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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第70話 東へ向かう手紙

西方では、満宿と給水所を中心に、新しい配送網が動き始めた。


隊商との共同運行も軌道に乗り、誠司がいなくても物流は回り続ける。


その頃、水車町では、静かに次の物語が始まろうとしていた。


第一配送者が最後までたどり着けなかった、東方配送路。


その扉を開く最初の荷物は、一通の手紙だった。

西方共同運行が始まってから、一週間が過ぎた。


誠司は久しぶりに、朝から水車町で荷物の仕分けをしていた。


西方への定期便は予定どおり出発する。


満宿には補給担当が常駐し、給水所の管理も当番制が定着していた。


バシール率いる隊商も、決められた日に給水所へ到着する。


帳面には、こう表示されている。


西方配送網


運行状況 安定


誠司は静かに微笑んだ。


「ようやく、自分がいなくても回るようになったな。」


ロウグも頷く。


「これが、本当の配送網です。」


午前の配送を終え、集荷所へ戻ると、一人の少女が入口で待っていた。


年は十歳くらい。


薄い青色の服を着て、小さな革袋を抱えている。


初めて見る顔だった。


少女は誠司を見ると、少し緊張した様子で頭を下げた。


「……満タン便?」


共通語だった。


まだたどたどしいが、はっきり聞き取れる。


「そうだよ。」


少女は革袋から、一通の封筒を取り出した。


封は青い蝋で閉じられている。


見たことのない紋章が押されていた。


羽を広げた鳥の紋章。


「届けて。」


「どこへ?」


少女は首を横に振った。


「知らない。」


「え?」


「おじいちゃんが。」


「満タン便なら分かるって。」


誠司は封筒を受け取り、帳面の上へ置いた。


すると。


今まで一度も見たことのない反応が起きた。


封筒が淡い青い光を放つ。


帳面も同じ色に輝き始めた。


ゆっくりと文字が浮かぶ。


東方配送路認証品 確認


未配達郵便


保管期間 二十八年


誠司は思わず息を呑んだ。


「二十八年……。」


第一配送者が届けられなかった手紙。


ずっと誰かが守り続けていたのだ。


少女の祖父は、その日の午後にやって来た。


白髪の老人だった。


背中は曲がっているが、目だけは驚くほど力強い。


誠司は事情を尋ねた。


老人は静かに話し始める。


「昔。」


「赤い車が村へ来た。」


「一通の手紙を預かった。」


「東へ届けると言った。」


老人は少し黙った。


「だが、その翌日から来なくなった。」


誠司もロウグも、言葉が出なかった。


老人は封筒を優しく撫でる。


「約束だから。」


「誰にも開けなかった。」


「いつか赤い車が戻ると思っていた。」


二十八年間。


開封もされず。


捨てられもせず。


ずっと待ち続けていたのだ。


誠司は深く頭を下げた。


「預かります。」


老人は安心したように微笑んだ。


その夜。


帳面へ封筒を置く。


青い光がゆっくり広がる。


地図の東側。


今まで銀色だった一本の線が、淡く青く染まっていく。


新しい表示。


東方配送路


第一目的地 判明


風見の村


「風見の村……。」


ロウグが首を傾げる。


「聞いたことがありません。」


帳面はさらに表示する。


現存確認 不明


誠司は苦笑した。


「まず、あるかどうかからか。」


西方と同じだった。


知らない土地。


知らない人。


そして、止まったままの配送路。


翌日。


水車町で小さな会議が開かれた。


ガラン。


エレナ。


カイル。


サーラ。


バシール。


皆が集まる。


誠司は封筒を見せた。


「西は皆に任せたい。」


誰も反対しない。


バシールが力強く言う。


「任せろ。」


サーラも笑う。


「給水所、守る。」


ガランは腕を組む。


「橋も宿も壊させねぇ。」


エレナは帳面を見ながら頷く。


「西の定期便は維持できます。」


その言葉を聞いて、誠司は安心した。


だからこそ、東へ行ける。


配送網は、一人で走るためではなく、新しい道を作るために支えてくれる。


夜。


第一配送者の記録が現れる。


私は西へ向かい、


東へ向かう約束を残した。


その約束だけは、


最後まで果たせなかった。


手紙は荷物の中で一番軽い。


でも、一番重い。


待っている人の時間が、


全部詰まっているからだ。


誠司は静かに封筒を見つめた。


中には何が書かれているのだろう。


でも開けない。


それは配送屋の仕事ではない。


届けること。


それだけだ。


翌朝。


荷台はいつもどおり満タンだった。


飲み物。


ガソリン。


西方定期便。


修理便。


そして、運転席の横には、小さな革袋。


その中には、一通の手紙。


二十八年間、届けられなかった約束。


誠司はエンジンを始動する。


西へ向かう道ではなく。


今度は、朝日が昇る東の空へ向かって。


満タン便は、新しい物語の始まりとなる一本道を、ゆっくりと走り始めた。

第70話では、西方編を一区切りとし、新章となる東方配送路編への橋渡しを描きました。


西方では「物流の仕組み」が自立し、誠司が不在でも配送網が動き続けます。その成長があったからこそ、新たな土地へ踏み出せるようになりました。


そして東方編の最初の荷物は、大量の物資ではありません。


二十八年間、誰かが開けずに守り続けた一通の手紙。


第一配送者が果たせなかった最後の約束を、誠司が受け継ぐことから、新たな旅が始まります。

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