第111話 受領が遅れた納車
日本側で完成する満タン便は、水車町配送所が作られるより前へ納車されます。
そして、その初回納車便の受取確認者は――田村誠司。
けれど、誠司が過去へ行かなければならないとは限りません。
荷物が到着した時刻と。
受取人が正式に受領した時刻。
その二つは、同じでなくてもいいからです。
誠司たちはまず、「届いたまま長く受領されなかった荷物」を正しく受け取る方法を作ります。
「過去へ受け取りに行く必要があるとは、まだ決まっていません」
朝。
水車町配送所。
机の上には、昨夜現れた記録。
満タン便・初回納車便
運行者――未登録
受取人――水車町配送所
到着時刻――水車町配送所設立以前
受取確認者――田村誠司
ロウグが腕を組んでいる。
「でも、配送所がない時代へ届いている」
「はい」
「受取確認者は誠司さん」
「はい」
「普通に読むと」
「普通に読むと、おかしいです」
誠司は白紙を二枚置いた。
一枚目。
――到着。
二枚目。
――受領。
「分けます」
エレナが紙を見る。
「荷物が着いたことと、受け取ったこと?」
「はい」
荷物は。
配送先へ着く。
そこで。
すぐ受取人へ渡せるとは限らない。
夜。
受取人不在。
倉庫閉鎖。
災害。
宛先部署がまだ開いていない。
荷物だけが先に届くことはある。
「満タン便の場合」
サーラが言う。
「配送先そのものが、まだなかった」
「それでも」
誠司は答えた。
「一時的に預かる仕組みがあれば、荷物は置けます」
問題は。
その一時預かりが。
本当に記録されているか。
誰が預かったのか。
どの状態で預かったのか。
正式な受領が。
後から可能なのか。
「日本側工場へ確認します」
*
だが。
照会を送る前に。
水車町側で、同じ仕組みを小さく試すことにした。
西方水場。
第二保管小屋。
建物は、まだ完成していない。
屋根。
壁。
床。
そこまではできている。
棚と鍵。
在庫帳。
管理担当は。
翌日に正式配置される予定。
そこへ。
本日。
水道用の交換弁が届く。
本来なら。
完成まで水車町へ置いておき。
翌日に送る。
だが。
西方共同便は今日出る。
次の便は三日後。
「先に建物へ届けていいか」
サーラが現地へ照会する。
返答。
建物内、雨漏りなし。
扉仮錠あり。
現地水場担当二名、仮保管可能。
正式管理担当――明日配置。
「なら」
誠司は新しい票を作った。
開設前預託票
荷物――交換弁二個
本来受取先――西方第二保管小屋
到着予定――本日
正式開設――翌日
仮預かり担当――水場担当二名
使用――禁止
外装開封――禁止
正式受領――管理担当配置後
「壊れていた場合は?」
バシールが尋ねる。
「到着時の外装状態だけ仮預かり側が確認します」
箱を開け。
中身まで。
仮の担当者が検査しない。
濡れ。
破れ。
大きなへこみ。
封印。
それだけ。
正式管理担当が来たら。
箱を開く。
数量。
型。
状態。
受領。
「先に置いてあるからといって」
ロウグが言う。
「もう受け取ったことにはしない」
「はい」
使用も。
禁止。
緊急で使う必要が出た場合は。
例外使用票を作る。
その場合。
使用したこと自体を。
正式受領扱いにしない。
「使ったのに、受け取ってない?」
若い仕分け係が不思議そうに言う。
「例えば、人命に必要な薬が届いて」
リアが説明する。
「正式担当者が不在でも、患者へ使うことはあります」
「その場合」
「緊急使用したという事実を記録します。でも、保管数量や納入条件まで確認したことにはしません」
使った。
受け取った。
検査した。
全部。
別の事実。
一つにまとめない。
*
西方共同便。
交換弁。
二個。
到着。
仮担当二名。
外装。
異常なし。
封印。
異常なし。
建物内。
仮保管棚。
床から一段上。
砂が入らない位置。
開設前到着――確認
正式受領――未完了
翌日。
管理担当が配置される。
鍵。
正式引継ぎ。
箱を開く。
交換弁。
二個。
型式。
一致。
傷。
なし。
説明札。
あり。
正式受領――完了
到着。
昨日。
受領。
今日。
別の日。
それでも。
一件の配送。
配送帳面に。
新しい表示。
到着時刻と受領時刻の分離――適合
「これなら」
エレナが言う。
「満タン便が昔に到着していても、現在の誠司さんが受け取れる可能性があります」
「記録がそうなっていれば」
誠司は答えた。
可能性。
まだ確定ではない。
日本側へ。
照会する。
*
始発照会口。
水車町車両照会第三号
満タン便初回納車について。
