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毎朝満タンになる補充トラックで異世界配送を始めました  作者: たむ


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113/156

第113話 名前を残す引継ぎ

満タン便という名前を付けたのは、佐伯澪でした。


けれど、いつか赤い車は日本側特装工場へ返されます。


そのとき名前を車と一緒に返すのか。


水車町の配送網へ残すのか。


それとも、車と配送網の両方で使い続けるのか。


未来の記録には、すでに選択済みとあります。


しかし現在の澪は、まだ選んでいません。


未来で決めているからではなく。


今の自分が納得できる形で、名前の行き先を決める必要があります。

「今は決めません」


朝。


返送受入所。


佐伯澪は、名称継承票を最後まで読んでから言った。


満タン便・車両M-001

最終返却時名称処理


一、車両へ保持

二、配送網へ継承

三、両方へ使用継続

四、名称返却


そして。


決定権者――名称登録者

佐伯澪


未来側の記録。


名称継承処理――完了

選択結果――非表示


それでも。


誠司は急かさなかった。


「分かりました」


澪が少し驚く。


「理由を聞かないんですか」


「聞く前に、選択肢の意味を確認したほうがいいと思っています」


一番目。


車両へ保持。


満タン便が日本側工場へ返されたあとも、正式名称は車両M-001に属する。


水車町の配送網は。


別の正式名称を必要とする可能性がある。


二番目。


配送網へ継承。


工場が満タン便を正式受領した時点で。


車両M-001の運行名称としての「満タン便」は終了。


名称は水車町を中心とする配送網へ残る。


三番目。


両方へ使用継続。


車も。


配送網も。


正式に満タン便を名乗り続ける。


四番目。


名称返却。


「四つ目が分かりません」


澪が言った。


「俺もです」


誠司は答えた。


誰へ返すのか。


名前を返すとは、何を意味するのか。


その説明がない。


「分からない選択肢が一つでもある状態で、決めないほうがいい」


澪は頷いた。


未来で選択済み。


車体にはすでに文字。


配送網にも同じ名。


それでも。


今は保留。


名称継承――本人判断待ち


と記録した。


*


「名前の引継ぎを、別のもので試せませんか」


ロウグが尋ねた。


ちょうど。


南方医療便から一件。


相談が来ていた。


花渓の里で使われている小型薬草荷車。


通称。


――花籠。


長く使われ。


荷台の底板。


車輪。


軸。


修理を重ねてきた。


今度。


新しい荷車へ交代する予定だった。


だが。


問題がある。


南方では。


「花籠が来る」


と言えば。


薬草と医療用品を運ぶ定期便のことを指す。


一方。


水車町の修理帳では。


「花籠」は一台の荷車の名前。


「このまま新しい荷車を花籠と呼ぶと」


ロウグが帳面を並べる。


「古い荷車の修理記録と混ざります」


旧花籠。


車軸交換。


底板交換。


右車輪ひび。


新花籠。


使用開始前。


二台が。


同じ名前。


「じゃあ、新しい荷車に別の名を付けるか」


ガランが言った。


南方から来た運び手が困った顔をする。


「でも村では、便のほうを花籠と呼んでいます」


車両が変わるたび。


便の名前まで変われば。


受取人が混乱する。


薬草を待つ人。


医療所。


休所。


「なら、車と便を分けましょう」


誠司は名称札を二枚作った。


車両名称――旧花籠一号


とするわけではない。


過去を勝手に改名しない。


正式な識別は。


南方薬草荷車・車両番号S-04

旧通称――花籠


一方。


便の名称。


花籠便

区分――南方薬草共同便


「通称だった花籠を」


エレナが言う。


「便の正式名称へ移すんですね」


「現地が希望するなら」


南方側へ確認を送る。


返答。


花籠は荷車そのものより、薬草便の呼び名として残したい。


正式登録。


花籠便――南方薬草共同便


旧車両。


車両番号S-04

通称使用終了――花籠

車両自体の記録――継続


新しい荷車。


車両番号S-09

担当便――花籠便


名前だけが。


古い荷車から。


仕事へ移った。


「古い荷車は、名前を失ったことになる?」


若い仕分け係が尋ねる。


「履歴からは消しません」


誠司は答えた。


古い帳面には。


花籠。


と書かれている。


その記録は残す。


後ろに。


現在の花籠便とは別。

当時の車両S-04を指す。


と索引だけ付ける。


