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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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第63話 水を運ぶ仕組み

西方第一集落への二度目の配送で、誠司は気付いた。


本当に足りないのは、水ではなかった。


水を運ぶ「人」と「時間」、そして「仕組み」が足りなかったのだ。


満タン便は今日も西へ向かう。


今度は荷物だけでなく、暮らしを少し楽にする知恵を積んで。

翌朝。


水車町の工房では、朝早くから金槌の音が響いていた。


ガランが鉄の輪を叩き、若い鍛冶職人が車輪の軸を仕上げている。


誠司は完成した部品を一つずつ確認した。


「これなら軽いな。」


今回作った荷車は、普段の荷馬車より一回り小さい。


積める量は少ない。


しかし軽い。


女性や年配者でも押しやすく、狭い井戸道でも方向転換しやすいよう工夫されていた。


車輪の幅も広くしてある。


砂へ沈みにくくするためだ。


ガランが胸を張る。


「砂用だ。」


「泥じゃなく、砂に負けねえ車輪だ。」


誠司は笑った。


「頼りになる。」


隣では水車町の大工が木製の滑車を組み立てている。


金属を減らし、木と丈夫な蔓を組み合わせた構造だ。


万が一壊れても、現地で修理しやすい。


森の民の知恵も取り入れられていた。


「完成です。」


ロウグが帳面へ記録する。


荷台へ積み込まれたのは、


小型荷車二台。


滑車三組。


丈夫なロープ。


交換用車輪。


工具。


そして、いつもの飲み物。


今日も荷台は満タンだった。


満宿へ着くと、建設はさらに進んでいた。


壁が立ち始め、屋根も八割ほど完成している。


入口には新しい看板が掛けられていた。


満宿


その下へ、小さく文字が追加されている。


旅人歓迎


誠司は思わず笑った。


「誰が書いた?」


ガランが照れくさそうに鼻を鳴らす。


「旅人が入らねえ宿なんて意味ねえだろ。」


宿は配送屋だけのものではない。


その考えが、皆へ自然と広がっていた。


西方第一集落へ到着すると、サーラが嬉しそうに駆け寄ってきた。


「また来た。」


「約束だから。」


誠司は荷台から小さな荷車を降ろす。


集落の人々が不思議そうに集まってくる。


長もゆっくり歩いてきた。


誠司は井戸まで案内してもらう。


井戸は相変わらず深い。


水はある。


だが汲み上げるのに時間がかかる。


誠司はまず滑車を取り付けた。


今までは、ロープを直接引き上げていた。


滑車を通すだけで、必要な力は大きく減る。


サーラが試しに引いてみる。


「あっ。」


驚いた声を上げる。


以前よりずっと軽い。


次は年配の男性が試す。


ゆっくりだが、一人で水桶を引き上げられた。


集落の人々がざわめく。


誠司は笑顔で頷いた。


「力じゃない。」


「仕組み。」


ロウグが通訳すると、長は何度も滑車を見つめていた。


次は荷車だった。


水桶を二つ積み、井戸から家まで押してみる。


以前は一人で一つしか運べなかった。


今は二つ。


しかも腕への負担が少ない。


子どもたちも興味津々で後ろをついてくる。


少年が恐る恐る荷車を押した。


少しふらついたが、ちゃんと動く。


転ばない。


「押せた!」


サーラが笑って通訳する。


集落中に笑顔が広がった。


午後。


誠司は皆を集め、小さな相談会を開いた。


「一人で全部運ばない。」


地面へ絵を描く。


井戸。


荷車。


家。


四人の人。


一人が水を汲む。


一人が荷車を押す。


一人が家へ運ぶ。


一人が空の桶を戻す。


役割を分ける。


「交代しながら運ぶ。」


サーラが熱心に説明する。


最初は戸惑っていた人々も、実際にやってみると理解した。


一人で十往復していた作業が、


四人なら三往復ほどで終わる。


残った時間は畑仕事や休息に使える。


長が静かに言う。


「時間が増えた。」


誠司はその言葉が嬉しかった。


物流とは、時間を生み出す仕事でもある。


夕方。


集落の女性たちが井戸の近くへ集まり、小さな木札を立てた。


サーラが説明する。


「水運び当番。」


今日は誰。


明日は誰。


順番を決める札だった。


誠司は感心した。


自分が教えたのは道具だけ。


運営の仕組みは、集落の人々が考えた。


それでいい。


その方が長く続く。


帳面が光る。


西方第一集落


共同運搬方式 導入


水運搬効率 向上


生活改善確認


第一配送網復元率 40%


「四十。」


誠司は静かに数字を見つめた。


三割を越えた時より、ずっと重く感じる。


道を繋ぐだけでは届かなかった数字だった。


帰る前。


長が誠司へ、一枚の古い板を見せた。


木製の看板。


砂で削られて文字は薄い。


それでも、かろうじて読めた。


給水所


その下には、小さく掠れた文字。


満タン便


誠司は息を呑んだ。


第一配送者が残した看板だった。


長が静かに言う。


サーラが通訳する。


「昔、ここに立っていた。」


「壊れたから、大切にしまっていた。」


誠司は両手で受け取った。


角は欠け、木は乾いている。


それでも大事に保管されていたことが分かる。


帳面が優しく光る。


私は水を配った。


でも本当に残したかったのは、


水ではなかった。


明日もここへ来るという、


安心だった。


その安心を、


どうか次の配送者へ託したい。


誠司は静かに看板を胸へ抱いた。


「受け取りました。」


誰に言うでもなく、小さく呟く。


夕焼けの中、満タン便はゆっくりと満宿へ向けて走り出した。


荷台には空になった水桶。


そして、新しく託された古い看板。


荷物は減ったはずなのに、不思議と来る時より重く感じた。


それは物の重さではない。


二十八年間、大切に守られてきた約束の重さだった。

第63話では、西方第一集落へ**「水を運ぶ仕組み」**を届けました。


滑車や荷車は便利な道具ですが、本当に変わったのは、人々が協力して役割を分担する仕組みです。


そして物語は大きく前進します。


第一配送者が実際に残した**「満タン便 給水所」**の看板が発見され、第一配送網の歴史が、伝説ではなく確かな記録として繋がり始めました。


次回、第64話では、この看板を手掛かりに、第一配送者が西方で築こうとしていた失われた給水拠点の跡地を探す調査が始まります。

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