは工具箱を抱えて橋へ走る。


リアたちは薬草小屋の戸を閉め始めた。


誰も慌てて叫ばない。


やるべきことが決まっている。


誠司も橋へ向かう。


橋脚はまだ無事。


だが流木が引っ掛かっている。


このままでは水圧で橋が壊れる。


「流木を外す!」


ロープを掛ける。


トラックは動かさない。


代わりに滑車を使う。


皆で引く。


少しずつ。


少しずつ。


ドン!


流木が外れ、一気に下流へ流された。


橋脚へ掛かる水圧が減る。


橋は持ちこたえた。


やがて水位もゆっくり下がり始める。


夕方。


雨雲は去り、谷へ虹が掛かった。


里の人々から拍手が起こる。


長が誠司へ深く頭を下げた。


「橋を守ってくれて、ありがとう。」


誠司は首を振る。


「皆で守りました。」


リアが笑う。


「だから残った。」


物流は荷物だけではない。


橋も。


道も。


皆で守るものだった。


帰る前。


長は一枚の木札を誠司へ渡した。


そこには美しい文字で書かれていた。


薬草定期便 依頼


誠司は静かに受け取る。


「喜んで。」


帳面が優しく光る。


花渓の里 登録完了


薬草定期便 開始


南方配送路復元率 12%


補給網中継器 稼働率 31%


夜。


東補給庫へ戻ると、第一配送者の記録が現れた。


南は雨で道が消える。


だから私は、


荷物より先に橋を見た。


橋があれば、


明日も届けられる。


配送屋は、


今日の荷物を運ぶだけでは足りない。


明日の荷物が通る道も、


一緒に運ぶ仕事なんだ。


誠司は静かに帳面を閉じた。


今日は薬草を運んだ。


橋も守った。


そして、新しい定期便も始まった。


一日でやった仕事は多い。


それでも、どれも「届け続けるため」の仕事だった。


翌朝。


満タン便の荷台は、いつものように満タンだった。


その荷台には、新しく防水加工された木箱が整然と並んでいる。


南の雨に耐え、薬草の香りを守るための専用箱。


物流は土地に合わせて育っていく。


誠司はエンジンを始動した。


西の乾いた風も。


東の静かな森も。


そして南の雨も。


すべてを繋ぐ一本の配送網を目指して。


赤いトラックは、朝靄の中をゆっくりと走り始めた。

第80話では、花渓の里への第一便と、南方ならではの「豪雨と橋」という課題を描きました。


西方では「水を届ける」、東方では「道を開く」、そして南方では「雨から物流を守る」。


それぞれ異なる課題に向き合うことで、満タン便の配送網は少しずつ世界全体へ広がっていきます。


次回、第81話では、花渓の里から運ばれた薬草が水車町の薬師たちによって新たな薬へと生まれ変わります。そして初めて、南から北へ届ける物流が始まり、配送網は「循環する物流」へと進化していきます。

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