「名前を移しても」


ロウグが言う。


「昔その名前だったことは消さない」


「はい」


名前の引継ぎ。


履歴の書き換えではない。


*


翌朝。


新しい車両S-09。


花籠便として。


最初の運行。


積み荷。


乾燥薬草。


鎮痛用の樹皮。


空の薬瓶。


花渓から水車町。


復路。


水車町から。


清潔な布。


薬瓶。


種。


旧車両S-04は。


修理場横の保管線。


廃棄しない。


車輪を外し。


荷重が掛からないよう台へ載せる。


今後。


村内の短距離作業車へ転用できるか検討。


「名前がなくなったから、捨てるわけじゃないんですね」


南方の運び手が言った。


「はい」


役目を終えたことと。


物として使えなくなったことは別。


午後。


花籠便。


帰着。


新車両S-09。


異常なし。


荷物。


受領。


花籠便――継承後初運行完了


そして。


修理帳。


車両S-09――初回運行一件


二つの記録。


混ざらない。


名称継承方式。


適合。


「満タン便でも」


澪が報告書を読みながら言った。


「同じことができますね」


「できます」


「車の履歴は、車に残す」


「はい」


「名前は、配送網へ残せる」


「はい」


それでも。


澪はまだ印を押さなかった。


「四つ目を確認してからにします」


「そのほうがいいです」


*


日本側特装工場へ。


短い照会。


満タン便名称処理について。


「名称返却」とは何を意味するか。

返却先を明記願います。


始発照会口。


送信。


待つ。


*


その間に。


北方返送庫から。


後任試行の報告が届いた。


雪板印。


現在の七代目預かり手。


彼女は。


第三配送者候補のまま。


登録保留。


三人の後任候補へ。


返送庫の仕事を一日ずつ経験してもらっていた。


一人目。


在庫管理に強い者。


結果。


在庫数確認――正確

封印確認――正確

温度札管理――正確


返送人員対応――経験不足


二人目。


北方経路に詳しい者。


道路状態判断――良好

雪崩経路判断――良好

中継所連絡――良好


長期保管帳――記入遅れあり


三人目。


返送を二冬待った経験を持つ者。


宛先変更判断――慎重

開封条件遵守――良好

長期待機――問題なし


在庫計数――再確認が多い

北方経路――経験不足


「誰も全部はできない」


ガランが言った。


「普通です」


誠司は答えた。


返送庫の預かり手。


一人。


長い年月。


在庫。


道。


雪。


封印。


返送。


受領。


待機。


全部。


七代目まで。


一人ずつ抱えてきた。


「三人から一人を選ぶ必要があるのでしょうか」


サーラが尋ねる。


誠司は。


すぐには答えなかった。


返送庫側の報告にも。


同じ疑問が書かれている。


私はこれまで、後任とは一人だと思っていました。


ですが水車町の二枚札制度では、個人と役目を分けています。


返送庫預かり手という役目も、さらに分けられますか。


ロウグが。


白紙を出す。


「分けてみます?」


役目。


返送庫預かり手。


中身。


在庫。


経路。


受入。


保管。


封印。


返送判断。


全部を洗い出す。


重ねる。


整理する。


最終的に。


三つへ分けた。


返送庫・保管担当

在庫、封印、温度札、保管状態


返送庫・経路担当

北方道路、中継連絡、危険判断、輸送準備


返送庫・受領担当

宛先確認、返送条件、長期待機、開封条件


「三人で返送庫を守る?」


エレナが言う。


「一人一役なら」


ロウグが答える。


「ただし、毎日三人全員がいる必要はない」


問題。


責任が曖昧になる。


荷物が一個。


誰の担当か。


分からない。


そこで。


当番責任者を一人決める。


本日返送庫当番――一名


保管担当

経路担当

受領担当


当番交代時――三項目すべて引継ぎ


役目を分ける。


だが。


その日の最終判断者は明確にする。


翌日。


別の者へ交代できる。


「一人で全部できる人を探すより」


サーラが言う。


「三人で互いに足りないところを持つ」


誠司は頷いた。


ただし。


それを採用するか決めるのは。


返送庫側。


水車町が押しつけない。


設計案だけ送る。


*


二日後。


返送庫から返答。


雪板印。


三担当制を試します。


一人目。


保管。


二人目。


経路。


三人目。


受領。


雪板の預かり手。


最初の一週間だけ。


全体確認。


だが。


最終判断を奪わない。


「自分が全部チェックすると」