到着時刻と正式受領時刻を分離可能か。
水車町配送所設立以前に車両が到着した場合、仮預かり記録は存在するか。
受取確認者・田村誠司は、現在時点で正式受領可能か。
最後に。
過去時点に本人が存在したこととして処理しないこと。
誠司が付け加えた。
ここは重要。
現在の誠司が受領印を押す。
だから。
昔そこに誠司がいた。
そう記録を書き換えない。
到着時刻。
受領時刻。
別々に残す。
送信。
*
返答を待つ間。
満タン便の「受領検査」について考える。
ロウグが言う。
「もし現在受け取れるとしても」
「新品としては受け取れません」
誠司が答える。
満タン便。
赤い車体。
長い運行。
何度も修理。
車輪。
制動装置。
冷却。
荷台。
泥よけ。
橋。
砂漠。
雪。
雨。
新品の納車状態とは。
まるで違う。
「納車時の状態なんて、もう確認できない」
ガランが言う。
「だから今の状態を確認します」
――現況受領検査。
誠司は表題を書く。
「過去に正常だったと証明するのではなく」
「今、何を受け取るかを確認する」
「はい」
項目。
車台番号
原動機番号
特装番号
主鍵
予備鍵
制動
操舵
車輪
灯火
車体
荷台固定具
始発照会口
助手席箱
帰還線接続
修理履歴
未解決異常
現在使用制限
「補給機能は?」
ロウグが尋ねる。
補給機能――循環補給へ移行済み
旧朝間補給契約――終了
これも。
故障ではない。
契約条件が変わった。
「満タンにならないから不具合」
とはしない。
今の運用。
今の仕様。
それを受け取る。
「受領者は誠司さん?」
サーラが尋ねる。
「確認者は俺です」
誠司は答えた。
「でも、所有者にはしません」
「違うのですか」
「車は、水車町配送網の運行資産として受け取ります」
誠司個人の車。
ではない。
満タン便。
車両返却所。
運行責任者が替わっても。
使える。
帰還基準者が田村誠司でも。
所有者まで田村誠司にしない。
個人と役目。
また分ける。
正式受取先――水車町配送所
受取確認者――田村誠司
管理――水車町車両返却所
*
日本側から。
返答。
からん。
二人確認。
サーラ。
ロウグ。
誠司。
ガラン。
返答票の最初。
満タン便初回納車
到着時刻と正式受領時刻――分離可能
ロウグが。
小さく息を吐く。
次。
初回到着時、水車町配送所は未設立。
そのため、車両は「長期仮預託」として処理されています。
「長期……」
ガランが苦笑する。
確かに。
長い。
とても長い。
続いて。
仮預託地点――水車町配送所予定地点
当時名称――水車小屋北側荷置場
今。
水車町配送所が建っている場所。
もともとは。
水車小屋の北側。
荷物を一時的に置く。
土の広場。
正式な配送所ではない。
仮預かり担当――三浦直人
直人。
第一配送者。
彼は。
満タン便の正式受取人ではなかった。
初回納車された車を。
仮に預かった人。
「だから使えた」
エレナが言う。
「受領していなくても、管理者として」
返答。
仮運用――許可
条件
一、車両状態を記録すること
二、修理を記録すること
三、正式受取人を変更しないこと
四、正式受領時に運行記録を引き渡すこと
「直人さんは」
ロウグが言う。
「ずっと、借りて使っていたような状態だった」
正式には。
受け取っていない。
だから。
所有者でもない。
それでも。
世界中を走った。
「正式受領できる時刻は?」
水車町配送所設立後。
受取確認者本人が、車両現況を確認できること。
さらに。
現在時点での正式受領――可能。
誠司は。
返答票を見た。
現在。
受け取れる。
過去へ行かなくていい。
昔そこにいたことへ。
記録を書き換えなくていい。
満タン便は。
ずっと。
受領を待っていた。
*
「では、受け取りますか」
ロウグが尋ねた。
「検査してからです」
誠司は答えた。
存在している。
長く使っている。
助けられた。
だから。
そのまま印を押さない。
受領条件を。
今確認する。
ガランが笑う。
「何百年待たせた車を、さらに点検で待たせるのか」
「点検時間くらい待ってもらいます」
*
現況受領検査。
満タン便。
車両返却所。
点検線。
車台番号。
K2D-0713
一致。
原動機。
E-0713-04
一致。
特装番号。
M-001
一致。
鍵。
主鍵。
一。
予備鍵。
一。
一致。
予備鍵は。
三浦直人から正式返却済み。
制動。
構内低速。
前進。
停止。
後退。
停止。
片効きなし。
駐車制動。
坂板。
保持。
操舵。
左右。
異音なし。
車輪。
