22話 黒い穴
王の死骸の地面にも出現した黒い水見溜り、いや穴?
「「あっあっああ!」」
驚いて見ていると急に蠢きだし、中から黒いゴブリンが大勢、水溜りから溢れるように出て来た。
ネバネバの黒い泥だ。
黒ゴブリン達は王の死骸をつかみ上り、いや、穴に引きずりこむように引っ張っている。
沈むのか?
ビクター「ソニー、あれ何してるかわかるか!?」
ソニー「わ、わからないよあんなのお兄ちゃんっ! 黒魔法だと思うけど……」
ガストン「あれも食べようとかじゃねえのか!?」
男たち「それにしちゃあ様子が……」
マルコ「んおいっその女王ん方もなんか起きてんぞ!」
女王の前の穴から何かがせり出てくる。
マルコ「……ん? あ! 王の腹っぽこだ! ホラっ、手と足と……どうなってんだよ!?」
呆気にとられているうちに、向こうの王の死骸が穴の中に沈みきって消えて、穴はみるみる縮んでそこには何もなくなった。
血だまりもきれいに消えて、倒れた形跡もないただの地面だ。
一方あっちの女王の眼前では、向こうとは違い、うつ伏せに倒れた王の死骸が出現していた。
ソニー「あ!」
一同「「なに!?」」
「げ、下法、あの、黒魔術の中で高等なものの流派の一つに、使っちゃいけない魔法があってですね」
ガストン「使用不可の、高等なもの?」
げほう?
マルコ「は、早く先を言え!」
ズズ。
なに。
王の死骸がゆっくりと動き始めた。
生き返ったぞ?
立ち上がろうとしている動きだな、あれは。
のろのろしてて隙だらけだ。
今斬りに行ってもよいだろうか。
足とか。
……一応続きを聞いておこう。
ソニー「でですね、下法と呼ばれるものの中にですね、あの、言葉にするのも憚られてる流派があるんですが……」
ガストン「禁術の話か?」
ビクター「いいからさっさと言えよ!」
「ひぅ! “死霊術”という術にですね、あるんです!」
禁、死霊術?
ガストン「それがあれかっ!? って生き返ってんぞ!」
ソニー「死者を一時的に動かすアニメイトデッドって術があるんですぅ!」
ふむ。
一時的に、か。
黒いねばねばを糸引きながら、王が復活し立ち上がり、こちらを向く。
眼窩の、あの力強い眼は濁ってて、割かれた首からは黒い泥水のようなものが滴り続けている。黒い水溜りと同じの。
さっきの覇気はもはやなく、しかし、私を見ていた。
なんだかひどく切ない。
「受け取れ」
両手で体を回転させ、槍斧を放り投げる。
ヒュオウッ――ブンブンと回り、奴の元へ落ちるそれを見事に受け止めた。
ガシャアンッ。
一部の者達「「何やってんだあんた!!」」
「あれは王の得物だ。私はこの大剣で相手をしよう」
ジャキ。
少し移動し、大剣を構える。
向こうもこちらに対峙した。
ガシャッ!
ソニー「うわっあげちゃったよ!?」
ビクター「ちょっちょっと、いいんですか先輩! マルコさん!」
ガストンとマルコ「いいから見とけって!」
ガストン「いやぁ~ありゃあいい冒険者になるぞ、なぁ親父」
マルコ「ルーナ! だめそうなら否応なく加勢する! 文句は言わせねぇぞ!」
「承知」
構えたはいいが、王の動きに精彩がない。
消えない黒水溜りも妙だ。
……何かあるかもしれない。
背後の女王も動き出している。
時間は取れないな。
チャキ。
青年「……!?」
武闘経験が一番疎い夜警の青年には、その時エルフの娘の姿が消えたのだそうだ。
ッキィィンッ!
バキャゥゥゥゥンッ!
スヒュンッッズドォォォンッ!!
ビチャビシャアアアッ!
初手、首を狙ったのがバレてたのかはわからないが、先ほどとは違い素早く動いて反応してきた。
槍斧の柄で飛び込み斬撃を防がれた。
そして奴の頭の後ろに、そのまま飛び抜けた状態で体をひねり、後頭部をカチ割ろうとするも、これもまた異常な速度で槍斧を背後に持ってきて防いできた。
まるで別の生き物だ。
更に、弾かれた反動をバネにして逆に横回転してその勢いのまま、落下した位置にある胴体を、横に、渾身の力で斬りすれ違った。
奴の見事な肉体に最早膂力はなし。
と見たのだ。
ただの肉塊を短剣で切り落とすかの如く、すんなり奴は両断された。
ズアアアッ。
少し距離を置く。
皆「「うおお!?」」
断ち別れた動く死骸が黒水溜りに落下する。
妙に水みたい、いや、血か。
黒い血をまき散らした。
「よっしゃああ!!」「すっごえ!」「え? 消えた?」「ええ?」「あ! もう終わってる!?」
ビチャビチャビチャ……。
黒い血だまりを凝視する。
死骸がずり動き、元に戻ろうとするかのように断面と断面が近づいている。
よくわからないが、魔力の強い感じがこの血だまりにあるように思える。
そして死骸には薄く感じられる。
……?
背後の女王がバリバリと音を立てている。
たくさんの矢が折れているような音だ。
ズズズ。
また生き返るのか……。
何度でも戦えるな。それはそれでいいんだが……。
王は居るが、これは彼ではない気がする。
ズズズ。
おかしい。
魔力の感覚を見る。
集中して。
見る。
マルコ「お、おい、ルーナ、近づかねえほうが……」
いた!
跳び上がり、ほぼくっつきかけている死骸を無視し、黒い血だまりに大剣を突き立ててみた。
ビチャズグンッ!
『――――――――――――!!!!』
「うわっ」
なんだこの、引き裂くような声は!?
皆「「うわあ!?」」
血だまりが悲鳴を上げるのを初めて聞いた。
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