誠司が言う。


「引継ぎ試験になりません」


雪板本人も。


同じことを書いていた。


私が正解を言えば、三人は私の答えを待つようになります。


最初の三日だけ見ます。

その後は、異常時に呼ばれた場合のみ入ります。


「いいですね」


ロウグが言った。


仕事を渡したい人ほど。


口を出したくなる。


自分なら。


もっと早い。


自分なら。


間違えない。


そう思って。


結局。


役目が渡らない。


「引継ぎには」


誠司が言う。


「教える時間と、任せる時間の両方が必要です」


*


三担当制。


第一日。


保管担当。


入庫。


二件。


出庫。


一件。


在庫差。


なし。


経路担当。


雪。


軽。


第三中継柱。


傾き。


修理依頼。


受領担当。


返送品。


一件。


宛先。


水車町。


開封条件。


なし。


処理。


問題なし。


当番責任者。


保管担当。


終了時。


三人。


読み合わせ。


翌日当番へ。


引継ぎ。


雪板の預かり手。


口を出さず。


後ろで記録を見る。


一件だけ。


問題。


返送箱の外装に。


古い水濡れ跡。


受領担当は。


異常票。


保管担当は。


乾燥済み。


経路担当は。


輸送中の雪ではないと判断。


三人で。


水濡れ時期。


不明。


と記録。


「昔濡れたのか」


「今回濡れたのか」


分からない。


だから。


推測で決めない。


水濡れ跡――あり

現在湿潤――なし

発生時期――確認不能


正しい。


雪板の預かり手は。


訂正しなかった。


第一日。


合格。


第二日。


当番交代。


問題なし。


第三日。


雪板本人は。


返送庫を半日離れた。


近くの中継所まで。


わざと。


「試すために離れる?」


ロウグが言う。


「本人がいないときに動くか確認するのでしょう」


問題なく。


運用継続。


配送帳面。


返送庫預かり手役目

単独担当――解除可能


三担当制――試験適合


さらに。


七代目預かり手・雪板

役目引継率――八十三パーセント


第三配送者登録条件。


一つ。


進んだ。


*


夕方。


日本側特装工場から。


名称返却についての返事が来た。


「名称返却」とは、名称を消去する手続きではありません。


続く。


名称発生元へ、命名権を戻す手続きです。


「発生元」


澪が。


返送受入所で返答票を読む。


満タン便


名称発生元――佐伯澪


名称返却を選択した場合、車両および配送網の正式名称としての使用を終了。


名称の再使用判断を、佐伯澪本人へ戻します。


「名前を、私へ返す」


澪が言う。


「はい」


名前が。


車にも。


配送網にも。


残らない。


澪が。


また別の何かへ。


満タン便という名前を使うまで。


保留。


「返したあと、車体の文字は?」


歴史表示として保存可能。


ただし現行車両名称を示す表示ではない旨を記録すること。


「配送網は?」


新規正式名称が必要。


澪は。


長く返答票を見た。


四つ。


ようやく全部の意味が分かった。


車両へ保持。


配送網へ継承。


両方。


自分へ返却。


「決めます」


誠司は。


名称継承票を出した。


「今日でいいですか」


「はい」


「未来の記録があるからではなく?」


澪は。


少し笑う。


「しつこいですね」


「必要なので」


「今の私が決めます」


澪は。


二番目を指した。


配送網へ継承


「満タン便という名前は」


澪が言う。


「車を返しても、水車町に残してください」


「車両M-001は?」


「工場で正式受領されたら、運行名称としての満タン便を終わらせます」


「車体文字は?」


「消さなくていいです」


履歴。


その車が。


満タン便と呼ばれていた証拠。


でも。


現役名ではなくなる。


「なぜ配送網へ?」


ロウグが尋ねる。


理由欄。


澪は。


自分で答えた。


「もう、車一台の仕事ではないからです」


西。


東。


南。


北。


返送。


医療。


修理。


水。


氷。


手紙。


運転者帰着。


安全受付。


全部。


一台の車では。


できない。


「満タン便は」


澪が言う。


「帰ってこられるだけ備えてある配送です」


「なら」


水車町の物流網を見る。


「車が返ったあとも、その名前でいいです」


名称継承票。


選択――配送網へ継承


発効時点――車両M-001日本側工場正式受領時


車両側――旧名称として履歴保持

配送網側――満タン便配送網として正式名称継続


本人確認。