傷。
使用範囲内。
一箇所。
北方運行時の補修。
記録番号あり。
灯火。
前。
後。
方向。
問題なし。
荷台。
固定具。
人員回収用可動枠。
追加設備。
「これは製造仕様にはないでしょう」
ガランが言う。
「現地追加です」
記録。
誰が。
いつ。
何のために。
北方一号回収。
傾き防止。
取り外し可能。
現在も使用可。
始発照会口。
修理済み。
紙送り車輪。
水車町安全第六号。
正常。
助手席箱。
開閉。
北方一号本人鍵認証が必要。
通常時。
閉。
帰還線。
百パーセント。
循環補給。
稼働。
燃料。
非常・救援用として管理。
「泥よけ斜板」
ガランが指差す。
枝の侵入を防ぐため。
水車町安全第一号。
後付け。
正常。
「これも工場へ返す仕様変更になる」
「はい」
誠司は。
現況受領票へ。
現地改善――あり
と書く。
最終的に。
この車が日本側工場へ返る。
工場は。
現物を見る。
運行記録を見る。
水車町の帳面を見る。
どの改良を。
完成する満タン便へ最初から入れるべきか。
判断する。
「俺たちの修理が」
ガランが言う。
「最初から付いてる部品になるかもしれんのか」
「採用されれば」
ガランは。
泥よけ斜板を見た。
「妙な感じだな」
未来で作った部品が。
過去の車に最初から付く。
それでも。
改良した理由は。
消さない。
「完成車に最初から付いていても」
誠司は言った。
「なぜ付いているか分かる記録は必要です」
改善理由。
枝。
異音。
停車。
点検。
斜板。
それが。
設計へ戻る。
*
検査。
二時間。
重大異常。
なし。
未解決。
一件。
「一件?」
ロウグが見る。
未解決事項――帰還基準者設定
田村誠司。
本人意思。
まだ確認していない。
車両そのものを受け取ることと。
帰還基準者として登録され続けること。
これも。
別。
「受領してから確認していい?」
エレナが尋ねる。
誠司は。
日本側の納車条件を見る。
車両正式受領――可能
帰還基準者本人意思――製造完成前までに必要
「別手続きです」
「なら」
「今日は車両だけ受け取ります」
満タン便を受け取る。
でも。
未来の製造仕様へ。
自分の名前を帰還基準者として使うことには。
まだ同意しない。
一枚の受領票へ。
全部を抱き合わせない。
*
受領前。
三浦直人へ。
仮預かり終了の確認を取った。
直人は。
車庫へ来た。
杖。
短い歩行。
満タン便を見る。
「俺の仮預かり、まだ続いていたんですね」
「記録上は」
誠司が答える。
直人が苦笑する。
「長すぎる」
仮預かり引継票。
仮預かり担当――三浦直人
車両――満タン便
引渡先――水車町配送所
受取確認者――田村誠司
直人が。
署名する。
三浦直人。
役目ではなく。
名前で。
仮預かり終了――確認
それから。
誠司へ。
運行記録の引継ぎ。
車内原本。
封印正常。
水車町帳面。
受領側記録。
修理履歴。
鍵。
二本。
「全部ですか」
直人が尋ねる。
ロウグが照合する。
「全部です」
直人は。
満タン便の赤い車体へ。
手を置かなかった。
ただ。
少し離れて見る。
「じゃあ」
「はい」
「預かっていたものを、返します」
誠司は。
その言葉を。
正式に受け取った。
*
水車町配送所。
車両正式受領。
サーラ。
受入責任者。
ロウグ。
記録。
ガラン。
車両確認。
直人。
旧仮預かり担当。
誠司。
受取確認者。
満タン便初回納車便
到着――水車町配送所設立以前
仮預託――水車小屋北側荷置場
仮預かり――三浦直人
正式受領――本日
受取先――水車町配送所
受取確認者――田村誠司
誠司は。
受領欄を見る。
「到着日を今日にはしません」
「はい」
ロウグが確認する。
古い到着時刻。
そのまま。
正式受領だけ。
今日。
「車両状態」
「現況受領」
「新品状態?」
「確認不能」
「長期仮運用?」
「あり」
「修理履歴?」
「引継ぎ済み」
「未解決事項?」
「帰還基準者設定、一件」
すべて。
書く。
誠司が。
受領印を持つ。
水車町配送所。
二本の手。
その下。
田村誠司。
署名。
ごん。
配送帳面が。
強く光った。
満タン便・初回納車便
正式受領――完了
赤い車の計器盤。
一瞬だけ。
白く灯る。
長期仮預託――終了
さらに。
仮預かり担当
三浦直人――解除
直人が。
目を閉じる。
長く。
抱えていたものが。
また一つ。
役目から離れた。
次。
管理先――水車町車両返却所
現運行責任者――田村誠司
誠司。
運転する。
だが。
所有するのではない。
管理先。