佐伯澪。


サーラ。


名称管理。


誠司。


車両受取側。


ロウグ。


記録。


ごん。


名称継承予約――登録


すぐには。


何も変わらない。


車両は。


まだ水車町にある。


今は。


満タン便・車両M-001。


配送網も。


満タン便配送網。


車が工場へ正式に返却された瞬間。


名前は。


網へ残る。


未来側の記録。


更新。


名称継承処理――完了


選択結果――配送網へ継承


今まで。


非表示だった答えが。


現在の澪の選択によって。


初めて見えた。


未来が。


今の意思へ追いついた。


*


その瞬間。


配送帳面に。


新しい欄が開いた。


満タン便配送網

名称継承先――確認


その下。


正式記録媒体――水車町配送帳面原本


誠司が。


顔を上げる。


「正式記録媒体?」


配送網そのものは。


道。


人。


中継所。


荷車。


水場。


返送庫。


一冊の帳面ではない。


だが。


正式な契約。


受領。


事故。


帰着。


役目。


それを束ねている原本が。


水車町配送帳面。


満タン便配送網


現行正式帳面――水車町配送帳面原本


運用写し――作成中


ロウグが。


前日から作り始めた写本を見る。


青点。


照合済み。


まだ。


全体の一部。


「第二最終帰還便」


エレナが言った。


積荷――水車町配送帳面原本


日本側工場へ。


原本を送る。


その原本は。


満タン便配送網の正式記録媒体。


「原本を送ったら」


若い仕分け係が言う。


「配送網はどうなるんですか」


補給網が。


答える。


正式記録媒体不在時


満タン便配送網――運行継続可能


ただし新規正式契約、名称変更、帰着基準変更――停止。


「動ける」


ロウグが言う。


「でも、大きな変更ができない」


運用写しだけでも。


日々の荷物。


受領。


返送。


道路記録。


動かせる。


だが。


正式原本がなければ。


新しい地域を追加。


大きな契約変更。


帰還基準の変更。


そうした。


配送網そのものの骨格に関わる手続きが止まる。


「では」


サーラが言う。


「原本を送る前に、新しい正式帳面を作れば?」


表示。


後継正式帳面――未登録


やはり。


必要だった。


帳面も。


役目と同じ。


一冊を送り出すなら。


次の一冊へ。


正式な役目を引き継ぐ必要がある。


「今作っている写しを、そのまま後継帳面にできますか」


ロウグが尋ねる。


条件付きで可能。


条件。


一。


原本との照合完了。


二。


現行未処理便の全件引継ぎ。


三。


事故・安全記録の引継ぎ。


四。


帰着記録の引継ぎ。


五。


正式帳面の受取人登録。


「受取人?」


誠司が読む。


帳面を受け取る人。


一冊の本だから。


誰か一人に所有させる話ではない。


正式な引継ぎ確認をする人。


後継正式帳面・初回受取人――未登録


「水車町配送所では駄目?」


受取先――水車町配送所

受取確認者――個人一名必要


また。


受取先。


組織。


受取確認者。


個人。


別。


「誠司さん?」


ロウグが言う。


誠司は。


すぐには頷かなかった。


現在。


満タン便の運行責任者。


帰還基準者候補。


車両受取確認者。


さらに。


後継帳面の初回受取人。


一人へ。


役目が集まりすぎる。


「分けます」


誠司が言った。


「誰に?」


サーラ。


ロウグ。


エレナ。


リア。


ガラン。


それぞれ。


違う役目。


後継帳面。


配送所全体の記録。


誰が受け取るべきか。


まだ決めない。


「まず、受取人の条件を作りましょう」


*


条件。


帳面を読める。


だけではない。


事故記録を消さない。


地域ごとの記録を偏らせない。


不明を不明と残せる。


自分の担当だけを優先しない。


訂正履歴を残す。


原本と写しを混ぜない。


そして。


「帳面を自分のものにしない人」


エレナが言った。


ロウグが笑う。


「それは大事ですね」


正式帳面は。


水車町配送所のもの。


受取確認者は。


管理の始点を確認する人。


持ち主ではない。


「一人へ任せきりにもしたくありません」


サーラが言う。


そこで。


後継帳面にも。


二段階を作る。


初回受取人。


一名。


日常管理。


二名以上の記録当番制。


重要変更。


複数確認。


第一配送者のように。


一人の運転者へ。


全部を背負わせない。


「受取人は、日常管理者でなくてもいい」


誠司が言う。


「最初に、帳面が正しく引き継がれたと確認する人です」


誰にするか。


後日。


運用写しがもっと進んでから決める。


*


夜。


返送庫から。


三担当制第四日の報告。


雪板預かり手――返送庫不在時間、一日


運用――継続

重大異常――なし


役目引継率――九十一パーセント


雪板本人の追記。


今日は返送庫へ戻る必要がありませんでした。


七代目になってから、初めてです。


たった一行。


けれど。


重かった。


百四十二年分。


一人の役目として。


記録上つながってきた返送庫。


今。


ようやく。


一人がいなくても。


回り始めている。


さらに。


後任三名は、個別役目の受領に同意。


三担当制の正式運用について、明日最終確認予定。


第三配送者候補。


雪板。


役目を渡し終えれば。


ようやく。


自分の次の便を。


自分で選べる。


*


深夜。


配送帳面が。


静かに新しいページを開いた。


第一配送記録・名称第二便

私は、満タン便という名前を車へ付けたのだと思っていた。


だが。

車を返す話をしたとき。

澪は言った。


「名前は置いていってください」


私は尋ねた。


「車の名前ですよ」


彼女は言った。


「だからです」


「車がなくなっても、続きを運ぶ人がいるなら」


「名前は、その人たちの側に置いてください」


記録は続く。


私は、その意味を理解できなかった。


私にとって満タン便は、赤い車だった。


ハンドル。

荷台。

エンジン。

鍵。


それがなくなれば。

配送も終わると思っていた。


次。


だが。

車を返す前の日。


私が一便も走らなかったのに。

西から水が届いた。

東から手紙が届いた。

南から薬が届いた。

北から氷が届いた。


その日。

初めて分かった。


満タン便は。

もう車だけではなかった。


誠司は。


ゆっくりページをめくる。


最後。


車を返したあと。

名前だけが水車町へ残った。


その名前を記録した帳面を。

私は二回目の返却便へ載せようとした。


そこで気づいた。


帳面まで返せば。

水車町に「正式な現在」がなくなる。


現在の配送帳面が。


光る。


第二最終帰還便

積荷――水車町配送帳面原本


発送前必要処理

後継正式帳面への引継ぎ


その下。


後継正式帳面

状態――作成中


現行照合率――十二パーセント


まだ。


十二。


長い。


一日八ページ。


少しずつ。


そして。


新しい欄。


後継正式帳面・初回受取人候補


候補一――田村誠司

候補二――ロウグ

候補三――佐伯澪

候補四――雪板


「雪板?」


ロウグが声を上げる。


返送庫にいる。


七代目預かり手。


第三配送者候補。


なぜ。


水車町配送帳面の受取人候補に入っている。


表示が続く。


候補条件


帳面原本の第二最終帰還便に同行する可能性がある者。


誠司の目が止まる。


第二最終帰還便。


水車町配送帳面原本を。


日本側工場へ送る便。


そこに。


人が同行する可能性。


しかも。


候補四。


雪板。


第一最終帰還便で。


満タン便を工場へ運ぶと記録されている人物。


水車町へ帰着したあと。


もう一度。


帳面原本を持って。


日本側へ行く可能性がある。


そして。


表示の最後。


第三配送者・完了回数

二回中一回


第二便運行者――未確定


一回目。


満タン便。


二回目。


水車町配送帳面原本。


第三配送者の二つの仕事は。


どうやら。


同じ人が二度走る可能性を持っていた。


だが。


まだ。


何も決まっていない。


雪板本人は。


第一便すら。


保留のままだった。

「満タン便」という名前を最終返却時にどう扱うか、その四つの選択肢が正式に確認されました。


佐伯澪は、自分の意思で「配送網へ継承」を選択。


将来、車両M-001が日本側工場へ正式返却された時点で、車両としての現役名称は終了しますが、「満タン便配送網」という名は水車町に残ります。


また北方返送庫では、一人の預かり手がすべてを背負う方式から、保管・経路・受領の三担当制へ移行する試験が進み、雪板の役目引継率は九十一パーセントまで上がりました。


一方、水車町配送帳面原本を日本側へ返すためには、その前に後継正式帳面を完成させる必要があります。


現在の照合率は十二パーセント。


そして新たに判明したのは。


満タン便を工場へ返す第一最終帰還便だけでなく、配送帳面原本を返す第二最終帰還便にも、人員が同行する可能性があること。


その候補の中には――第三配送者候補、雪板の名がありました。

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