水車町。
*
配送帳面。
最後の受領条件。
更新。
配送帳面閉鎖条件
最終受領一件――完了
ロウグが。
思わず声を上げる。
「終わった」
だが。
その下。
帳面閉鎖――不可
「やっぱり」
サーラが言う。
まだ。
第一最終帰還便。
満タン便を日本側工場へ返す。
未実施。
その帰着記録まで。
帳面に書く必要がある。
未完了条件
第一最終帰還便――現在側未実施
配送帳面原本――記載継続
「受領条件だけ、先に満たした」
誠司が言う。
「閉じるのは最後です」
未来では。
満タン便返却。
完了記録あり。
現在では。
まだ。
雪板の預かり手は保留中。
両方を。
混ぜない。
*
正式受領後。
満タン便に。
一つの変化があった。
助手席前。
北方一号――佐伯澪が使った助手席箱。
その下。
今まで。
ただの内装に見えていた細い蓋。
輪郭が現れる。
ガランが近づく。
「また箱か?」
誠司は触らない。
表示。
初回納車書類箱
正式受領後、開封可
「工場の書類でしょうか」
ロウグが言う。
開封権限。
受取確認者
車両管理者
二名確認
誠司。
受取確認者。
ガラン。
車両管理者。
二人。
開ける前。
記録。
時刻。
状態。
封印。
異常なし。
誠司とガラン。
同時確認。
かちり。
細い蓋が開く。
中には。
薄い書類束。
製造仕様ではない。
納車書類。
一枚目。
初回納車仮票
二枚目。
長期仮運用許可
三枚目。
正式受領時差異記録
空欄。
今日。
誠司たちが埋めるためのもの。
「ずっと入ってた?」
ガランが呟く。
管理人が答える。
「正式受領まで表示されない箱だったのでしょう」
最後。
一番下。
小さな銘板。
車両名称登録票
ロウグが笑う。
「満タン便?」
だが。
票を見ると。
全員の表情が変わった。
車両名称――未登録
「未登録?」
赤い車体には。
ずっと。
大きく。
『満タン便』
と書かれている。
第一配送者の記録にも。
返送庫にも。
北方中枢にも。
日本側工場の予約にも。
満タン便。
その名前で通っている。
なのに。
初回納車時の。
正式な車両名称欄は。
空白。
さらに。
名称登録条件
初回正式受領後
受取先が登録すること。
つまり。
車両名は。
工場で付けられるのではない。
受け取った水車町が。
あとから付ける。
「じゃあ」
エレナが。
車体を見る。
「この『満タン便』の文字は?」
配送帳面が。
反応した。
車体表示――満タン便
表示施工地点――水車町車両返却所
施工時刻――正式受領後
全員が。
黙った。
正式受領後。
つまり。
今から。
誰かが。
車体へ『満タン便』と書くことになっている。
だが。
文字は。
すでにある。
赤い車体の側面。
長い年月。
砂。
雨。
雪。
何度補修しても。
そこに残ってきた名前。
ガランが。
ゆっくり側面へ近づく。
「俺は書いてないぞ」
「俺もです」
誠司が言う。
ロウグ。
エレナ。
サーラ。
誰も。
書いた覚えはない。
三浦直人も。
あとから呼び始めただけだと記録している。
初回納車書類の最後。
名称登録責任者。
その欄が。
まだ空白のはずだった。
しかし。
文字が浮かぶ。
名称登録予定者――佐伯澪
誠司が。
返送受入所の方角を見る。
北方一号。
今は。
佐伯澪。
彼女は。
満タン便が正式受領されるより。
はるか昔から。
この車を知っていた。
そして。
車体へ名前を書く予定者として。
今。
初めて登録された。
その下。
もう一行。
名称登録理由――本人入力待ち
満タン便。
その名前は。
工場が付けたのではない。
第一配送者でも。
誠司でもない。
佐伯澪が。
これから付ける名前だった。
水車町では、「到着」と「正式受領」を分ける運用が作られました。
これにより、満タン便は水車町配送所が存在するより前に到着し、三浦直人が長期仮預かりとして使用していたことが判明。
現在の田村誠司が現況受領検査を行い、水車町配送所として正式に受領しました。
過去へ移動する必要はありません。
到着したのは昔。
正式に受け取ったのが今日。
二つの時刻が、一件の配送記録として残されています。
また、三浦直人の長期仮預かりも正式に終了しました。
しかし受領後に開いた「初回納車書類箱」から、別の事実が判明します。
満タン便の正式な車両名称は、まだ登録されていませんでした。
車体には昔から『満タン便』と書かれているのに。
名称登録予定者として表示されたのは――佐伯澪。
彼女はこれから、この車に「満タン便」という名前を付けることになっています。




